杖と魔道技師と騎士と冒険者15
「ふむ、ではトール殿にかけてみるとしようか。バッルート殿もそれでよろしいか?」
「依存は無い」
「ありがとう。それじゃあ少しの間、頼む」
ペルラとバッルートは鬼のほうへと向かい、鬼に対してけん制を始める。
トールは、二人に足止めを頼んだ後、《守護者の巨人》を解除して光る巨人を一旦消す。そして昏倒しているジザリオンの手当てに当たっていたナーリャとリューナの下へと飛んでいく。
「ナーリャ、さっき俺を助けてくれた時に投げた爆弾って、まだ持っているか?」
「プラーミァのこと? それならまだあるよ」
「私も持っています」
二人はカバンからプラーミァを取り出してトールへと渡す。その数は五個ほどになり、トールは作り出した光る腕でそれを受け取った。
「それをどうするんですか? おそらく全て合わせても、あれを倒すには威力が足りないと思いますが」
「なぁに、ちょっとした実験ってやつだ。それでこれってどうやって使えばいいんだ?」
「魔力を込めて数秒で爆発するんだけど……じっけん?」
トールは爆弾の使用方法を聞くと、ありがとうと言ってそれを掴んだまま、鬼の手が届かないぎりぎりの上空へと浮び上がる。
「さて、ここからが本番だ。結果は見てのお楽しみってやつだな」
トールは《守護者の巨人》を起動し、形作るためにイメージを始める。体である杖の柄の先端から光が発せられ、徐々にそれは円錐を形取る。作り出した円錐の中央にひとつプラーミァを配置して固定すると、今度は宝玉部のほうへイメージを向ける。
宝玉部分の上方には、円筒状の器のように膜を構成し、その中に残りのプラーミァを全て入れる。
「よし、イメージ通り。後は……」
《守護者の巨人》を起動したまま、トールは鬼の上空まで飛んでいくと、柄の先端方向を鬼へと向ける。
己が頭上に停止しているトールに鬼が気付き、捕まえようとトールの方へ向かって手を伸ばすが、何度か手を伸ばして届かない事を理解したのか、今度は飛び跳ねようと腰を落とした。
「させるか! アルマ・アイレ!」
飛び跳ねようとする鬼を止めるべく、ペルラはキーワードを唱え、魔道鎧の機能を展開する。魔道鎧に刻まれた魔法陣が一瞬発光すると、ペルラの持っている剣の先端に風が集まりだす。
「貫け!!」
剣先に集まった風は、ぺルラの叫びとともに鬼の足に向かって飛び出す。そのまま鬼の片足の大腿部にあたると、貫通こそしなかったがその半ばまでめり込んだ。
「グルァア!」
鬼は吼えると、足を抉られた衝撃で体勢を崩す。しかしすぐさまもう片方の足に力を込め、再び飛び跳ねようとする。
「そうはさせん! 『Hma uaYJ yyrC』」
バッルートが短く呪文を唱えると、両腕が光りだす。その光る両腕をもって大剣を構えると、鬼の足に向かって全身を使って大剣を突き出す。鬼へと突き出された大剣は、ペルラが傷を負わせた足とは逆の方に突き刺さった。
「ガアァアァァ!!」
鬼はペルラとバッルートの攻撃に耐え切れなかったのか、悲鳴を叫ぶと両膝を地面へとつく。
「よし!」
今なお膝を付きながらもトールに向かって手を伸ばす鬼を、その真上で眺めながらトールは狙いを定めるために自分の周りを筒、砲身で覆いこむ。
「くたばりやがれ、くそ鬼野郎!」
トールは叫ぶと同時に、宝玉部付近で固定していたプラーミァに魔力を送る。プラーミァは発光すると、その数秒後に大爆発を引き起こした。
その爆発を、トールは宝玉部に《守護者の巨人》によって作り出した器で受けると、柄の先端に作成した円錐を矢じりを先頭に砲身に沿って、鬼へと向かって絶大な速度を持って突き進む。
その勢いは、トールの方へと伸ばしていた鬼の手のひらをやすやすと貫通し、頭を砕くと胴体の腹部まで達した。
「これで終いだ!」
トールは矢じりの先端に備え付けていたプラーミァに魔力を送る。その後、プラーミァを覆っていた円錐状の矢じりを象っていた《守護者の巨人》を解除する。
数秒後、トールによって鬼の腹部へと埋め込まれたプラーミァは、爆発を引き起こした。
鬼の内部にて密閉状態で引き起こされた爆発は、その威力を余すことなく鬼の上半身へと伝える。その結果、鬼の上半身は弾け跳び、ついでにトールをも吹き飛ばしていた。
「おわぁ!」
爆発によって吹き飛ばされたトールは、そのままクルクルと回転しながら放物線を描いて地面へと落下する。
ちょうど柄の部分が地面へと刺さったトールは、回る目をこらえながらも、何とか飛び立とうとする。しかし鬼との戦いと、プラーミァの爆風を受け止めた影響で、ほとんど魔力が切れてしまったのか、動く事ができなかった。
「どうだ!?」
トールは鬼がいたのほうへと視線を向ける。爆発によって作り出された赤い煙が辺りを覆っていたが、それも徐々に晴れてくる。
煙がはれると同時に、鬼の様子も見て取れるようになって来る。鬼は、上半身がなくなっており、その脇に爆発で飛ばされた腕が落ちている。
しばらくの間その鬼の姿を全員が見ていたが、鬼の残っていた体が段々と端の方から崩壊し始め、最後には全てが灰のような粉へと代わっていった。
「どうやら、倒しきれたようだな」
ペルラが息をつき、剣を鞘に収めながら言ったその一言に、トールはようやく終わったと力を抜く。するととたんに笑いがこみ上げてきた。
「ふ、ふははっ! おっし、やったぞ!」
声を上げて笑うトールの傍へナーリャとリューナが駆け寄ってくる。
「大丈夫、トール? どっか壊れてない?」
「大丈夫ですか、トールさん? 壊れたところとか無いですか?」
心配そうな表情をしながら、二人はトールへと話しかけると、ナーリャは地面に刺さったトールを引き抜く。そのままナーリャはトールを持ち上げて確認し始める。
リューナもトールを確認していると、ペルラ、バッルートにウィスティリアの3人もトールの方へとやって来た。
「よくやってくれた、トール殿」
ペルラは笑顔でトールを称える。
「よくやってくれた、トール。それとジザリオンの様子だが、どうだ?」
バッルートは大剣を背にしまい、ナーリャとリューナに鬼によって殴り飛ばされたジザリオンの容態を聞く。
ナーリャは一旦トールを確認するのをとめると、バッルートへジザリオンの容態について答える。
「頭を打っていたようで意識は無いですが、たぶん大丈夫だと思います。ペリエ薬を使って手当てをしておきましたけど、街に戻ったら医者に見せた方がいいと思います」
ナーリャは木の根元に寝かせておいたジザリオンの方へと振り向きながら、バッルート達へ説明した。
「そうですか。とりあえず無事なようで安心しました」
ウィスティリアはジザリオンの方を見ながら、安堵し息を吐く。ウィスティリアもまた怪我をした箇所が痛むのか手で押さえていた。
「ウィスティリアさんも改めて治療した方がほうが良いでしょう。怪我した箇所を見せて下さい」
リューナもトールの状態確認を一旦止め、ウィスティリスへと提案する。ペリエ薬を塗って一応の治療は行っていたが、時間が無かったため雑に塗っただけであった為だ。
「そうですね、済みませんがおねがいします」
ウィスティリアはそう言うと、着ていたローブを脱ぐ。
トールはその様子を見ていたが、いつもフードを被って見えなかったウィスティリアの顔が見えると、小さく驚きの声を上げる。
金色の髪を短く切りそろえた美男子であり、そしてその耳は長くとがった形状をしていたのである。




