杖と魔道技師と騎士と冒険者18
既に日が落ちて久しく、空は星々がちびばめられ、街には街頭が点り道々を照らしている。
昼ごろに家に帰ってきたトールとナーリャ、リューナは調査の後片付けを済ませ、少し工房にこもり、気付くと夜を迎えていた。
今は夕食も終え、ナーリャとリューナは風呂上りであった。
「今日は何とか帰って来れましたが、あのオニとか言う怪物についてトールは何も知らないのですね?」
「ああ、話しをした通り、鬼については詳しく知っているわけじゃない。俺が知っているのは御伽噺だしな」
「そっか。それじゃあ一体なんだったんだろうね?」
「さてな。鬼だったとしてもこの世界にいるとは思えないしなぁ」
風呂上りの二人は、カップに注いであるお茶を飲みながら、トールと今日戦った鬼について話し合っていた。
「またあのオニって言うのが出ると、森の方には採取にいけないね?」
「まったくです。調査のついでに色々と見て、ほしい素材とかあったのですが……」
「まあ、危険がないと判断されるまでは、あの森には行かないほうがいいだろうな」
ナーリャとリューナはそれぞれカップに口をつけ、お茶を飲みながらため息をつく。
「そういえばトールがオニにとどめを刺した時、プラーミァの爆風を利用したんだよね?」
その時を思い出しながら話しているのか、ナーリャは口元に指を当てながらトールに尋ねた。
トールは話すべきか少し悩む。トールがあの時イメージしていたのは、大砲や銃をであったからである。この世界にその概念を伝えてよいものかと悩んだのである。
しかし既に寄宿舎で話してしまっており、何よりこの世界にも火薬が存在したため、まあいっかとのんきに考えて伝える事にした。
「ああ、5個もらったうちの4個を使って、推進力に変換した。それで残りの一個を、鬼の体内で爆発させたって訳だ。爆発の受け皿には《守護者の巨人》の機能を使って作り出したのを使ってな」
「そうなんだ。そうすると、普通の人にはやっぱり使えないね」
「いえ、ナーリャさん。この考え方は、かなり危険かも知れません」
お茶をすすりながらリューナは説明を始める。
「今回はトールさん自身を爆風で飛ばしましたが、これが鉄の槍とかだったらどうでしょう? かなりの威力の兵器になるのではないでしょうか?」
やっぱり気がついたか、とトールは思う。それと同時にこの世界に銃に順ずるものは無いのかと考えた。そして《知識の泉》へと問いかける。
…銃:筒状で構成された器械の内部にて火薬等を燃焼させ、その燃焼圧にて弾を飛ばす機械。おもに小型のものをいう。
帰ってきた答えに、トールはそうじゃないと心の中で突っ込みを入れる。その他にも一般に出回っているか等を調べるが、思っていた答えは返ってこなかった。
しかたないと、トールは二人に聞いてみることにした。
「なあ、そういった兵器って実用化されてないのか? 火薬があるならそれもありそうだが」
「いえ、私は聞いたことがありません。そういった飛び道具は、基本魔法で対応していると思います。似たような魔道具はあるかもしれませんが……少なくとも一般には出回っていません」
「そうか。火薬があったからそういうのもあるかと思ったが、ないんだな」
「うん。わたしも聞いたこと無いよ。おばあちゃんなら知ってたかも知れないけど」
トールはこの世界について改めて考える。火薬があるが銃はない。トールの歴史の記憶は大分曖昧だが、もといた世界、地球の歴史でも火薬が発明されてから銃が出来るまで、かなりの期間があったっけと思い出す。そういう意味では銃が無いのは頷けた。
それにこの世界には魔法がある。しかもほとんどの人が使えるという事であるから、そういった自然現象を利用しようという意識が低いのかもしれない。
「まあ、魔法がある世界ならそんなものか。■◎△◇×でも後から発明されたみたいだし、っと」
元いた世界と言おうとして、トールは規制に引っかかった事に気づく。頭の中にも秘匿事項です、とアナウンスが流れる。
「魔法のある世界、ですか?」
トールの発言に、気になったのかリューナはトールへと問いかけた。
「ん? ああ、こうやって便利な魔法があるなら、それが主体になるのも不思議じゃないって事だな。もし魔法が無ければ、別の方法で色々と物事を考えていくだろ?」
リューナはそのトールの発言に、なにか感じ取ったのか黙ってしまう。その様子に、ナーリャはリューナの顔を覗くが、リューナは反応しなかった。
リューナはしばらく黙っていたが、顔を上げるとお茶を一口飲む。
「すみません、ちょっと考え事をしていました。たしかに魔法が無ければ、私達は他の手段を探すでしょうね」
「そうだね。わたしもリューナちゃんが来る前は、どうやって自分の持っていない他の属性を扱うかを考えていたわけだし、これが全属性持っていなかったら、魔法を使わないで出来る事を探していたんだろうね」
「まあ、この件に関しては考えていても仕方ありませんね。」
カップに口をつけ、お茶を飲みながらリューナは言う。
「そうだね。もしもの話しだし、魔法がなくなったらどうやって生活するのか、考えた事もなかったよ」
ナーリャは空になった自分とリューナのカップにお茶を注ぐ。
「さて、トールさん。またあの光る巨人について聞かせてください」
光る巨人、つまり《守護者の巨人》の機能についてナーリャとリューナはトールに何度か既に聞いていた。
しかしトールにも分からない事が多かったため、《知識の泉》改めて調べた後に、その内容を二人に伝える事となっていた。
「そうだな。あの《守護者の巨人》って機能なんだが、魔力を媒介にして物に触れる光の幕みたいなものを形成する能力みたいだな。最初に巨人になったのも、俺のイメージが《守護者の巨人》って言葉に引かれたからだな」
「それで、その光る幕って言うのは、どんな魔力属性の構成をしているんですか? 呪文は? 魔法陣でも構成することは可能なんですか?」
リューナの怒涛の勢いに押されながら、トールはそれらの質問に答える。
「それがさっぱりだ。色々と《知識の泉》に尋ねてみたものの、どれも呪文とか魔法陣に関する答えは得られなかったよ。せいぜい使い方くらいな物だ」
トールは《知識の泉》に《守護者の巨人》について聞いていた。しかし分かったことといえば、トールが念じれば稼動するとか、拡張機能として触覚を持たせる事が可能といった内容であり、ナーリャやリューナが望む、それを作り出す呪文や魔法陣といった情報は出てこなかった。
トールの答えにそうですか、と少し落ち込み気味で話すリューナ。ナーリャは二人のやり取りが面白いのかニコニコと笑っている。
「まあ、そう落ち込まなくてもいいんじゃないかな。トールが出来るんだったら、魔道具でも再現可能だと思うし、なによりそんな魔道技術が存在するんだって思うと、ワクワクしてこない?」
そんな風に楽しそうなナーリャを見て、少しあっけに取られた顔をした後に、リューナもつられて微笑む。
「それもそうですね。何でもトールさんに聞くというのも違う気がします。魔道技師として、トールさんの機能を再現して見ましょう」
二人は見つめあうと、互いに笑いあう。
トールもその光景につられて笑い声を上げていた。
■ □ ■ □ ■ □ ■
ダナン城塞都市の一角、貴族区と呼ばれる一角にある屋敷にて、窓より明かりがこぼれていた。
「それで? 今回の調査で分かった事は?」
明かりがおぼれていた窓の中、天井には立派なシャンデリアが備え付けられ、大きなテーブルの上には豪勢な食事が盛り付けられている。
しかしそこに座るのは一人、まだ少女と呼べる年頃の女の子が座っていた。長い金色の髪を下ろし、その身を薄い黄色のドレスで纏っている。
その脇には直立不動の体勢で、ペルラが立っていた。
「はい、かの杖が話せて飛べる機能のほかに、光る巨人を作り出す機能も所有している事が分かりました。これは本人、と言っていいか分かりませんが、彼が言うに今日思い出した機能だそうです」
「そうなの? ますます面白そうな杖ね」
手に持ったナイフとフォークで静かに肉を切り分けると、少女は優雅に口へ運ぶ。咀嚼し、それを飲み込むと話を続ける。
「ぜひ一度見てみたいわ。危険はなさそうなんでしょ?」
「はい。彼の性格上も問題なさそうですし、所有している二人の人格も問題なさそうです。しかしクリシュお嬢様……」
「大丈夫よ。お父様には私のほうから言っておきますから。でもこれで退屈しなさそうですわね」
上機嫌に食事を再開する少女、クリシュはおいしそうに肉を口に入れる。
ペルラは最初にしていた真面目な顔は既に崩れており、諦めを含んだ表情となっていた。
「わかりました。しかし行く時は私もついて行きますからね。いいですねクリシュお嬢様?」
「分かっているわよ。勝手に行ったりしないから、安心して頂戴」
そういってクリシュは手を降ってペルラに答える。ペルラはその様子に不安を隠せなかった。
これにて「騎士と冒険者」編終了です。
次回は幕間2をはさみ、「うかれる杖とあきれる魔道技師」編を開始します。




