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うかれる杖とあきれる魔道技師10

 

 リューナのその言葉に、リーノは驚いた表情となる。


「この場で、ですか?」


「はい。今から私とナーリャさんで現物の試作品を作ろうかと思います」


 リューナの言葉に、ナーリャも手を上げた。


「たぶん図面とか見てもいまいち実感がわかないと思うので、わたしとリューナちゃんでこれを作ってみようかと思うんです。ただ材料が無いので、それを都合してもらえないかなと」


「いや、材料を用意するのはかまいませんが、直ぐにできるものなのですか?」


「はい。先ほどその準備も済ませましたし、大丈夫だと思います」


「ふむ、それでは魔道技師のお二人の実力を拝見させていただきましょう」


 セービアはベルを鳴らして人を呼ぶ。直ぐに一人の女性が中へと入ってくる。


「セービア様、お呼びでしょうか?」


「今からこのお二人が言う材料を、準備して下さい」


 女性は承知しました、と言いナーリャ達のほうへと向く。


「えっとそれじゃあ……」


 ナーリャとリューナはそれぞれの材料を言い始める。本体の部分は水に強い材料という事で、トールが聞くに青銅に近い材料であるアエス合金、ピストン部分は水に強い樹であるバリス樹を求める。その他の部分はそれなりの強度があるフェッルム鋼を選ぶ。

 材料の準備が整う間、ナーリャとリューナは揃って必要になる魔法陣の作成へと取り掛かる。

 その準備をしている間、ブランシュがトールへと話しかけてきた。


「えっと、あなた様は最近うわさになられている空飛ぶ杖の方でしょうか?」


 どう話をして良いのか分からないのか、ブランシュは言葉を選びながらトールに話しかける。


「ああ、そうです。トールといいます。改めまして宜しくお願いします」


 トールは最近持ちネタになりつつある柄の先端を宝玉の下まで待ちあげて、胸に手を当てるように挨拶をする。

 その挨拶に、ブランシュは普通に挨拶を返した。


「ご丁寧にありがとう御座います。先ほども名乗りましたが、司祭のブランシュと申します」


 ブランシュも丁寧に挨拶を返してくる。トールはちょっと滑ったかなと少し後悔をする。


「それで、俺に何か話しでも?」


「ええ、前々から少しお話してみたいと思っておりましたの」


 トールは正直なところ、あまり話しをしたいと思っていなかった。というのも宗教についていい思いをしていないというのがあったからだ。正確にいうと中世の宗教といったものにだが、歴史を紐解くとあまりかかわっていいことがないと認識していた。


「まあ、聞きたいことがあるなら」


「ありがとう御座います。常々疑問に思っていたのですが、人ではない方にも、神はご加護を与えて下さると思いますか?」


 いきなりの宗教話である。トールは身構えると、答えを模索する。


「神は万物にその愛を示してくれるものではないでしょうか? 詳しくは分かりませんが」


 トールは考えた末、かなり無難に答える。はっきり言ってどのような宗教形態なのか、まったく分からないためどう答えていいのかが輪からない。

 だが、その回答にブランシュは満足したのか、笑顔となりトールへと語りかける。


「やはりあなた様もそう思われますか。神々は常に我らを愛し、我らを見守って下さると」


 手を胸の前で組み、目を瞑り祈るようにそう声に出すブランシュ。

 その様子に、間違った答えはしていなさそうだとトールは安心した。


「神々が作られた我ら人の子と、人が作り上げたであろうもの達は、やはり変わらず神々の恩寵を受けているのであると、そう私も考えておりましたの」


 トールが同じ意見だったのか嬉しかったのか、ブランシュはすこしテンションが上がっているようだった。


「えっと、その、すまないがあまり神について詳しくないんだ」


「あら、そうだったのですね。それでは少しお教えいたしましょう」


 ああしまった、と内心トールは後悔をする。宗教家にその宗教の話を聞けば、そりゃあそうなるに決まっている。


「昔々、この世界がまだ人が住んでいないくらい昔の話、この世には神々が生活を送っていました。その神々はこの地に根付く生命たちを、その慈しみの心を持って導いておりました」


 これは長くなるパターンだ、とトールは観念する。しかし聞いておいて損はないと考えを改め、少し気合を入れなおす。今後宗教に関わらないとも限らないからである。


「神々はそのお力を持って、世界を徐々に広げていきました。しばらくして、世界は果ての無いほど大きくなっていったのです。しかしその時、ある神が言いました。この果て無き世界を統治するのは我が相応しい、と」


 ブランシュ目を瞑り、祈るように説法を説く。トールはとりあえず黙って聞く事にした。


「その神こそ、今で言われるところの邪神と呼ばれる者です。その邪神は自らの血をもって、大いなる災い、魔物を作り出しました。邪神が作り出した魔物は、その楽園にすむ生き物達を迫害し始めたのです」


 トールはブランシュの話を、聞きながら魔物について考える。魔物とはこの世界に漂う魔素をその力に変えて生きている生き物であると、《知識の泉》から聞いていた。

 その生き物が邪神とやらに作られたというのであれば、人間はどうなのかと少し気になり始める。


「そこで、その魔物たちに対するため、神々は人間を作り出しました。その人間達に魔法を扱う力を与えて、魔物たちを戦う術をお伝えになられたのです」


 そこで人間が出てくるのか、とトールは考える。魔物を倒すために人間を作り出したということは、神々は


「神々の作り出した人間は、邪神の作り出した魔物たちと、果て無き争いを繰り広げたといいます。長い月日がたち、多くの人間と神々はその数を減らしていました。そこで神々は選ばれし戦士に、武器をお与えになったのです」


 その武器とやらをさっさと与えておけば、神々も数を減らさなくて済んだんじゃないかとトールは心の中で突っ込みを入れる。


「その武器こそが神器と呼ばれる、剣、弓、杖だったと伝えられております」


「その神器って、魔王を倒した勇者が使っていたと言う物か?」


「はい。最初にその3神器が現れた時こそ、邪神との決着の時だったのです。その神器に選ばれた3人は、幾多の苦難の末、邪神を滅ぼすことに成功いたします。しかし他の神々もまた、大いに傷つき力を失っていました。そのため、この世界を人間に託し、神々は休眠することになったのです」


 ああ、選民思想だ、とトールは考えた。神々に選ばれたからこそ人間はこの世界を統治するというわけである。


「残された人々は、この世界をより良くするため、神々を敬い生きとし生けるものをすべからく大切にしなければなりません。そうして人々は誕生し、この世界により良い秩序をもたらす事を義務付けられたのです」


 よりよい世界とやらが誰にとってなのか、という突っ込みをトールは入れたいが、ただの喧嘩になるだけなので自重する。

 そんな事を考えていると、説法一旦終了なのかブランシュが祈るように胸の前で組んでいた手を下ろす。


「つまりこの世に生ける全てのものを、神々は愛していたのです。それは決して杖であるあなたも含まれるでしょう」


 最後にそう締めくくると、ブランシュは閉じていた目を開け、トールの方へと見る。


「これが神々と人間との最初のお話です。こうして人間は作られ、神々はこの世を去ったのです。しかしいつもその御心は人とともにあり、我々を見守って下さっているのです。さて、お二人の準備も済んだようですし、ここで一旦お終いにしましょう」


 気がつくと、ナーリャとリューナの二人は魔法陣を描き終えたようであった。そしてちょうどタイミングを計ったかのように、先ほど伝えていた材料が運び込まれる。


「さて、これで準備は整ったね」


「はい。後は私達が作り上げるだけです」


 ナーリャとリューナは目を合わせ頷き合うと、1つの魔法陣上に金属を置いていく。ある程度の量を置くと、今度は二人揃ってその魔法陣に手をかざす。


「いくよ、リューナちゃん」


「いつでも大丈夫ですよ、ナーリャさん」


 二人は確認しあうと、魔法陣に向かって魔力を込め始めた。魔法陣は端から光出して、それは徐々に全体へと広がっていく。

 光が魔法陣全体を覆うと、今度は上にのっていた金属、アエス合金が形を変え始めた。

 それは一旦溶けたようになり、やがて形取り始める。それはトールが思い描いていた手押しポンプの胴体であった。


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