うかれる杖とあきれる魔道技師5
「訳の分からない物とはひどいな」
4人によってたかって訳の分からないもの扱いされたトールは、抗議の声を上げる。
「すみません、つい口から出てきてしまいました」
リューナは悪びれも無くそう言う。他の面々も謝罪の言葉を口にした。
「まあいいか。訳の分からないというのも本当の事だしな。俺だって良く分からないし」
自分の体のことであるが、ほとんど良く分かっていないというのが実情である。そのためこの杖に関して一番知りたがっているのは、トールかも知れなかった。
「それにしても、やっぱり魔道技師という方々はすばらしいですわ。もっとこの街にも多く来て頂きたいですわね」
「それは難しいでしょう。魔道技術の主な研究施設は王都にありますから。学院もそうですし。なかなか他の都市に行こうとする人は少ないと思います」
そういえば、とトールは考える。
この街にきて一ヶ月と少し立つが、他の魔道技師というのを見たことが無かったのだ。
「魔道技師ってこの町じゃ少ないのか?」
聞くが早いとトールなリューナに質問を投げかける。
「この街、というより全体的に少ない職業と言ってもいいでしょう。まだ幼い学問ですから。この街にもこの店を除くと、ラクテウス商会のお抱えくらいしかいないのではないでしょうか」
ラクテウス商会。以前トールも王国最大の商会だと聞いたことがある名前である。
「それはそうとお嬢様、そろそろお時間です」
ペルラは姿勢を正してクリシュへ告げる。外の景色は既に日が落ち始め、あたりを赤く染め始めていた。
「まあ、もうそんなお時間でしたのね。楽しい時はすぐに去って行ってしまいますわ」
クリシュは椅子から立ち上がると、来て挨拶をした時のようにスカートの裾を掴みあげる。
「ナーリャ様、リューナ様、トール様、本日は突然の訪問にもかかわらずお相手下さり、ありがとう御座いました」
「いえ、こちらこそあまりお構いできずにすみません」
ナーリャとリューナも立ち上がって頭を下げる。
「またお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、いつでもいらして下さい」
笑顔で答えるナーリャに、クリシュもまた笑顔になった。
「それでは失礼いたします」
ペルラを先頭に、クリシュはその後に続いて店を出て行った。
残った2人と1本は疲れたとばかりに大きくため息を吐いた。
「びっくりしたよ。急に来たものだから」
「そうですね、私も流石に驚きました」
「俺もだな。帰ってくるなり馬車があって、その上いかにも護衛ですって鎧姿の男たちが2人も店の前で立っているんだもんな」
ナーリャとリューナは座り込み、少し無言で過ごす。
「さて、なんだか今日は疲れちゃったからお店は閉じて、家にも戻ろっか?」
「そうですね。それがいいです」
「そうだなぁ」
ナーリャの提案に、特に反対の無いリューナとトールは、椅子を片付けた後、店を出て家へと戻っていった。
家に戻ると、ナーリャはお茶を淹れる為お湯を沸かし始める。トールとリューナはすっかりナーリャに甘える事が慣れているのか、テーブルの脇にある椅子に座って、それを待っていた。
「そういえばトールさん、カリュプス鋼の買い付けは上手くいきましたか?」
トールは一瞬何の事か分からなかったが、しかしすぐに思い出した。トールが外に行っていたのはゴーレムの材料となる鉄を買いに行ったためだったのだ。
「ああ、すっかり忘れてた。クリシュのお嬢さんが来た事が大きくてな。それでカリュプス鋼は、流石に必要な量はなさそうでな。
余っている分は売ってもらえるそうだが、足りない分は、鉱山ギルドの方へと行ってみたらどうだといわれた」
「ああ、鉱山ギルドですか。しかしそれは難しいのではないですか? あそこは契約している処にしか商品を卸さないと思ったのですが」
そうなんだよなぁ、とトールは呟く。流通が限られるこの世界では、その流通を満たすために決められたところに卸すのが普通であった。
「鉱山ギルドならわたしも付いていこっか?」
お茶を入れ終えて戻ってきたナーリャが、トールに向かってそう提案した。
「なんかいい手があるのか?」
ナーリャはリューナの前にお茶を置くと自分も椅子に腰をかける。
「鉱石の購入契約はしていないんだけど、あそこには火薬をよく売っていたから、一応顔見知りなんだよね。ほら、鉱山って結構火薬使うんだよ」
ナーシャはトールとリューナが来る前までは、火薬しか作れなかった、そのため鉱山ギルドはお得意様だったのだろう。
トールはいつかテレビで見た映像を思い出す。それでは穴を掘ってそこに火薬をつめ、爆破して採掘していた。
「ああ、そういうことか。それじゃあちょっと頼まれてくれるか?」
「うん、いいよ。明日行ってみようか」
「助かる。ありがとう」
どういたしまして~、とナーリャはふにゃふにゃと手を振る。
「私もついて行きたいと思います。お得意様ということであれば、一度顔を見せに行ったほうがいいでしょうし」
「そうだね。それじゃあ明日は3人でお出かけだね」
ナーリャは嬉しそうにお茶を飲む。
お茶を飲み終えると、ナーリャとリューナは夕飯の買出しにでて行いった。
トールは続きとばかりに工房へと戻り設計をし始める。
設計をする際に使用している紙は、トールが森の調査費としてもらった分を使っていた。一人5万オーロ、二人で1万オーロという内容だったが、ペルラの計らいでさらに5万オーロ追加でもらっていた。その追加分をトールがもらっていたのだ。
しかしこの世界、紙がかなり流通しているとはいえ、結構な額がかかる。1枚200オーロもするのだ。既にトールは150枚ほど購入しており、残りは2万オーロまで減っていた。
「さて、設計はいいんだが、鉄のほうをどうするかだな。鉱石のほうを買えたとしても、金が足りるかどうか」
流石に二人にたかるのは、とトールは思っている。出来れば自分で作る分は自分で何とかしたいと考えていたのだ。
紙に図形を書き込みながら、トールは悩む。すると一つのアイデアが浮かんできた。
「さっき空を飛ぶものはないって言ってたよな。それじゃあ空を飛ぶことができるものがあれば売れるんじゃないか?」
独り言を呟きながら、今行っているゴーレムの設計を一旦中止する。
空を飛ぶということで、トールが真っ先にに思いついたのは飛行機である。ただそんなもの設計するだけでも無理な話であった。トールは航空力学にはまったく精通しておらず、流体力学でも結構一杯一杯であったのだ。
「そうすると、元の世界の知識だけだと厳しいか。気球って手もあるけど、それだとつまらないしな」
趣味全開で物事を考えているトールである。そこでトールは頭を切り替えることにした。元いた世界のファンタジー知識を活かせないかを思ったのだ。
少しの間頭を悩ませると、一つのアイデアが浮かんでくる。様々な物語で多く語られているアイテムである。
そう、空飛ぶ箒を思いついた。




