うかれる杖とあきれる魔道技師7
次の日の朝、2人と1本は約束どおり鉱山ギルドへと出かけていった。正確には鉱山ギルド管轄の商会である。
「こっちの通りをたどっていけば、鉱山ギルドのお店にたどり着くよ」
ナーリャの案内で道々を進んでいく。あたりは朝特有の活気があふれており、人々の行き交いが見て取れる。
「私もこちらに来るのは久しぶりですね。いつも素材の仕入れは、ナーリャさんにまかせっきりでしたから」
このダナン城砦都市は幾つかの区画に分かれている。その振り分けは、中央にある広場から外周へと伸びている道によって分かれていた。
トール達が住んでいる技術区は街の東寄り、今向かっているのはそこから北、街から見ると北東にある商売区である。
「俺もこっちにはあまり来ないからな。というか初めてか」
「そうですね。私も最近はほとんど来ません」
トールが買い物をする時は、ほとんどダル爺さんの店で済ませていた。リューナもちょっとした買い物は、ダルのところで済ませるようになっていた。
「ダルお爺さんのところは、色々なものが置いてあるからね」
2人と1本が大通りを出ると、そこには多くの人々でにぎわっていた。
普段トールが通っている道は、職人達が闊歩しておりせわしなく歩いている人がほとんどであったが、こちらの区画では食料を買いに来ている奥様方から、武器の品定めをしている冒険者と、多種多様に別れていた。
「朝も早いと思ったが、結構人でごった返しているのな」
「うん。やっぱり朝の時間が一番動きやすいんだよ」
トール達は目的の鉱山ギルドの商店へと歩みを進める。
途中、ものめずらしそうにトール達のことをみる人々が多くいた。
「みられてないか?」
「見られてますよ。私達は慣れてますが、やっぱりあなたは珍しいのでしょう」
結構な数の人達の視線にさらされながらも、トール達は鉱山ギルドの商店へとたどり着く。
外観は他の商店と大きな違いは見られず、木造の店であたりは綺麗に掃除されており、大きな看板が設けられていた。ただその大きさは他の店とは大きく異なり、大分大きい印象を与える。
「ここが鉱山ギルドの商店だよ。ギルドの支部も兼ねているはずだね」
ナーリャが店に入ると、トール達も後へと続く。
店の中には鉱山で取れたであろう鉱石のほか、宝石やインゴット、それに雑貨なども置かれている。
「いらっしゃいませ」
店の中から店員らしい女性の声が聞こえてくる。
ナーリャ達のほか、お客は数名いるようで、そのほとんどは職人らしいガタイのいい男である。
「すみません、魔道技師のナーリャといいます。支配人のセービアさんはいらっしゃいますか?」
女性店員は、ナーリャに尋ねられると、少々お待ち下さいといって奥に入っていく。すると1,2分ほどした後に男性を連れて出てきた。
「これはこれはナーリャ様。お元気そうで何よりです」
「セービアさんもお元気そうで」
セービアは短く切りそろえた灰色の髪に、立派な口ひげを携えた初老の男性であった。
ニコニコとした笑顔を貼り付け、ナーリャに問いかけてくる。
「それでは、本日はどういったご用件で御座いましょう? たしか火薬の納品は、今月分は既に終えていたと思いましたが?」
「はい。実はちょっと鉱石の買い付けについてご相談したくて、お伺いさせて頂いたんです」
「ほうほう、鉱石の買い付けですとな。それでしたら奥の部屋でお話しましょう」
セービアは一瞬目を鋭くさせた後、そこにいた女性店員に声を掛けると、トール達を店の奥へと案内を命じる。
「こちらの女性についていって下さいませ。私も後から参ります」
女性は一度頭を下げると、こちらですと言ってトール達を店の奥へと招き入れる。
着いた部屋はかなり大きく、トール達どころかあと十人は入っても問題なさそうな場所であった。
「ふえー、広いねぇ」
「ええ、この部屋だけ見ても大分儲かっていそうですね」
「はてさて、この部屋しかないのか、それとも他にも部屋があってここを選んだのか。なんだか変な事に巻き込まれそうだわな」
各自椅子に座って待っていると、先ほどの店員の女性がお茶を入れて部屋へとやって来た。その後しばらくすると、今度は先ほどの男性、セービアがお供を連れて部屋へと入ってくる。お供の青年、というか少年にも近いその人は、その身に一杯の書類を持ってきていた。
「お待たせして申し訳御座いません」
セービアとお供の少年はナーリャ達の向かいに座る。
「さて、まずはご挨拶をさせて下さい。ナーリャ様とは知己で御座いますが、私はセービアと申します。こちらで支配人をさせて頂いております。それでこちらが……」
セービアの視線が向けられた少年は、ほぁっとした表情でナーリャとリューナの事を見つめていた。
コホン、とセービアが一つ咳払いをすると、ハッと気がついたように少年は頭を下げた。
「リーノと申します。こちらのセービア様の下で秘書を勤めさせていただいております」
セービアはリーノの自己紹介を聞き、少し顔をしかめるが、すぐに笑顔となってナーリャ達のほうへと向く。
「ご丁寧にありがとう御座います。私はリューナ。こちらのナーリャの店である『流れる羽』にて、魔道技師として働かせて頂いています。」
「俺はトール。ただのしがない杖だ」
トールの自己紹介をした時、リーノは突然聞こえてきた男の声にびっくりしたのか、きょろきょろとあたりを見回す。セービアは落ち着きなさいとリーノを窘める。
「リューナ様にトール様でいらっしゃいますね。御噂はかねがね伺っております。特にトール様の御噂は」
笑顔でトールの事を見るセービア。街全ての人に知られているわけではないといっても、さすがに商人には知られているようである。リーノ少年は知らなかったようであるが。
「さて、それでは商談と参りましょうか。なんでも鉱石が必要との事でしたが」
「それについては、俺から話をさせて頂こう」
トールはナーリャとリューナが座っている間に飛び上がると、対面の二人を見据える。
「実は今とある魔道具を製作していまして。それで大量の鉄、カリュプス鋼が必要というわけです。鍛冶屋とかに聞いてみたのですが、さすがにそこまでの量はないようでして、それで原材料の大本である御社、あなたの商会へと足を運んだわけです」
昔取った杵柄というか、丁寧な口調で話しをするトールに、ナーリャとリューナが驚いた目でトールの事を見る。その視線にさらされて、なんだか遣る瀬無い気持ちになるトールである。
「なるほど。ちなみにどの程度をご希望ですかな?」
「今のところ200カグアムほど、カリュプス鋼が必要です。そのために必要な鉱石となるとちょっと知識が無い。どのぐらい必要と思いますか?」
「そうですな、大まかに250カグアムほどあればよろしいかと。その程度でしたらいつもお世話になっているナーリャ様の頼みですので、お譲りするのも吝かではないのですが……」
セービアはチラリとリーノのほうを見る。リーノは少し慌てた調子で、書類から一枚の紙を取り出した。それはこの付近一帯の概略地図のようだった。
「実を申し上げますと、現在こちらの鉱山が冠水によって採掘できない状況に陥っております。そのため少しでも鉱石を確保する必要があり、余剰分を放出できない状態なのです」
地図のある地点を指で指しながら、セービアは説明を続ける。
「こちらの鉱山、ダナン鉱山と申しまして、その名の通りこのダナン城塞都市に主に鉱石などを卸しております。この鉱山が冠水に陥ってしまったため、現在品薄となってしまっているのです」
リーノは別の紙を取り出すと、それをセービアへと渡す。
「今現在ではまだ在庫の方でまかなっているのですが、それも大分厳しいのが現状です。そのためお譲りするのは難しいかと」
セービアはそこで話を一旦止める。
トールはここまで話を聞いて、なるほどと思った。ただ単に譲れないのであれば、こんな部屋に案内する必要がない。そしてわざわざこのような状況を説明するからには、理由があるはずであった。
「つまり鉱石がほしいのであれば、この状況を打破する必要がある、という事ですね?」
そう、早い話がそういうことである。冠水して採掘が出来ないのであれば、冠水をどうにかするしかない。そしてそれをわざわざ話をしたということは……
「その通りで御座います。そこで魔道技師たるお二人に、ご相談させて頂きたいことが御座います」
やっぱりか、とトールは思った。この状況で説明をこちらにしてくる理由など、そのぐらいなものである。
ナーリャは首をかしげてわかっていないようであるが、リューナの方は既に分かっていたのか表情を変えない。
「この冠水をどうにかできないか、ということだな」
トールは口調を崩し、セービアにそう問いかける。
その問いにセービアはより笑顔を深めた。
「さすがは知能ある杖と呼ばれるトール様で御座います。我々としてもこの冠水をとめたい。あなた方は鉱石が必要。利益は共有できていると思います」




