杖と魔道技師と騎士と冒険者16
「なあ、その耳って……もしかしてエルフか?」
リューナに持って連れて行かれていたトールが、ウィスティリスへ問いかける。
聞かれたウィスティリスは上半身を裸にし、トールへ答える。
「ええ、そうです。この辺りでは珍しいため普段はフードを被って隠しているんですけどね」
ウィスティリアは、治療の邪魔にならないように耳を指で指しながらそう答える。
肩の怪我は先立っての治療のおかげで、大半の血は止まってはいたが、その後の動きで再度出血していたようでにじんでいた。
ナーリャとリューナは手早くペリエ薬を塗ると、布を傷口に当てて固定する。
「これでよしっと。今度は出来るだけ安静にして下さいね」
「ありがとう御座います、ナーリャさん。今度は傷が治るまで安静にしますよ」
服を着て、その上にローブを纏うと、ウィスティリアはフードを被り立ち上がる。
ペルラは治療が終えたのを確認して皆に話しかける。
「では、治療も済んだためここを離れようと思う。また奴のような怪物に出会ってもまずい。ジザリオンはバッルートに任せてよいか?」
「ああ、問題ない」
「そうですね、早めに離れた方が良いでしょう」
バッルートはジザリオンを背負うと、ウィスティリスとともに先頭を進み始める。
ナーシャ、リューナ、ペルラも後に続いた。トールは今だリューナに持ち運ばれている。
「そろそろ俺も自分で動きますか」
そういってトールはリューナの手から離れようとするが、上手く飛ぶ事ができなかった。
あれ? と思い、何度か試すが上手くいかない。落ち着いて体の様子を確認すると、理由が分かった。以前魔力切れを起こしたときと同じ感覚であったのだ。
「ナーリャ、リューナ。すまないが魔力が切れているようだ。補充してもらってもいいか?」
「魔力切れ? うん、わかったよ」
「魔力切れ、ですか。分かりました」
二人はトールに触れると魔力を流し始める。すると、トールが鬼に噛み付かれて破損していた箇所が光り、徐々にふさがれていった。
「おお、なんか直っていくぞ」
トールは思わず、そう声を上げる。ナーリャ達二人が魔力を込め終える頃には、すっかりと完治していた。
「魔力の充填は終わったけど……なんかトールの壊れているところ直っちゃってるね」
「直ってますね。本当にトールさんは何物なのでしょうか? 勝手に直る魔道具は見た事ないですよ」
魔力を込めただけで修復される魔道具なぞ見た事もない二人は、破損していた箇所に触れながら、トールの事を嘗め回すかのように全体を見始める。
「とりあえずそれは後にして、今は先を急ごう」
全身を少女に見られる趣味の無いトールは、飛び上がると二人の手から逃れる。逃げられた二人は少し寂しそうにトールを睨む。
「まあいいや。トール、帰ったらしっかりと見せてもらうからね」
「そうですね、帰ったらちゃんと確認させて下さいね」
トールは帰ってからどう誤魔化そうと考えていると、次第に視界が開けてきた。森の外へと着いたのだ。
「さて、森からも抜けたことだし少しここで休憩を取ろう。流石に先の戦闘から続けての移動は少し堪える」
ペルラの提案に、一向は了解の意を示すと各自休憩に入る。
バッルートはまだ目を覚まさないジザリオンを地面へと寝かしつけ、その横にウィスティリアが陣取る。
ペルラもそこにあった石の上に座ると、水筒を取り出して口を潤す。ナーリャとリューナもそれに続いて座って水を飲む。
トールはナーリャ達の脇で浮いて待機していた。
「さて、一旦落ち着いたところで皆に意見を聞きたい。先ほどのアレは一体なんだと思うか? 少なくとも私はあのような生き物は見た事がない」
「そうだな、俺たちもあんな怪物見た事がない。以前この森の調査に来た時も出会っていない」
「そうだね、わたしもあんな怪物見た事も聞いたこともないよ」
「私もです。あのような怪物は聞いたこともありません」
ふむ、とペルラは頷くと、トールの方を見る。
「トール殿はどうだろうか? 先ほどとどめを指す時に何かオニとか叫んでいたようだが」
声を掛けられたトールは、隙あらば捕まえようとしてくるナーリャをあしらいながらも答えた。
「そうだな、俺も話しに聞いたことしかないがアレは鬼と呼ばれるのに近い気はしたな」
「オニか。それは何処で聞いたのだろうか?」
聞き返され、トールはしまったと思った。鬼については生前の日本で聞いた内容であったためである。
生まれ変わってこの世界に来たことに関しては、管理者たちによる情報規制のせいで話すことができず、また下手に話せたとしても問題になりそうだからである。
「そうだな、何処で聞いたんだったか。すまない、記憶の曖昧みたいだ」
そう誤魔化したトールに、ペルラはちらりとトールの方を見ると、顎に手を当てて考え出す。
「そうか。では知っている事だけでもいい。話してもらえないか」
「知っている事と言っても、頭に角があって、怪力らしいという事しか知らないんだよ。生態なんかも全然知らないんだ」
これは本当の事である。トールも鬼については一般的なイメージしか知らない。
「そうか。あの再生能力は非常に厄介だったからな。何かオニについて思い出した事があれば、教えてほしい」
「了解した。思い出した事があれば伝えに行くよ」
トールはナーリャとリューナの方を見る。ナーリャははらはらとした表情をしており、リューナは無表情で感情は読み取れない。しかしナーリャと同様に、トールが余計な事を言わないか、気を揉んでいるであろうとトールは考えていた。
「う、う~ん。あれ、ここはどこ?」
そう話をしていると、気を失っていたジザリオンが目を覚ます。彼はきょろきょろと辺りを見渡し、現状を確認しているようであった。
「ジザ、平気ですか?」
「ジザ、無事か?」
「ウィスにバッルート。おいらは平気だけど、一体どうなってるの?」
気がついたジザリオンに、バッルートは状況を説明する。
記憶がはっきりとしてきたのか、次第にジザリオンは興奮しだした。
「そうだ、そうだよ! おいらあのあの変なでかぶつに吹っ飛ばされて……そういえばあのでかぶつはどうなった?」
「あいつならトールさんが吹っ飛ばしたよ。そういえばあの時の光る巨人見たいのは一体なんだったのですか?」
「そうだな。それについては私も伺いたい」
ウィスティリアとペルラに問いかけられ、トールはどう答えたもんかと頭を悩ませていた。
昨日は更新できず、申し訳御座いませんでした。
仕事の都合上、時々更新できない日もあるかと思いますが、基本昼の12時に更新してきたいと思います。
今後とも、ご愛読の程宜しくお願いします。




