杖と魔道技師と騎士と冒険者17
「あー、あれな? あれは、そう、新しく目覚めた機能というかなんというか……」
しどろもどろになりながら、そう答えるトール。その説明に首をかしげながらもペルラはトールへ聞き返す。
「目覚めた機能? すると今までは使用できなかったということか?」
「まあ、ありたいていに言えばそうだな。おそらく破損したのを契機に、発動したんじゃないかとは思うが、俺にも良く分からんのよ」
実際はトールの意思にて発動をしたのであるが、トールはこれもまた誤魔化す。もし本当のことを言えば貴重性がトールのみならず、ナーリャとリューナの二人にも及ぶかも知れないと考えたためである。
「そうか。君自身もまだ分からない機能があるということか。そういった意味では今回の調査は必要であったと思うが、其方の方はどうだったかな?」
「あの祭壇ついては今日はほとんど調べられなかったので、昨日調査内容と変わらなく、何も特別な事は発見できなかったです。ただ、昨日調べた限りだと今日も調べても新しい発見はないかな、と思います」
ナーリャの説明にペルラは頷く。しばらく考え事をした後にこれからの予定を伝えた。
「では今回の調査はこれで切り上げよう。またあのオニとかいうやつに出くわさないとも限らない。オニに関しては別途調査隊を組もうと思う」
ペルラの提示した予定に、一向は頷き同意する。
「よし、そうと決まれば街に帰還しよう。街に着いたら一度寄宿舎へ寄ってほしい。先に出会ったオニの詳細を守備隊各位に話してほしい」
そういってペルラは立ち上がる。他の面々も立ち上がると、街へと進み始めた。
隊列は来た時と変わらず、前方に冒険者の3人、その後方にナーリャとリューナ、それにトール。最後尾にはペルラとなっている。
しばらくの間全員黙って進んでいたが、トールがあることに気がついてナーリャ達に小さな声で話しかけた。
「そういえば祭壇のことだけどね、アレは俺をあそこに送り出すために、位置を知らせるための装置みたいだぞ」
「えっ! そうなの!?」
思わず大きな声を出してしまったナーリャは、慌てて口を押さえる。幸い他の人たちには聞こえていないようだった。
「ナーリャさん、声が大きいです。……それで、トールさん、それは本当ですか?」
「ああ、《知識の泉》で調べたからな。間違いないと思う。壊して中を見てみたら分かるかもな」
「そうだったんだ……分からないって言っちゃったけど、平気かな?」
「仕方ないでしょう。あの時は本当に分からなかったですから。しかし帰ったら破壊して、中を調べてみる事を提案してみましょう」
リューナは前を向きながらそう二人に話す。ナーリャもそうだね、と同意する。
ナーリャはリューナに同意すると、トールの方へと少しずつ近づいた。そして手が届くところにたどり着くと、パッとてを伸ばしトールの事を掴んだ。
「おわぁ! な、なんだ!?」
掴まれたトールは驚きの声を上げる。捕まえたナーリャはというと、暴れるトールを抑えながら引っ張り込む。
「ほら、トール静かにして。ちゃんと一回見ておかないと駄目なんだからね!」
「そうですね。しっかりと壊れた箇所を見ておきませんと」
ナーリャとリューナはしっかりと逃げられないようにトールの事を掴むと、壊れていた箇所を見始める。
「それは帰ってからでいいだろう!?」
「だーめ。トールってばいつもそういって逃げるんだから」
「まったくです。いいから大人しくしてください」
二人の手から逃れるのを諦め、取るは暴れるのをやめる。
大人しくなったトールを、二人は改めて全身をくまなく調べ始める。
「とりあえず、壊れた箇所は塞がってるね」
「ええ。塞がれたところはほとんど分かりませんね。綺麗さっぱり無くなっています」
調べながらトールの全身を撫で回す二人。トールは諦めてなすがままにされていた。
その様子を後ろからペルラは、微笑みながらその光景を眺めていたのだった。
半日ほど歩いた先、太陽も真上に昇る頃にダナン城壁都市が見えてきた。城壁は相変わらず健在であり、見るものに威圧感とともに安心感をもたらしていた。
「よっし、とうちゃくー」
ジザリオンが、手を頭の後ろに組みながら、目的の場所に着いた事を伝える。
他の面々も一様に何事も無く到着した事に安堵していた。
「よし、それでは街に入り次第寄宿舎まで来てくれ」
街の城門に到着すると、ペルラは門番と一言二言話し、そのまま皆を中へと招き入れた。
今度はペルラが先導する形になり、一行は守備隊の寄宿舎へと向かう。
城壁に沿って歩いていると、昨日の朝にも見た寄宿舎に到着した。
「では中へ入ってくれ」
ペルラは中に入ると、皆を中へと招き入れる。
「ペルラ隊長、お帰りなさい。調査のほうは順調でしたか?」
中で出迎えたのは、これまたトール達を昨日で迎えてくれた若い守備隊員であった。
「キュアモスか。それについてなんだが、守備隊各員にも伝えておきたい事がある。すまないが今いる者達を集めてくれないか?」
「承知しました。しばらくお待ち下さい」
若手の隊員、キュアモスはそういって奥へと入っていく。その際チラリとナーリャとリューナの方を見ていた。
「なんかこっち見てなかったか、今の奴?」
「そうだった? わたしは気付かなかったけど」
調査員の一行がテーブルに付くころに、守備隊の面々が集まってくる。総勢で10名ほどであり、彼らはテーブルの前で整列する。
「ペルラ隊長、およびという事でありましたが、いかがされましたか?」
「うむ、実は今回の調査で、厄介な化け物に遭遇した。それについて急ぎ意思疎通を図っておきたくてな。もしかしたら我々に討伐命令がくるかも知れん」
ペルラの実力を嫌というほど知っていた彼らは、姿勢を正し真面目な顔つきとなる。
「それではすまないが、今から私が話しをする内容に、おかしな所があれば訂正して頂きたい」
ペルラは遭遇した鬼について守備隊に聞かせる。二足歩行で額に角が二本、大柄でそれに何より持っている回復能力について。
最初は真面目な表情で聞いていた隊員も、次第に表情を曇らせる。
「隊長、その化け物はあのファボルの森で遭遇したのですよね?」
「そうだ。幸い私には優秀な冒険者と魔道技師、それにその杖がいたから何とか討伐できた。しかし守備隊の現有戦力では、数が出てきたら苦戦しかねない」
「隊長たちはどうやって討伐したのでありますか?」
「そうだな……」
ペルラはトールの方を見ると、説明を促す。
トールは浮かびあがって隊員たちの前へとやってくる。トールを見た事がない者もいたのか、少し驚きの声を上げる。
「今回あの化け物、鬼と俺は呼んでいるが、そいつを倒したのは爆弾の爆風で加速して鬼に突撃して、さらに持っていた爆弾を鬼の体内で爆発させた。ここまであれば何とか倒せるようだ」
「爆弾というかプラーミァね、トール」
ナーリャに訂正され、そうだったと言いなおすトール。
その内容を聞いた守備隊員たちは、一様に顔を暗くする。普通爆風を受けて突撃なぞできないし、さらに体内に爆弾を埋め込むというのも無理な話である。
「それにこの杖には特別な機能が備わっている。光る巨人を出して我々とともに戦ったのだ」
おお、と感嘆をあげる隊員たちに、ナーリャとリューナは渋い顔をする。
「その機能の解明が済めば、新たに戦力になるかも知れん。ただし、まだ調査の段階である。そのため貴君らには一層の努力に期待したい」
はっ、と隊員たちは声をそろえて返答する。
「それからその爆弾、プラーミァだったか? それはお二人の店に行けば買えるのであろうか?」
「はい。そんなに数は揃っていませんが、前もって言っていただければ数も揃えられます」
「そうか、それであれば後で買いに行かせよう。あれは結構な戦力になりそうだ」
ナーリャの答えにペルラは満足そうに頷く。そうしていると、先ほどのキュアモスが袋を二つ持ってやってくる。
「隊長、こちらが今回の報奨金です」
「ありがとう。バッルート殿、ジザリオン殿、ウィスティリア殿。お三方がいて今回は助かった。礼を言う」
「なに、こちらも仕事だ」
ペルラはそういってバッルートにお金の入った袋を渡す。次にナーリャ達のほうを見ると、こちらにもお金の入った袋を向ける。
「ナーリャ殿にリューナ殿。それにトール殿も今回は助かった。報奨金も色をつけてある。今後とも宜しく頼む」
「いえ、あまり大したことは出来なくてすみません」
ナーリャはそういうと、差し出された袋を受け取る。受け取った袋をそのままカバンへと仕舞いこんだ。
「ではこれにて解散としよう。もし何かあればまた協力を申し出るかも知れないが、その時は頼む」
ペルラの締めの言葉で、今回の調査隊は解散となった。




