インテリジェンスロッドと双子の出会い4
「立ち話も大変ですので、一旦なかに入りませんか?」
ナーリャはそう提案し、店の中へと入っていく。それにローブの女性も続いていく。ナーリャはとりあえずカウンターの上に杖を置き、奥から向かい側に椅子を持ってきてどうぞと進める。
カウンター越しに両者が向かい合って座ったところで、ローブの女性は話しを切り出した。
「まず自己紹介をさせてください。私の名前はリューナ、見ての通り魔道技師です」
そういうとかぶっていたフードを取る。年のころは16才前後のまだ少女といっていい綺麗、というより可愛らしい風貌だ。十人いれば九人が振り向くであろう。だがその姿を見たナーリャはそれとは別の意味で驚き、彼女を見ていた。
青い髪をショートカットにまとめており、その瞳もまた青い。だがその色はこの世界で別に特別というわけではない。ナーリャが驚いた理由、それは顔つきであった。
顔つきが瓜二つなのだ、ナーリャとリューナは。
「やはり驚きますよね?私も最初見たときは驚いて思考がとまってしまいました」
そういうリューナに対し、ナーリャもうんうんとうなずく。
「はー、そっくりですよね。髪の色とか目の色とか違いますけど、その他はホントそっくりだと思います」
まるで自身の鏡を見ているようだとナーリャも言う。ナーリャが紅い髪を後ろに束ねているのと紅い瞳に対して、リューナは青い髪をショートカットで整えていて、青い瞳である。しかしその他の顔がそっくりなのだ。
「あ、すみません。私の名前はナーリャといいます。それでお話というのはなんでしょう?」
相手の顔を見た衝撃ですっかり忘れていたナーリャであったが、思い出したかのように当初の話に戻した。つまりお願いの件である。
その言葉を受け、少し緊張した様子でリューナは話し始めた。
「はい。サーフィ殿に以前お世話になったことがあり、その時に困ったときには頼ってよいと言ってもらえまして。それでこうして赴かせて頂いたのです」
サーフィ、つまりナーリャの祖母だ。だから最初に彼女に不在を聞いたのだろう。
人を疑うことをあまり知らないナーリャは、わざわざおばあちゃんを訪ねてきてくれた人を追い返そうとは思わなかった。それどころか困っているなら助けなきゃ、と心の内側で使命に燃えていた。
「そうなんですね、分かりました!おばあちゃんはいないけど、私に任せてください!」
話し半分でいきなりの太鼓判を押すナーリャ。その様子にリューナ驚き思わず言ってしまう。
「あの…まだお願いの内容をお話ししていないのですが…」
「あっと、そうですよね。すみません、なんだか先走っちゃって。それでどういった内容でしょう?」
てへへと頬をかく。その様子に少し緊張がほぐれたようで、リューナは本題に入る。
「それで、お話するのもお恥ずかしいのですが。…私をここで働かせ頂けないかと」
それを聞いたリューナはえっ?と聞き返す。それはまったく予想していなかったことだった。そしてそれはリューナの着ているローブに原因があった。
魔道技師協会の青い刺繍が入ったローブ。それは王都にある学院に在籍する証だからだ。
学院、正式名称はクリーオス王国立魔道技師学院。諸国有数の学院として有名で、王国内のみならず海外からも留学生がやってくる。将来のエリート魔道技師の卵たちが日々勉強をするところである。
そんなところに在籍しているはずのリューナが、なぜこんな王都を離れてまでこの店にやってきて働かせてほしいなどといったのか。ナーリャにはまったく想像が出来ずに聞き返していた。
「えーと…その青い刺繍がはいったローブは学院のものだよね?」
「はい、そうです」
「じゃあ、どうして王都を離れてまで、うちの店で働きたいだなんて?」
その質問にリューナは少しうつむくと、何かを決意した表情で答えた。
「…実は私『欠陥魔道師』なんです」
『欠陥魔道師』
通常誰でもこの世界に存在する4大属性、火、水、風、土の魔力を強弱はあるが持って生まれる。それらの魔力を使い、人は様々な現象を起こす。料理で使う種火から、涼むための送風、雑草を抜くときの土の除去、それに顔を洗う水までと様々に使用されている。
ただし例外もある。それが『欠陥』もしくは『欠陥魔道師』と呼ばれる人である。
それは本来4属性を持つはずが、何らかの理由で持っていない属性があって生まれた人のことを指す。欠けた属性に関しては通常一切干渉が出来なくなってしまう。そしてそれは魔道技師にとって致命的といわれている。
魔道技師、つまり魔力の宿った道具を作る人々は4大属性を操り、様々な効力のある魔道機を作ることを生業とする。そこには1属性だけでも欠けると、魔力を操り魔道機を作るための既存の魔法陣から、下手をすると誰でも使用可能な魔道機でさえ動かない場合もある。一応操れる魔力だけで魔道機を作ることも出来るが、それには大分制約がかかる。
「学院では机上学問で実技をごまかしながら何とかやってきました。しかしやはりこの制約では苦しく、落第寸前まで落ち込みました。そして学院よりひとつの課題が出されました」
「その課題って?」
思うところがあるのか、ナーリャはその話しを真面目な顔で聞き続けていた。馬鹿にされることも少なくないこの症状に対し、何も言われないことに安堵しながらリューナは話しを続ける。
「…協力を得てもいい。1年間のうち4大属性全ての篭った魔道機を作り上げろと」
それは到底なしえないことであった。他者の魔力は通常反発するのだ。魔道機のある部分を人に任せて、他の部分を自分で作った場合、魔力反発が起こって壊れてしまう。
「つまりは実質の退学処分なのでしょう。でも、私はまだあきらめ切れないのです」
くやしそうに握りこぶしを作りながら、リューナはつぶやく。
「そのときに思い出したのです。この症状を知って、それでも手を差し伸べてくれたサーフィ殿を。それで藁をも掴む気持ちで此方まで来たのですが…」
「でも、おばあちゃんはもう…」
「はい、ですがあのサーフィ殿の店ならばなにかしら見つかるのではないかと思い、働かせて頂けないかと申し上げた次第です」
そういうと、リューナは一息つく。熱が篭っていたのであろう、手のひらはじんわりと汗で湿っていた。
「それで如何でしょう?あまりお役に立てないことは承知で、お願いできないでしょうか?」
別にこの店だからといって何か解決する訳ではないのは重々理解しているのであろう。ただそれでも頼りにしてしまうのである。その気持ちはナーリャにとっても、よく分かるのだった。そう、よく分かるのだ。
ナーリャは急に立ち上がると、リューナに向かって勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!」
頭を下げた勢いで、カウンターの上に置いてあった杖はころころと転がり、リューナのほうへと転がり落ちた。
その様子に、リューナはやっぱりかと思い、うつむく。
「そうですよね。すみません、無茶なお願いをしてしまって」
話しが出来たことで多少すっきりしたのか、リューナは笑顔でそう答える。
「いえ、そうじゃないんです。お店で働いてもらっても、私じゃ役に立つことは出来ないと思って…」
頭をあげ、そう言うとナーリャは続けた。
「…じつは私も『欠陥魔道師』なんです」
そのナーリャの言葉にリューナは驚きを隠せなかった。自分以外のものに出会ったのはこれが初めてだった。
「わたしは火と土の属性しか操れないの。だから私も痛いほど気持ちは分かります。でも、だからこそお役に立てないと思って…」
そう言ってナーリャは再度頭を下げる。
「…私は水と風しか操れません。あわせれば、これでちょうど4大属性が揃いますね」
ふふっ、と笑いながらリューナは言った。それを聞いたナーリャもそうですね!と笑う。
互いに笑いあった後、リューナはナーリャに向かって言った。
「ナーリャさん。やはりここで働かせてもらえないでしょうか?なんとなくここでなら上手くいく気がするんです」
「リューナさんさえ良ければ。あんまりお給金出せないかもですけど」
そう冗談ぽくいって、またお互い笑いあう。話をしていたときの重い雰囲気はなくなっていた。
「そういえば杖が落ちてしまってますね」
そういってリューナは杖を拾おうとする。ナーリャはそれを受け、大丈夫ですーといいながら慌ててカウンターの反対側から出てくる。
よほど慌てたのか、杖を拾おうとするリューナの目の前で思いっきり転んだ。
「あう!」
「きゃ!」
二人はそのまま倒れこんだ。倒れこんだ先には杖があり、ちょうど二人の手が杖の上に置かれる。
「あいたたた…ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
「いたたたた…はい、大丈夫です」
そうして起き上がろうとした次の瞬間、杖からまばゆい光が発生した。そしてそのまま空中へと浮かびだす。
突然まぶしさに、咄嗟に二人は目を手でかばう。
「なに!?なんなの!?」
「一体なにが!?」
二人が叫んでいると、光の中心である杖から音声が発せられた。
「認証クリアー、ナーリャ・スランツェおよびリューナ・エスクリダオンをマスターと認定」
光は徐々に弱まり、そのままポトリと杖は床へと落ちた。そして一言。
「なんじゃこりゃ。急になんなんだよ」
そう杖がじゃべったのだった。
16年8/16
誤字修正 ナーリャ←ナーシャ




