うかれる杖とあきれる魔道技師13
トールは集中して箒作成に取り掛かっている2人に、魔法陣のことを聞くのも悪い気がして、単語にあたりを付けて《知識の泉》へと物作り魔法陣について問いかける。
時間はかかったら2人に聞こうと決めていたトールであったが、思いのほか簡単にヒットした。
……形状変化の魔法陣:魔力を込める際思い描いた形状に物質の形状を変える魔法陣。魔法陣の構成は――
説明とともに、魔法陣の形状が図で現れる。鉱山ギルドの店で2人が描いていた魔法陣である。
トールは早速《守護者の巨人》を使って光る腕をだすと、ペンを持ち魔法陣作成に取り掛かる。魔法陣作成など初めてであったが、この《守護者の巨人》によって作り出された光る腕の性能は、思いの外高いようで綺麗な魔法陣が出来上がっていた。
「これは……」
想定通りに動く腕を作り出した《守護者の巨人》に、トールは感嘆する。今まで図面を引く際には製図道具を使用していたため、この精密に動かせる腕には気がついていなかった。
そうして魔法陣を描きだしたトールは、早速とばかりに魔法陣の上に木を置く。作ろうとしているのは木のボルトである。材質に関係なく、想定通りのものが作れるのかを試したいと考え木を選んだのである。
「さて、うまくいくかな?」
1割の緊張と9割のワクワク感を持って、トールは魔法陣に魔力を送り始める。すると、魔法陣が徐々に光りだすと同時に、頭の中がなにか読み込まれているといった感覚になる。
トールがそのまま魔力を送り続けると、魔法陣の上に置かれた木が徐々に形状を変化させ、そして目的の形状であるボルトの形となった。
「よし、上手くいった。成功だな」
自身の手によってその形を成したボルトに、トールは深い感慨を受ける。設計者として生きてきたが、自分が製品を作り出すということはほとんど無かったためである。
「あれ、トール。それ魔法陣で作ったの?」
魔法陣化にあーうーと唸っていたナーリャであったが、トールが木のボルトを魔法陣で製作していた事に気が付いたのか声を掛けてくる。
「ああ、なんとか上手くいったようだ」
「すごいね、そんな事も出来ちゃうんだ。そういえば魔力の方は大丈夫?」
以前魔法陣を起動させたとき、トールはすぐさま自身の魔力切れを起こしていた。しかし今回は特に問題が無い感じである。
「そういえば大丈夫だな。魔力切れは起こしていなさそうだ」
「そっか。魔力の貯蔵できる量が増えたのかな?」
「たぶん《守護者の巨人》の機能が追加された事で、魔力保持量が増えたんじゃないかな」
そう自分の推測をトールが述べていると、リューナも気がついたのかこちらにやって来た。
「どうかしましたか? ナーリャさんは魔法陣化できたんですか?」
「えっと、ほら! これ見て! トールが作ったんだよ」
何かを誤魔化すかのように少し大仰に声を上げるナーリャに、リューナはハァとため息をつくと、トールが作り出した木のボルトを摘む。
「これをトールさんがですか。かなり精密に作られていますね」
リューナは木のボルトを上下左右へと動かして、つぶさに観察している。
「思いの外上手くいったよ」
「でね? トールは前は直ぐに魔力が切れちゃってたんだけど、今回は大丈夫そうなんだって」
「魔力切れ……そういえば小さなゴーレムに魔力を込めたら、魔力切れを起こしていたんでしたっけ。そうなると今回の必要魔力量はあの時より多いはずですから、魔力の保持量が増えていると考えて差し支えなさそうですね」
リューナは木のボルトを置くと、トールの方へと近づいてくる。
「しかし自分で魔法陣まで作成して、起動することも可能なのですね。空飛ぶ箒より、トールさんを調べて売ったほうがお金になりそうです」
若干マジな目で見つめるリューナに、トールはうろたえながらも何とか否定する。
「ほら、俺って珍しすぎて買い手が付かないんじゃないか?」
「冗談ですよ。本気にしないで下さい」
「そうだよ。トールは売らないんだから」
あっさりとそう告げられ、トールはなんだか疲れた気持ちになっていた。
「さて、それじゃあトールさんも魔法陣を描き込むことが出来そうなので、こっちを手伝ったもらえますか? 何処に刻むかは私が指示しますから」
「そうだな。それじゃあ手伝いますか」
トールはリューナとともに、箒の各箇所に魔法陣を刻む作業をし始める。ナーリャは重力操作の魔法陣作成に戻っていく。
しばらく作業をし続け、ナーリャが存外に早く魔法陣化に成功した事もあり、箒へ必要な魔法陣を刻み込む事を終えた。
「あとは刻み込んだ魔法陣に、これをつめて固着させていく作業ですね」
リューナは棚からある粉末を取り出した。それは黒く、細やかな粒子で構成されている。
「これは?」
「魔石の粉末だよ。魔力インクだと、一回使っただけで効果を失っちゃうから、繰り返し使うのにはこういったものを固めて魔法陣を完成させるんだよ」
「そうですね。本当はその属性に合った宝石の粉末を使うのがいいのですが、重力の属性に合った宝石なんてまだ分からないですし」
一般的に認知されている4属性ならばともかく、その他の属性である重力、光、雷、時空はまだ不明な点が多い。トールも《知識の泉》を使って調べてはいるが、検索能力の不便さからあまり進んでいないのが現状であった。
「それじゃあ刻んだ魔法陣の溝に、その粉末を入れていけばいいのか?」
「そうです。お願いしますね」
「出来たら呼んでね。わたしが固めていっちゃうから」
そういってナーリャが取り出したものは、高山ギルドでポンプを作ったときに使用したスライムの粘液である。
「そいつを使うのか?」
「そうだよ。上からかけて、そのまま魔力を流して固めちゃうの」
なるほどと理解して、トールは魔法陣の溝に魔石の粉末を充填していく。一つの魔法陣に充填し終えると、今度はナーリャがその上からスライムの粘液をかけてそれを固めていく。
すべての魔法陣に魔石の粉末を充填し終え、そうして空飛ぶ箒試作1号が完成した。
「これでよしっと。それじゃあちょっと試してみようか」
早速とばかりにナーリャは箒を持って裏庭へと出て行く。リューナとトールもその後に続いて裏庭へと出て行った。
「さて、それじゃあどっちが試そうか?」
「では最初は私が。属性変換が上手くいっているかも、試さなければなりませんし」
現時点で重力の魔力属性を所持しているのはナーリャだけである。そのため外部から供給された魔力の属性を、重力へと変換させるための魔法陣も備え付けていた。
「それじゃあ跨って」
リューナは箒に跨ると、魔力を送り始める。刻まれた魔法陣はそれぞれ薄く発光し始め、箒を照らし出し始めていく。
「それじゃあ、始めはゆっくりと……」
リューナはゆっくりと念じながら、箒へと意識を向けていく。
その思念に作用されたのか、リューナの体は箒とともにゆっくりと浮び上がっていく。
「姿勢制御は問題なさそう。魔力消費量も何とか。あとは意思によってどれだけ自由に飛べるか、ですが」
「もうちょっと高く飛んでみたらどうだ? 俺もついていくから」
「お願いします、トールさん」
リューナはあ徐々に高度を取り始める。トールはそれについていくように、リューナの横で高度を上げ始めた。
リューナは家の半分ほどの高さまで飛ぶと、一旦停止したがすぐさまさらに高度を上げる。そしてその高さは家を飛び越え、その倍ほどまで飛び上がっていた。
「これが空を飛ぶ感覚ですか……」
上空から街を一望しながら、リューナは感動に震えていた。空を飛びあがってみる光景は、今までのリューナの感性を塗りつぶしてしまうような迫力があったのだ。
「すばらしいですね、トールさん」
「ああ。人は小さく、家々もまるで積み木で出来たおもちゃのようだな」
トールも今までここまでの高さまで飛んだことは無かった。それに、元いた世界で高いところから見下ろした経験はあったが、ここで見る景色はまた格別の感動をトールにもたらしていた。
そうして高いところで景色を眺めていると、リューナが若干上下へふらつき始めた。
「重力は完全に遮断できているわけではないですから、微調整が困難ですね」
「そうか。一旦降りるか?」
「そうですね。このまま飛び回るのも問題な気もしますし、ナーリャさんも待っているでしょうから」
そういって空を舞っていた1人の少女と1本の杖は、地上へと戻っていった。




