うかれる杖とあきれる魔道技師9
トールはこの世界、というより魔道技師たちの物作りについて、《知識の泉》から得た知識と、ナーリャ達から教わった知識で知ってはいた。
本来様々な物を作るには、それなりに工程を踏む必要がある。例えばガラスのビン、細かなところを抜かせば溶かしたガラスを型に填めプレスし、その後ブロー成型を行って目的の形に仕上げる。
これらに必要なのはガラスを溶かすための設備、目的の形にするための金型に、その他細かなところをあげればキリが無くなるほどである。
しかし魔道技師たちは異なっていた。そういった製造の設備を吹っ飛ばして、魔法陣によって材料さえあればほとんど目的の形状、性質にしてしまうのである。ナーリャの店に置いてあった透明なビンも、そうやって作られた物であった。
もっとも、術者が知らないことは出来ないし素材の質にも左右される、魔力の量によって限界があるなど制約があるのだが。
トールがこの事を知ったときは、本当に魔法陣便利すぎると天を仰いだほどである。
そういったわけで、トールは魔道技師の魔法陣によるの物作りを知ってはいたが、実際に見たことがあるのはナーリャ達が作っていた爆弾、プラーミァや薬などであり、こういった機械を作るのは見たことが無かった。
元々ゴーレムもこの魔法陣の恩恵に頼って作ろうと考えていたため、トールはいい機会だとリューナの提案に乗る。
「よし、俺も手伝おう。なにをすればいい?」
「それじゃあトールは、詳しい材質を教えてもらえるかな? 材質によっても魔法陣描き変えなきゃだから」
ナーリャも既に乗り気で、自分のカバンから紙を取り出して魔法陣を描き始めていた。
「そうですね、詳細な名称は分からないでしょうから、どういった性質のものかをまとめて頂ければと」
リューナもナーリャがお願いした事柄に同意し、二人と1本は作業を開始する。と、ちょうどその時部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「失礼致します。ただいま戻りました」
一言声を掛けながら、セービアとリーノが部屋へと戻ってくる。
「契約書が出来ましたので、ご確認をお願い致します。おや、なにやらされているご様子。後に致しましょうか?」
「いや、先に確認させてもらいます。そのほうが話しも早いと思いますし」
トールは丁寧な言葉使いに戻すと、机の上に置かれた契約書3通と読み込む。先ほど話し合いをした内容に沿っているか、3通とも同じ内容が書き込まれているか等である。
トールはチェックし終えると、一つ確認をする。
「ちなみに冠水をどうにかするって話だが、一瞬でどうにか出来る訳ではないのは共通の認識でいいか?」
「もちろんで御座います。今行っている作業より早く終結させていただければ、問題御座いません。と申しますか、正直今のままではいつ終わるのかも、予想が出来ない状況で御座います」
トールはセービアと契約書に書き込む文言をともに考えると、3通全てにその事を一筆書き込む。、
「よし、これなら大丈夫そうです。えっと、俺が流石に署名するのは問題ですよね?」
ここまで交渉をしてきたのはトールであったが、如何せん杖である。流石に信用となると持ちえていない。
「そうですね。流石にトール様ですと聊か問題があるかと」
「それじゃあわたしが署名するよ。仮にも『流れる羽』店の店主だからね」
机に向かって魔法陣を描き込んでいたナーリャは、顔をあげて手を上げる。
「いいのか?」
「これぐらいお安い御用だよ。トールは気にしないで」
笑顔で答えるナーリャに、トールは頭を下げる。ナーリャは手を振って答える。
そうして契約者について話し合っていると、再度ドアをノックする音が聞こえてきた。
「セービア様、司祭様がお越しになられました」
「わかりました。こちらまでご案内を」
しばらくして、一人の女性が部屋へと案内されてきた。
その女性は年のころは20前後、白い装束に身を纏い、黒い髪をその背に降ろしている。
「ご契約の仲介役として派遣されてきました、司祭のブランシュと申します。以後、宜しくお願い致します」
ブランシュは丁寧に頭を下げて挨拶をする。
「ブランシュ司祭様、本日はお越し頂きありがとう御座います。先に説明させて頂いた通り、本日は本契約の締結にご仲介頂きたく」
セービアも立ち上がると一礼をする。それにつられるように他の面々もそれぞれ頭を下げた。
「それで、この度のご契約されるのはどちらの方でしょうか?」
「あ、はいわたしです」
ナーリャは手を上げて自分である事を指し示す。
ブランシュはナーリャの方を見ると、微笑みながら頭を下げる。
「改めまして宜しくお願い致します、ナーリャさん」
「こちらこそ宜しくお願い致します、ブランシュ司祭様」
ナーリャはブランシュにあわてて頭を下げる。
「さて、それでは契約と参りましょう。契約書はこちらに」
3枚の紙に書かれた契約書を手に持ち、セービアはそれを机の上に置く。
「はい。それでは本契約書に同意は既にされていますでしょうか?」
ナーリャとセービアは互いい頷く。
「では教会の名代として、司祭ブランシュの名の下本契約が締結され、内容が履行される事を切に願います。本契約に背いた際には、教会が履行の強制を行うことを誓います」
まるで謳う様に滑らかな声で宣言を行うブランシュ。その内容は結構過激な事を言ってはいるが。
ナーリャとセービアはそれぞれ契約書に署名を書き加えていく。その様子を眺めていたトールだったが、一つ思いつき提案をする。
「すまない、意味は無いと思っているのだが、この契約書に俺の署名を加えさせてもらえないか?」
そのトールの提案を聞き、セービアとナーリャは一瞬きょとんとする。しかし流石に商売のプロであるセービアは、その表情を直ぐに隠すと、笑顔でトールに聞き返してきた。
「おや、私の方は一向に構いませんが、どうしてまた?」
「ただの我侭だって事は理解しているんだが、なんだかナーリャにまかせっきりというと無責任のような気がしてな」
トールはこのまま署名をナーリャだけにすると、自分で決めた事なのに責任をナーリャだけに押し付けるような気がしたのである。そのため、自分も署名をしておきたいと思ったのだった。
「そういうことでしたらかまいません」
「わたしもいいよ、トール」
二人の承諾を得られたトールは、《守護者の巨人》を使い光る腕を出して筆を取る。その光景にセービア、リーノ、そしてブランシュの3人は声を出さずとも驚いた様子である。
既にナーリャがしていた署名のその横にトールは自分の署名を書き加える。
2人と1本の署名を確認したブランシュは、その下に自分の署名を書く加えていった。
「そて、それではこれにて本契約が締結されてことを認めます。この契約は教会が仲介となって行われ、その執行は教会によって監督されます」
ブランシュは3通の契約書を手に取ると、それぞれをナーリャ、セービアへと渡し、残り1通を自分の懐へとしまった。
「さて、これにて契約は結ばれました。早速ではありますが、冠水の解決方法をお教えていただけますかな?」
セービアは笑顔でトール達にそう問いかける。
ナーリャとリューナはトールの方を見て、トールはそれに返すように頷く。
「じゃあまずはこれを見てくれ」
トールは先ほどナーリャ達に見せた、ポンプの概略図をセービアたちに見せる。
興味があったのか、ブランシュもその中に混じろうとしていた。
「えっと、ブランシュ司祭に見せてしまっていいのかな?」
基本的な権利を売り渡した後なので、トールはセービアへと聞いた。
「かまいません。本契約に基づく内容は、教会の方は他言しない事になっておりますから」
セービアの了解を得られた事で、トールは改めてポンプの概要を説明する。
その説明を受けて、セービアは少し難しい顔つきとなった。
「なるほど。確かに上手くいけば画期的であると思いますが、そうそう上手くいくものなのでしょうか?」
見たことも無い機械であり、原理を説明されても実感がわかないセービアは、トールに対して疑問を呈する。
との疑問にトールが答えようとした時、リューナが先に提案をもちかけた。
「そこで、我々が今この場で試作品を作りたいと思うのですが、ご協力願えますか?」
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次回からも昼の12時に更新していきたいと思います。
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