うかれる杖とあきれる魔道技師1
森の調査に出てから1週間が経過していた。
その間ナーリャとリューナは、ダナン城塞都市の守備隊より依頼されたプラーミァの製作に携わっていた。材料集めから始まり、それらを魔法陣を使用してプラーミァを作成していた。
そのほかに店のほうもリューナが来た事で、今まで製作できなかった魔道具も作成できるようになり、火薬以外にも大分品揃えが良くなっていた。そのうわさを聞いた街の人々も徐々にであるが、お客として店に訪れるようになったのである。
店の番と依頼されたプラーミァの製作にと、ナーリャとリューナは忙しい日々を送っていた。
そしてトールはというと。
「ふ、ふふふふふふ」
工房の奥にこもって怪しい笑い声を上げていた。それは狂人の者といわれても可笑しくない笑い声である。この笑い声は調査から戻ってきた次の日から続いていた。
それもこれも《守護者の巨人》を手に入れたことを端に発していた。
この《守護者の巨人》であるが、その名前と違って別に巨人を作ることだけが機能ではない。トールのイメージを元に様々な形状を光る幕にて作り出すことが出来るのである。そう、それはもちろん人間大の手足でもである。
また、そのほかにも幕に触れたものを感じ取る機能、つまり触覚を有する事もできる優れものであった。
そのため、トールはこの世界に来て諦めていた設計を思う存分出来るようになり、嬉々として図面を描いていたのである。
「さて、手と腕はこれで完成。次は足か。ふ、ふふふふ」
工房にあった作図用の道具を《守護者の巨人》を使って作った手で巧みに操ると、トールは次々と線を引いていく。図面は頭の中にあった。
トールが今行っている設計は人型のロボットの骨格、こちらの世界で言うと人型ゴーレムである。
前世様々なアニメ、漫画、小説にてロボットを見てきたトールは、ただ見る事に留まらず自分でミドル3DCADを購入し、その構造を想像、設計し形にする事を趣味としていた。ただ制御系、センサー系等と敷居が高く骨格および外装の設計に留まっていたが。
この魔法の世界にきた当初は、その設計を元にゴーレムを創造することを考えていたが、自分で設計するのが困難であったためトールはその夢を諦めていた。しかし《守護者の巨人》の能力を得た事により、その情熱が再燃していたのであった。
「よしよし、いい感じだな。ふふふ、それじゃあ各関節の構造を……」
「トールさん、昼食にしますよ」
熱心、というか必死の様相で、紙に向かって設計図を書き込んでいたトールに声を掛けてきたのはリューナである、青く短い髪を少しいじりながらトールに食事の時間を伝えに来たのであった。
「いや、俺は食べられないから、二人で食べておいてくれ」
「だめです。たとえトールさんは食べられないとしても、食事の時間は皆で過ごすとナーリャさんも言っていたでしょう?」
問答無用とばかりにリューナはトールを掴むと、そのままもって工房を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待った。分かったから自分で行くから」
トールはリューナの手から逃れると、外へと向かうリューナの後を付いて行く。
「最初からそうして下さい」
呆れたように手から逃げ出したトールを見ると、リューナはため息を一つ吐き工房の外へと出た。
店の外へ出て家へと帰ると、そこにはナーリャが料理の準備を終えて二人が来るのを待っていた。
「おかえり、二人とも」
「ただいま」
「ただいま戻りました。トールさんがわがまま言って大変でしたよ」
「いや、つい設計が楽しくてな?」
ナーリャがお茶をいれ、リューナが席に着くと、二人は頂きますといって食事を始めた。
「トールの設計は上手くいっているの?」
ナーリャの問いかけに、二人の食事を眺めていたトールは答える。
「ああ、今のところは順調だ。腕の設計は終わって今度は足の設計を始めているところだよ」
「そうなんだ。今作ろうとしているのはゴーレムだよね?」
「そうだな。人型のゴーレムを作ろうとしているよ」
上機嫌で体をうねらせ、そう答えるトール。その様子にナーリャは苦笑いを浮かべると、あれ?と首をかしげた。
「それじゃあそんなに設計なんていらないんじゃない? ゴーレムって、基本的には石とか集めれば出来るでしょ?」
トールも《知識の泉》で調べたり、ナーリャやリューナに聞くまで知らなかったが、この世界のゴーレムは一般的には石などを積み重ねて作る者なのであった。トールが初めて工房で見た、走る小さなゴーレムがこれにあたる。
核となる石に魔法陣を刻み、あとは石を集めて魔法陣を起動すれば完成、製作者の求めた形になる、といった具合である。以前トールがナーリャに聞きまくった荷物搬送用のゴーレムは例外であったようである。
しかしトールが求めているゴーレム、というより人型ロボットはそういったものではなかったのだ。
「確かにそれでもゴーレムは出来るがな、調べたところによると強度、持続性、力に速度ときちんとそれように作り出したものと比べると、性能が劣るようなんだよ。だから一から設計しているわけだな」
「そうなんだ。ゴーレムって作ったことが無いから、知らなかったよ」
ナーリャは納得すると、パンをちぎり口へと運ぶ。
「ああ、そうみたいなんだ。だからきちんと人間の骨格を模した構造を再現し、それにただ魔力だけで動くのは面白くないから、他にも色々機能を盛り込んでみたいな」
「色々な機能、ですか? それは少し興味ありますね」
トールの話に、今度はリューナが食いついてくる。トールの言った色々な機能に興味があるようであった。
「ああ、上手くいくかは分からないから、完成した時にでも改めて説明するよ。まあ、期待しておいてくれ」
そうトールにお茶を濁されたリューナは、釈然としない表情でトールを見る。
「それはいいですけど、トールさん。材料はどうするんですか? ただの石ではないんでしょう?」
「そりゃあ、出来れば鉄みたいな金属が望ましいな。それなりの重さに、強度が確保できれば言う事ないな」
「テツ……フェッルム鋼あたりでしょうか? 強度がほしいとなると、カリュプス鋼になるでしょう」
フェッルム鋼にカリュプス鋼とトールの知らない名前が出てくる。トールは、知らない物は早速調べてみようと《知識の泉》へと問いかけた。
フェッルム鋼:フェッルム鉱石を精錬した物。精錬した物は鉄色となり、内部に混ざっている不純物により強度が変化する。
カリュプス鋼:別名高硬度銀。薄い銀色をしている。フェッルム鉱石を精錬する際、鋼樹を木炭化させたものを混ぜ込み硬度を上げた物。重量比率は100:3
《知識の泉》の説明を聞いて、トールはなるほどと理解する。用はフェッルム鋼は鉄であり、カリュプス鋼は鉄鋼といった具合である。
詳細な機械的性質は分からないが、トールはこれなら使えそうだと考えた。
「確かにカリュプス鋼はよさそうだな。どこかで買えるのか?」
「買えはしますけど……トールさんがいま描いている設計図からすると、結構な量が必要ですよね?」
「ああ、そうだな」
トールの設計では、人型のゴーレムは大きさ2mを超すものになりそうであった。トールが生前設計していたのは巨大ロボットであったが、それを流用して小型化していたが、それでもこのサイズになっていた。
「そうなると材料集めでも一苦労ですね。鍛冶師の方々に聞いてみるか、どこかの商会に手配を依頼するか……」
「あとはダルお爺さんに聞いてみるかだね」
「自分で採取するのはどうなんだ?」
以前草原に様々な素材を取りに行ったことを思い出しながら、トールは二人へと疑問を投げかける。
しかし二人は首を振ると、トールの意見を否定する。
「鉱石関係は中々採取が難しいんだよ。大体鉱山で取れるけど、無断で鉱山に入ったら怒られちゃうし」
「怒られるというより、下手したら捕まります。まあ、廃鉱山とかであれば、まだ大丈夫かも知れませんが」
それもそうかとトールはうなだれる。頭、というより宝玉部を振って気を取り直すと、時間を見て各所に当たってみるかと考えを巡らす。
「それじゃあ、後で聴きに行ってみるわ。まあどっかで手に入るだろ」
「そうですね。それがいいでしょう」
そうして話をしているうちに、ナーリャとリューナは食事を取り終え片付けをし始める。
仲良く台所でおしゃべりをしながら、洗い物をしている二人にトールは一声掛けると、外へと出て行った。早速鉱石について話を聞きに行くためである。
トールがまず初めに向かったのは、職人街にある鍛冶師のところである。職人街の鍛冶師、というより職人たちは常日頃からナーリャを木にかけており、親切にしてくれていた。その縁でトールも話す機会を得ていたのである。
「すまない、ボーダのおやっさんはいるか?」
トールが声を掛けたのは、ナーリャの店から少し離れた先にある、とある鍛冶屋の店先である。そこは商品棚などは無く、鍛冶場が設けられているだけの場所であった。
「おう、今行くぞ」
トールの声に反応して出てきたのは、背は低いながらも筋骨隆々の立派な髭を蓄えた男性であった。
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