うかれる杖とあきれる魔道技師15
「俺に何か用でもあるのか?」
トールに興味があると言っていたカルンに、トールは聞き返す。
「興味あるのかもなにも、大有りっすよ! こっちダナン都市についてから色々面白い事ないか探していたっすけど、着いて早々話せる杖のうわさを聞いたっすよ。それで今回の護衛対象がその持ち主って聞いたから、これはぜひ話を聞きに行かなければと思ってたっす」
興味本位でトール達に話しかけてきたということである。昨今落ち着いてはきているが、まだまだトールはものめずらしいのであろう。
「それでなにが聞きたいのかな?」
「え!? え~と……」
カルンは特に何も考えていなかったようで、問われると頭に人差し指を当てて悩み始める。
その姿を見て、トールは大体カルンの性格が分かったような気がした。御イノシシ様であろう。
「ほら色々と聞きたい事があったんでしょ? どうして話せるのかとか、飛べるのかとか」
横からイオンの救いの手が差し出される。それを聞いてそうだったっすとカルンは元気良く声を上げる。
「それでその辺はどうなんすか?」
「どうといわれても、気がついたら話せていたし、飛ぶことも出来たしな」
全属性保有者によるマスター認証とかは黙っておき、トールはそう答える。そのそもマスター認証についても分かっている事が少なく、またどうして飛べるのかについてはトールにも不明だ。
「そうなんすか、がっかりっす」
あからさまに落ち込んだ様子を見せるカルンに、その横でイオンが必死になって謝っている。
「それじゃあ、こっちからも2人の事を聞きたいんだけど、いいかな?」
「あたい達のことっすか? いいっすよ、もちろん」
「2人は冒険者なんだよね? 街じゃ見かけなかったと思うけど」
通常であれば、ダナンの街は広いため見かけないのが普通である。しかしこの2人は年頃の少女でありながら冒険者をしているという。トールも街をふらついている時に冒険者を見かけることはあったが、基本的に見かけるのはガタイのいい男共であった。
「ああ、それでしたら私達はダナンに着いたばかりでしたからですね。つい先日ダナンにやってきたんですよ。着いたばかりで路銀も少なくなっていたので、この護衛の募集に応じたというわけです」
答えたのはカルンの横で立っていたイオンである。丁寧な口調でトールの質問に答えていた。
「へぇ、そんなんだ。それじゃあその前は何処にいたの? 王都方面とか?」
気になり始めたのか、今度はナーリャが質問をする。ワクワクといった表情である。
「その前はもっと北のほうっすね。今向かっている鉱山よりさらに北の山脈を越えてきたっすよ。途中鉱山都市のロカームを通って、村々を歩いて回ってから、城塞都市ダナンへたどり着いたっす」
「という事は、御2人は国境を越えてきたのですか?」
「そうです。出身は北のボレアース帝国の寒村で、有名になりたくて村を出てきたんです。そうだよね、カルンちゃん」
「そうっす。この槍一本でこのカルンは有名になって、いつかは英雄と呼ばれる人になるんすよ」
カルンは槍を軽く回す。その姿は様になっており、武道一般に精通していないトールでもかなりの使い手だと分かる。
「なので今は、色々な国を回っている途中なんですよ。それでちょうどダナンに着いたときに、護衛の依頼を受けたんです」
ナーリャは都市からほとんど出たことが無く、他の街を渡り歩いてきたカルンとイオンの2人に興味がさらに沸いたようである。リューナも他国は行った事がなく、その話を聞きたがった。
そうして出会った冒険者の2人と一緒に食事を取ることとなった。合計4人の少女達は皆楽しそうにお話に興じている。
そして取り残されるのはトールとリーノ少年となった。
「なんだか蚊帳の外だな」
「女性陣の方々が楽しそうで何よりですよ」
そんな会話をトールとリーノはしていると、トールはふと視線が気になっていた。
街の中でも結構あったのだが、今はそれ以上の、かなりの数の興味の視線がトールを見ているのだ。
「なんか見られているんだけど」
「それはトールさんは珍しいですからね。それに女性の方々もいらっしゃいますから目立つのでしょう」
そういうものかと、トールは考える。街では既に有名杖であったがブームも過ぎてそこまで見られなくなったのだが、やはりまだまだ珍しいという事か。
「それよりもですね、トールさん。その、二三お伺いしたいことがあるのですが」
「聞きたい事? 俺にわかることなら答えるけど」
「そうですか。それじゃあ、その、えっと……」
トールの答えを聞いたリーノは、一瞬顔を明るくし、次にはもじもじとし始める。
「その、ナーリャさんの好きなものってなんでしょうか?」
顔を赤らめながらリーノはそうトールに聞いてきた。
トールは一瞬聞かれた事が分からなかったが、理解するとニヤニヤとした表情、は出来ないので柄を波打たさせリーノへと近づいていく。
「ほうほう。ほうほうほう」
「な、なんですか!? 別にそういった意味は無くですね、ただ単に今回お世話になるので、そのお礼をですね……」
「分かっている。分かっているよ、少年。いやぁ、青春っていいなぁ」
リーノは赤らめた顔をうつむかせ、聞くんじゃなかったと小さく呟いている。トールはというと、前世では結婚もしておらず彼女もいなかったが、こういった少年はからかうのが礼儀だど、かなり捻じ曲がった考えをしていた。
しかし今回はまだ序盤である。からかうのもやめにして答えることにした。
「すまない、ちょっとからかいすぎたな。ナーリャの好きなものと言って思いつくのは、やっぱり魔道具だな」
過去に魔道具についてナーリャに話を聞いた時、まるでマシンガンのようなトークが繰り広げられている。そのためナーリャは魔道具好きという印象を、トールに持たせていた。
「魔道具、ですか?」
「ああ。前に何度か魔道具の話を振ったときに、その食いつきはすごかったぞ。だから送るのなら珍しい魔道具がいいんじゃないか?」
「そうでしたか。ありがとう御座います」
リーノは素直にトールに頭を下げる。こういった所作にも育ちの良さが伺えた。
「それじゃあ今度はこっちが聞きたいんだけど、国境を越えてやってくる人って、結構いるのか?」
トールはその事について少し気になっていた。トールの記憶だと、昔の時代は国境を越えるのにも難儀していた印象が強かったためだ。中世の様相を出しているこの世界でも、同じではないかと思ったのだ。
こういった生きた情報は《知識の泉》に聞くのは難しかったため、リーノへと聞いたのである。
「あの2人の話ですね。現在このクリーオス王国は、北のボレアース帝国とは友好関係を築いており、同盟も結んでいますから人の行き来は多いですよ」
リーノは鉱石の採掘が頻繁に行われている北の国について、かなり詳しいようでトールに色々と語ってくれる。
今いるクリーオス王国は農業と魔道具が盛んな国で、それら輸出する代わりに、北のボレアース帝国から鉱石や宝石、木材などを輸入しているようである。お互いに足りない物を輸出しあう事で、友好な関係を続けているとの事だ。
そういった訳で、人の往来も多く、先ほどのカルンやイオンのような者も、その逆も珍しくないようである。
「人の往来をあまり制限していないのか。良し悪しのような気もするが、今はそういった関係なのな」
人の流出は情報の流出である。トールはそう考えていたが、今はあまり関係ないと思い忘れることにした。
「我がギルドは鉱石を取り扱っている事もあり、かの国の情報は良く集めているんですよ。そのため詳しくなったんです」
「なるほどな。いや、ありがとう。勉強になったよ」
「杖のあなたに言われると、なんだか奇妙な感じがしますね」
「そういうなって。他にもナーリャが好きそうなものが分かったら、教えてやるから」
「な! ボクは別にそういった思惑があるわけでは無くてですね!」
トールはリーノのことをからかい続ける。そうして特に問題も無く夜が更けていった。




