うかれる杖とあきれる魔道技師12
ポンプや配管類の材料が整うまでの間、トール達は鉱山ギルドに行く前に話していた事柄について話し合っていた。そう、空飛ぶ箒についてである。
「今回の報酬でかなりの額がもらえそうだけど、やっぱりお金はあったほうがいいよな」
「そうだね。2人が来るまでほとんど火薬しか売れなかったから、実は結構家計が火の車だったんだよね」
「店の帳簿を見せて頂いた時は、一瞬目の前が暗くなりましたよ」
そういった訳で、食事を終えナーリャの店『流れる羽』店に戻ってきた2人と1本は、改めて空飛ぶ箒について話し合っていた。
「重力軽減の魔法だったら、この間ちゃんと魔法陣化に成功したから大丈夫だよ」
どや、と言わんばかりに胸を張りアピールするナーリャ。その横でリューナが私も手伝いましたけどね、と呟いている。
「重力軽減は魔力もそんなに多く使わなかったし、あとはどうやって自在に方向を変えるかだけど」
「そうですね。それにはこれがヒントになるのではないでしょうか?」
そういってリューナが持ち出してきたのは、先日飛ばしていたおもちゃの紙飛行機であった。
「ここに描き込まれている魔法陣は、このおもちゃの前方より緩やかではありますが、風を送る機能を持っているみたいなんです」
風の流れを安定させ、一定の揚力を得る事で飛行を安定させているのだろう。そうするとこれを作ったナーリャの祖母は、経験的なのか揚力の存在を知っていたのかもしれない。
トールはそんな事を考えながら、リューナの話を聞いていた。
「この魔法陣を改良すれば、空飛ぶ箒で浮かんだ時に風を受け、好きな方向へと飛ぶことが出来るのではないかと」
乗っている人が帆となり風を受け、目的の方角へと進む。リューナはそう提案しているのである。
「それなんだけど、そうすると風を受けてクルクルと回転しないかな?」
今度はナーリャの意見である。箒に跨って乗った人が風を受けると、重心を基点に回ってしまうのではという事だ。
トールは、あれこれ話し合っているナーリャとリューナの会話を聞いているうちに、一つの事が思い上がった。重力を軽減して空を飛ぶならば、重力を操作できれば話が早いと。
そんな魔法があるのか、早速幾つか単語の候補を選び、《知識の泉》へと問いかけてみる。
……重力操作の魔法:vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC HOma nmgD ayuR cmayJ arC
……重力操作の魔法 効果:対象に対し、術者の任意の方向へ引力をかける。
目的に沿った魔法が見つかり、トールはホクホクした表情、は分からないが気持ちでナーリャとリューナへ伝える。
「ちょっと調べてみたところ、重力を操作できる魔法があるみたいなんだ。これは使えないかな?」
議論していた二人は、それをピタッと止めるとトールの方へ向く。その表情はどうやら若干不機嫌の様である。
「あるなら最初から言ってよ、トール」
「そうです。それに議論の最中に一気に解決策を出されると、それはそれで遣る瀬無い気持ちになります」
二人の不満に、元はといえば技術者であったトールは、その気持ちも分かると思い謝罪する。
「すまないすまない。それでどうする?」
「それを魔法陣に出来るかはともかく、わたしはその魔法知りたいな」
「私も興味あります。ナーリャさんに教えてあげて下さい」
二人の了承が得られたので、トールは《知識の泉》の発声機能をつかい呪文をナーリャへと伝える。
ちなみにこの呪文による魔法、どうやってもトールには使用できなかった。何度か試してみたはいいけれども、一向に発現しなかったのである。
「vawJ xmQI mxXeUCdn ……えっと、dzUC HOma nmgD ayuR cmayJ arC」
ナーリャは口の中で何度か呪文を呟き、確かめる。そして覚えきれたのか、手をトールの方へと向けると、呪文を唱えだした。
「vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC HOma nmgD ayuR cmayJ arC」
「へ?」
トールがナーリャの魔法が自分に向けられた、と思った瞬間に自身の上方へと引っ張り込まれる感覚を味わう。そしてそのまま天井まで飛んでいった。
「おわぁぁ!」
トールは天井まで引っ張り上げられると、何とか抵抗を試みるもそのままドスンと音を鳴らしてぶつかった。
「おお~すごいね」
「なにをしているんですか、ナーリャさん」
目を開き驚いた様相をしているナーリャに、リューナ呆れた様子で額に手を当てて天を仰いでいる。
「いきなり酷いじゃないか」
天井へと引っ張りこまれたトールは、自身の浮遊の力を下方向へ使ってナーリャ達の前まで降りてきた。
「えへへ、ごめん。なんだかトールを見ていたら、無性にやってみたくなっちゃって」
「せめてやるなら一言いってくれよ」
「やるのは構わないんですか」
2人と1本がじゃれ合っていると、トールが急に地面へと落ちる。魔法の効果が切れたのである。
「うわ、そりゃあこうなるか」、
今まで上にかかっていた引力に逆らうように、トールは浮力を下方向へ向けていたのであったが、重力操作の魔法が切れたため上方向の力が無くなり、下方向の浮力のみとなってしまったためである。
「結構効果時間は短かったね」
「ナーリャさん、魔力はどの程度込めていたのですか?」
「だいたい重力軽減だと1時間ほど持つ程度だよ。長時間これで空を飛ぶのは難しそうだね」
「お二人さん、議論はいいんだが俺を無視しないでくれ」
先ほどとは逆に地面に叩きつけられたトールは、今度は普通に上方向の浮力を働かせ飛び上がる。
「さて、魔力の消費量といったのものは二人に任せるとして、魔法陣化は出来そう?」
「う~……たぶん」
「私も協力しますから、がんばりましょうね、ナーリャさん」
以前も重力軽減の魔法を魔法陣化するのに手間取っていたナーリャは、リューナの励ましと協力の約束を取り付け、何とかがんばってみると答えていた。
「さて、それじゃあ何とか目処も立ちそうだし、空飛ぶ箒を作ってみるか」
「それでしたら、私は箒に重力軽減の魔法陣を刻み込むことから始めます。ナーリャさんは重力操作の魔法陣化をお願いしますね。私も魔法陣作成の傍ら、手伝いますから」
「お願いね、リューナちゃん」
2人と1本は方向性が固まると、早速とばかりに作業に取り掛かるため工房へと移動する。
ナーリャとリューナが空飛ぶ箒作りを頑張っている間、トールは自分のゴーレム設計に戻っていた。今日見た魔法陣による物作り製作工程を忘れないうちに、図面に手を加えたかったためである。
「あそこまで簡単に作れるとは、もうちょっと複雑な機構でも大丈夫そうだよな」
「ん? トールなんか言った?」
「ごめん、独り言だ」
思わず口に出ていた独り言をナーリャに反応されて、素直にトールは謝る。
トールはポンプを作り出していた魔法陣を思い出していた。ナーリャとリューナの二人によって、どんどんと形状を変えていく材料たちに、トールは感激していた。ああ、自分もあの魔法陣を使いたいと。
ふとトールはそう考えると、自分でも使えるかもしれないなと思い立った。魔法自体は使えなくても、魔法陣を過去に起動させたことがあったためである。




