インテリジェンスロッドと双子の出会い5
時は少しさかのぼって、ナーリャが杖を買いに雑貨店「タヌキの尻尾」を訪れる少し前。樽に突っ込まれた杖こと透は暇をもてあましていた。出来ることといえば何か物事を考えることのみである。自分では動けない上に、声は他者に聞こえないようなのだ。
「想像してたのと大分違うよなぁ。こう、もうちょっとやり方ってもんがあるでしょうが」
ここにつれて来られて早3日、結局何度もダルに向かって話しかけてもなしのつぶてであった。あきらめた透は、今ではダルに話しかけずに、同じタルに突っ込まれている杖に話しかけているくらいだ。
「大体声が聞こえないってどういうことだよ。それでどうしろってんだ」
ここ数日色々なものに話しかけ、テレパシー?まで送ったにもかかわらず誰とも意思の疎通が出来ていない。そのため若干ストレスを感じ始め、愚痴をこぼす様になっていた。
そしてそんな折、一人の少女が店へと入ってきた。
「こんにちはダルおじいさん、いらっしゃいますか?」
その少女は、店にはいるとここの店主であるダルへと話しかけていた。ダルは嬉しそうにそれに答えている。
「じいさん、この間の冒険者と対応がまるっきり違うじゃねーか」
そんな透の突っ込みにも一切応じず、でれでれとした表情でダルはその少女、ナーリャへ話しかけていた。
するとダルが奥へ引っ込み、少女がタルのほうへと近づいてきた。
「お、どうだいお嬢さん。俺なんかいい杖だよ」
半分やけっぱちになって自分をPRしていると、ふと少女と目が合った気がした。そして少女は杖|(透)を持ち上げると、興味深そうに全身をチェックし始めた。
「いやん、そんなに見つめないで」
そんなあほなことを言っているとダルが奥から戻ってくる。
「この杖なんてどうだい?魔力がこめられるタイプで、魔道機としても結構優秀だと…
おや、そいつが気に入ったのかい。だそいつは魔力も込められなければ、魔道機としての機能も無いよ」
その一言に心になにかグサッと刺さった気のした透は、心で涙を流していた。知識の杖とはいったいなんだったのだと。
「はい、そうみたいなんですけどなんか気になっちゃって。これおいくらですか?」
「そうだね、500と言いたいとこだがナーリャちゃんは特別だ。400で良いよ」
「良いんですか?すみませんダルおじいさん、いつもありがとうございます」
透はこの言葉にオッシャ!と心の中でガッツポーズをした。こんな寂れた店の一画で、じいさんと二人っきりというのにも嫌気が差してきていた上、今度の所有者は美少女である。嬉しくないわけが無かった。
「いいんじゃて。ナーリャちゃんにはいつも元気を分けてもらっておるからのぅ。そうじゃ、ちょっとお茶でも飲んでいかんかね?」
「えっと、それじゃあお言葉に甘えて…」
そうしてお茶を飲み始める二人。ただ少女の手には透が握られている。
「(なんだろう、美少女にこう全身を握られていると考えると、駄目な感覚に陥りそう)」
まさにアホなことを考えながら、透はお茶会が終わるまでダルじいさんの益体も無い話しに耳を傾けていた。そして小一時間ほどでようやくお茶会は終わり、ナーリャは帰るようであった。
「もういってしまうのかの?もうちょっといてもいいんじゃよ?」
「すみません、店も閉めてきちゃってますし、もうそろそろ戻らないと…」
「そうかそうか、それじゃ仕方ないのう。鉱石は後で持って行かせるから安心しておくれ。またいつでも来て良いからの」
「ありがとうございます。それではまたお邪魔しますね」
ナーリャはダルに別れを告げると、そのまま透を持って店の外へと出て行った。透にとっては数日振りの外の風景である。よく晴れており気分は最高だ。
途中お腹を鳴らし恥ずかしそうに辺りを見回すナーリャを眺めながら、透は気分的ににやけていた。
「(さて、こんなかわいい娘に買われたわけだが、400ってあの爺さん、ドンだけこの娘に甘いんだよ。原材料費じゃねーか)」
通常原価には、製造にかかわるコストなどを乗せて計算するが、その辺お構いなしでポンと透は売られていた。かかっていた費用といえばじいさんの人件費ぐらいなものだが。まあ、それだけナーリャに対して甘いと言う事だろう。
そんなことを考えながら運ばれていると、目的地に着いたのかナーリャが立ち止まった。その視線の先には一軒の店らしき建物と、その前にフードをかぶったローブ姿の人が立っている。
その様子をみたナーリャはそのローブ姿の人に話しかけた。
「なにか御用ですか?」
「すみません、こちらは流れる羽店で間違いありませんか?」
そう尋ねたローブ姿の人、声からして女性だが、ナーリャを見ると驚いた反応をした。
「(ん?知り合いか?)」
その反応が少し気になった透だが、如何せん杖である。まったくもって何も出来ないのである。
改めて自分の体の不便さを痛感しながらも、いい加減諦めようと後ろ向きな決心をしていると、二人は中に入って行くようでそのまま透も店の中へと運ばれていった。
そこは店というには品揃えが閑散としていた。というか見渡す限り1種類しかない。透明なビンに詰まった黒い砂しかないのだ。
だがそのビン詰めに、透は興味が引かれた。中身ではなくビンの方にである。
「(大分透明度の高いビンだな。ガラスか?だとしたら精錬技術はかなりのものだよな?それが結構な数ある)」
透はこの世界の技術度合いに興味を引かれながら、辺りを確認しようとしたがナーリャに店の奥まで運ばれてしまう。
そしてカウンターの上に置かれると、ナーリャとローブの女性は向かい合って座った。
「まず自己紹介をさせてください。私の名前はリューナ、見ての通り魔道技師です」
そういってフードを取ったリューナの姿におや?と透は思った。どこかで見た顔だなと。そして透はナーリャの方へと視線を動かす。すると疑問はあっさりと解決した。
「(そうか。髪の色が違うけど、顔つきがそっくりなんだこの二人)」
その姿にナーリャも驚いたようだった。
「やはり驚きますよね?私も最初見たときは驚いて思考がとまってしまいました」
「はー、そっくりですよね。髪の色とか目の色とか違いますけど、その他はホントそっくりだと思います」
会話をしている二人の脇で透は二人を見比べていた。
「(紅い髪のポニーに青い髪のショートカット。それによく見ると瞳の色も髪と同じかな?なんだかここに来てまたファンタジー度が上がってきたな)」
透はそんなことを考えながら、二人の会話を聞いていた。
そこには何点か気になる話もあった。リューナの働きたい発言と『4大属性』に『学院』、それに『欠陥魔道師』。
特に最後のはリューナも苦労してきたのだろう、話している内に拳に力が入った様子が透にも見て取れた。
「(欠陥に4大属性というからには、その属性の一部、もしくは全てが使えないってことか。そんな揶揄する言葉があるってことは結構な扱いをされるのか)」
そんな思いにふけっていると、突然ナーリャが立ち上がり頭を下げた。その勢いで透はころころと転がりそのまま床へと落ちていった。
「(おわ!落ち、落ちる!)」
ゴトン、と床に落ちるまでの一大スペクタクルを体験し、透は無いはずの心臓が鳴っているのを感じる。たかがカウンターの高さだが、かなりの恐怖を透にもたらしたようだ。
「(うわぁ、怖えよ…アクション映画も真っ青だよ!)」
透が落ちたショックにへこんでいると、ナーリャの声が聞こえた。
「…じつは私も『欠陥魔道師』なんです」
カウンターからの落下という恐怖に慄いていた透は、その言葉を聞いて思考を戻す。
「(じつは、ね。やっぱり一般的に隠すものなのかな。だとしても、なんだかなぁ。せめて話すことが出来ればなぁ)」
なんだか遣る瀬無い気持ちになっていた透だったが、当の二人は少しした後なんだか笑いあっていた。
透はその様子に少し安堵すると、そろそろ持ち上げてくれないかな~などと考えていた。
その願いが届いたのか、リューナが透を拾い上げようとする。そしてカウンター奥から、慌てた様子で透を拾い上げようとやってくるナーリャの姿も透には見て取れていた。
「(あ、なんかやな予感)」
透のその予感は物の見事に的中した。カウンター奥から来ていたナーリャが思いっきり転んだのだ。そのまま二人の手は透の上へと覆い被さってきた。
すると透の頭の中に何かが流れ込んできた。
…魔力属性チェック開始
……チェック完了。同一魔力による全8属性の存在を確認
それは機械的な音声で流れ込んでくる。
……1stプロテクトキー、コンプリート
……マスター認証および『知識の泉』の開封を開始します
そう聞こえるのと同時に透の体は宙へと浮び上がり発光し始める。
「まて!何が起きている!!」
そう叫ぶ透をよそに、機械的な音声は流れ続ける。
……マスター認証エラー
……マスター認証エラー
……マスター認証エラー
…同一固体が複数存在……エラー修正
……………修正完了…ナーリャ・スランツェおよびリューナ・エスクリダオンをマスターと認定
…『知識の泉』開封開始……完了
そう音声が流れる。そして何かが頭の中へ入り込む感覚に襲われる。
しばらくして流入が終わると、機械音声は外界へ向かい高らかに宣言した。
「認証クリアー、ナーリャ・スランツェおよびリューナ・エスクリダオンをマスターと認定」
光は徐々に弱まり、そのままポトリと透は床へと落ちた。辺りの二人は突然の発光に対応仕切れなかったのか、まだ目を手で覆っている。
床に落ちた透は、何が起こったのかわからず思わずつぶやいた。
「なんじゃこりゃ。急になんなんだよ」
そう透がしゃべったのだった。




