うかれる杖とあきれる魔道技師11
魔法陣の上には、トールの考えていた通りの手押しポンプが置かれていた。
ナーリャとリューナは、それを退けると次々を魔法陣を起動させ部品を作っていく。
「これが魔道技師の力ですか……」
初めてみたのか、少年のリーノはその光景に驚きを隠せなかった。そしてそれはトールも同じである。
「(まさかここまでとは。細かな寸法とかどうなっているんだ?)」
驚嘆していたが、トールはその事を外へは出さなかった。というよりは杖に表情が無いため出なかったのである。しかしトールは、これでゴーレム作りも捗りそうだと、内心喜んでいた。
「いやはや、魔道技師という方々は改めてすごいですな」
「ええ、これぞ神に与えられし力でしょう」
この光景を見たことがあるのか、あまり驚いた様子が無いままセービアとブランシュは賞賛の声をあげる。
「さて、これで完成かな?」
ナーリャは全ての部品を作り上げ、最後に木でできたピストンを持ち上げる。そして腰のカバンから一つのビンを取り出した。
「それでなにをするんだ?」
トールはその薄く青がかった液体を見て、ナーリャへと問いかける。
「これはね、スライムの粘液でピストンの周りに塗って、そこから水が漏れないようにするんだよ。トールの説明だと動物の革って言ってたけど、たぶんこれで大丈夫だと思うんだ」
ナーリャは刷毛を使って、ピストンの外周部にスライムの粘液を塗り始める。一通り塗り終えると、今度はそこに手をかざし魔力を送り始めた。
「こうやって魔力を送ると、適度な硬さになるんだ。これだったらここから水が漏れたりしないでしょ?」
トールは光る腕をだすと、スライムの溶液が塗られた場所を触ってみる。その感触はまるでゴムを触っているようだった。
「ああ、これなら大丈夫そうだ。まるでOリングみたいだな」
「オーリング?」
「こうやって、漏れとかがあると困る箇所に使うものだよ」
Oリングの説明を簡単に済ませると、トールは各部品を並べながら確認していく。
「ハンドルとボルトと、ピストンにねじに弁っと。よし、大丈夫そうだな」
トールは再度光る腕を出し、それぞれの部品を組み立てていく。30分程でそれは完成した。
「よし、これで大丈夫なはずだ」
ちょっとした達成感を感じながら、トールは完成した事を告げる。それはトールの概要図に描かれていた通りの形状をした手押しポンプとなっていた。
試しにハンドル部を上下に動かし、動作に不備が無いかを確かめる。
「ほう、これがポンプを言うものですね。見事なものだ」
トールがハンドルを上下に動かしているのをみたセービアは、私もと言って動かし始める。ハンドルは大きな抵抗もないまま、スムーズに動いた。
「さて、あとは実際に試すだけですね。セービアさん、済みませんがどこか試せるところは無いですか?」
「そうですね。それでしたら大きな桶を用意させましょう。裏庭がいいですかね」
リューナの願いに、セービアは人を呼び裏庭に桶を持ってくるように伝える。
そして一向はリーノの案内の元。店の裏庭までやって来た。既にそこには桶が置かれており、水が一杯まで貯められていた。
「さて、それじゃあ試運転といきますか」
トールは水の入った桶の中にポンプを入れると、一度ポンプの上から水を入れハンドルを動かし始める。
何度かトールが上下にハンドルを動かすと、胴体側面部に設けられた排出口から勢い良く水が飛び出してきた。
「よし、成功だな」
ざばざばと勢い良く流れ出る水に、一同は感嘆の声を上げる。
「なるほど。この勢いがあれば、冠水した鉱山の水を捌けさすのも楽ですね」
「ああ。あと配管と、中継地点が必要になるかもだけどな」
トールはこの手押し式ポンプの事を思い出しながら話をする。
この方式のポンプは水を吸い上げる事で、排水を行うのである。この吸い上げるという行為は、実は大気圧が関係している。要は中を真空状態にして、外の大気圧と圧力差を設ける事で吸い上げているのである。
したがって、大気圧以上の力が必要になる深さでは、この方式のポンプは水を吸い上げきれなくなってしまうのだ。ちなみに限界は約10mほどといわれている。
「そういったわけで、鉱山の中に何箇所か中継点を設けて、そこに水を排出、排出された水をさらに吸い上げて、といった工程が必要になると思う」
「ふむ、そうなりますとやはり御三方には、鉱山のほうへと行って頂いたほうがよろしいですね」
「はい。わたし達もそのつもりです」
「ええ。配管も必要となると、やはり私達が直接現地へ行ったほうがよいでしょう」
ナーリャとリューナも最初からその気であったため、すんなりと同意する。
「そうですか、それは助かります。私は少々用事が御座いまして、このリーノをお供に付けさせたいと思います。また、必要な材料が御座いましたら、それも一緒に運ばせましょう」
「宜しくお願いします」
リーノは二人に勢い良く声を出すと、頭を下げる。
その様子を微笑ましく見ていたブランシュは、ふと何かに気がついたような素振りをみせる。
「すみません、私もそろそろお暇させて頂きます。本日は有意義な時間を過ごさせていただき、ありがとう御座いました」
ブランシュは綺麗にお辞儀をすると、それではと言って店の裏庭より退出していった。
残された面々も解散の流れとなり、トール達は必要となりそうな材料のリストをリーノへと渡す。そのリストを見て、リーノは5日あれば揃うと言ったため、鉱山への出発は材料が整う5日後となった。
気がつくと既に天高くに日が昇り、その日差しを一心に振りまいている時刻となっていた。2人と1本は鉱山ギルドの商店をでると、とりあえず昼食をシアラの店である『飛跳ねる雌鹿亭』でとる事にし、そこへと向かっていた。
「結構な大事になっちゃったねぇ」
「そうですね。鉱石の買取は難しいと思ってはいたのですが、こんな事になるとは」
「あーその、すまなかったな、本当に」
トールは居た堪れない思いから、謝罪の言葉を口にする。しかしナーリャはそんなトールをぺちっと叩く。
「だからそれはもういいってば。さっきも言ったけど、鉱山で働いている人たちの役に立てるのは嬉しいからね」
「そうですよ。それに面白いものも見れましたし、作れもしましたから」
ナーリャとリューナに励まされ、さすがにこれ以上気にしていると返って悪いと思ったトールは、とりあえず罪悪感をおいておく事にした。
「それじゃあ、飯にするか。俺は食えないけどな」
トールは少女達に励まされ、なんだか気恥ずかしくなって体である柄をうねらせると、努めて明るくそんな事を言った。そのトールのいつもの悪ふざけに、ナーリャとリューナは笑いながら『飛跳ねる雌鹿亭』へと向かっていった。




