幕間2
「課長、少々よろしいでしょうか?」
白い壁に覆われ、10畳以上の広さがある部屋に、豪勢な机がひとつ置いてある。その奥には大きな窓が備え付けられており、白い壁には絵画がいくつもかけられている。設けられている棚には花が活けてある花瓶のほかにも、飾り皿や何かの生き物を象った置物など、調度品が並べられていた。
机の前には若い男性が立っており、この部屋の主に声を掛けていた。
「君、課長ではなく部長だよ、ぶちょう」
豪勢な机の奥に、若い男性とは反対方向を向かって座っていた中年の男性は、手に扇子らしきものを持ちながら椅子ごと振り返ると、声を掛けてきた男性にそう答えた。
「失礼しました、部長。それでかの世界の件ですが」
「お! なんか進展あったのか?」
少し身を乗り出して、中年の男性はそう問いただす。
聞かれた若い男性は、手に持った資料を見ながら報告をする。
「先遣体のαが対象と接触。戦闘の末撃破されたとの事です」
「なにやってんだ! これだから開発部の奴らは当てにならん」
中年は、手に持っていた扇子を机に叩きつける。それを見ていた若い男性は表情をピクリとも動かさず、問いかける。
「これからどう致しますか?」
「そうだな。対象物の所在は判明しているのだろう?」
「はい。追跡の状況は良好です」
「そうかそうか」
中年はフッフッフと笑いながら、手に持っている扇子でもう片方の手のひらを何度か叩く。
「ならば現状は何もしなくてよい。破壊には失敗したが、なに、我々はひとつの札を手に入れることができた。……あそこにはばれていないだろうな?」
「はい。それも大丈夫です。欺瞞情報が役に立っているようです」
その答えに満足したのか、中年の男性は上機嫌な顔つきで若い男性へと扇子を向ける。
「よし、それならば問題は無いな。いつまでもデカイ面できると思うなよ」
再び笑い出す中年の男を尻目に、若い男は表情を変えずにいた。
「まったくもってあいつらは気に食わん! こちらの動きを邪魔ばかりしおって! そうは思わんかね?」
「仰るとおりかと」
「そうだろう、そうだろう」
扇子を手のひらに何度も叩きつけながら、中年の男性満足そうに頷く。
「そもそもだ。現在の管理体制では、限界をすぐ迎えることがなぜ分からん。急な変化がどうだの、調和がどうだのとピーピー囀る事しか出来ん連中のくせに。そのほかにも……」
延々と愚痴を言い続ける中年の男に、若い男性は眉ひとつ動かさずに直立した状態で立っている。
「そうは思わんかね、君も?」
「仰るとおりかと」
先ほどとまったく同じ答えに、それに気付いていないのか中年の男は満足そうに大きく頷く。
「それでは現状維持ということで、よろしいでしょうか?」
「ん? ああ、そうだな、それでいい。再攻撃の必要は無いが、監視を怠るんじゃないぞ」
若い男性の質問に、機嫌を良くしていたのか中年はすんなりと答えを返した。
「承知しました。では失礼致します」
頭を下げ、挨拶して部屋から若い男性が出て行くと、中年の男性が一人残される。
「ようやくだ、ようやくここまで来た。あのファルサの野郎にも、これ以上大きな顔はさせんぞ!」
思わずといった感じで出たぐもった笑い声が、部屋の中に響き渡る。
「さて、これか忙しくなるぞ。……しかし杖か。これは役に立つかも知れんな」
そう呟くと、またぐもった笑い声を部屋に響かせるのであった。
幕間2です。
次回から「うかれる杖とあきれる魔道技師」編を開始します。
6/14追記
申し訳御座いませんが、今週中の更新が困難になりました。
次回は6/20(月)の予定となります。




