杖と魔道技師と騎士と冒険者14
人型に形どった光は、トールを中心に、高さ3mほどまでの大きさとなる。
トールは胸の部分に納められた状態となり、象る光はまさに巨人といった様相となっている。
「すごい……」
「これは……」
呆然とした表情でトールを見上げるナーリャとリューナに、トールは声を描ける。
「こいつが《守護者の巨人》っていう機能みたいだな。光るフィールド、というか結界みたいなもんを任意の形で生成できるものだな」
トールにはこの《守護者の巨人》の使用方法が理解できていた。この機能を開封した際に、頭の中に流れ込んできていたのだ。
この《守護者の巨人》は、任意の形を持ったフィールドを生成できる機能である。今形度っている巨人のような形態も、トールがその名前から連想して想像した形状である。
「(まったく、こいつの使い方を最初から教えてくれるんだったら、《知識の泉》も使い方くらい教えておいてくれてもいいだろうに)」
心の中で愚痴を言いながら、トールは鬼のほうへと振り向く。
変わらずペルラとバッルートが、前衛で鬼と対峙しつつ、ウィスティリアが魔法で後方から援護していた。
「さて、それじゃあ行ってくる」
ナーリャとリューナにそう声を掛けて、トールは鬼に向かい進み始める。
「気を付けてね、トール」
「気を付けてください、トールさん」
二人の言葉を後ろに、トールは初めは一歩一歩確認するように歩き、徐々にその速度を上げる。そしてそのまま走り出し、鬼へと肉薄する。
「なっ!」
いきなり現れた光る巨人に、ペルラたちは驚き声を上げる。、
トールは鬼に組み付くと、その動きを止めるために鬼の腕を掴む。
「急にすまない! 俺だ、トールだ!」
そう声を掛けられてペルラ達は、光る巨人の方を見てその中心に杖が浮かんでいるのを見つける。
「トール殿!? その姿は一体……?」
「すまないが詳しい話は後だ。まずはこいつをどうにかしないと……な!」
鬼はトールに掴まれた腕を振り払おうと、力を込めて引き抜こうとする。しかしトールはそれを察知すると、さらに力を込めて妨害する。
「……心得た。色々伺いたい事ができたが、後回しにしよう。バッルート殿、いけるか!?」
「ああ、問題ない」
ペルラとバッルートは剣を構えなおし、鬼の足を狙って切りつける。トールも鬼の動きを封じるべく、腕を掴み続けていた。
鬼はトールの腕から逃れられないと悟ると、今度は大きく口を開けて光る巨人の腕に噛み付く。噛み付かれた腕からは火花が発生し、ミシミシと音を立て始める。
「ちっ!」
トールは一旦腕を離すと、噛み付いた鬼の顔面を殴りつける。その勢いにたまらず鬼は口を開け、トールの腕を開放する。
噛み付かれた時に、トールはナーリャとリューナに込めてもらった魔力が減っていくのを感じていた。何度も噛み付かれてしまうと。おそらく魔力が底を尽きるだろう。そうなれば一気に形勢は不利になる。
トールは再度鬼の顔を殴りかかるが、今度は逆に鬼に腕を掴まれた。
腕を掴んだ鬼は、そのままもう一度トールの腕を噛み付こうとするが、トールが放った蹴りによって体勢を崩す。体勢を崩したのを見たトールは、鬼の腕を掴むと掴んだまま腰を落とし、鬼に背を向けて密着する。
「オラァ!」
落とした腰を跳ね上げ、一本背負いを鬼に決める。投げられた鬼は背中から地面へと、轟音とともに叩きつけられた。
「ハァ!」
「オオォ!」
倒れこんだ鬼を追撃すべく、ペルラとバッルートは鬼の首目掛けて剣を振り下ろす。しかしその剣は首の半ばまで達したが、落とすまでには至らなかった。
「ウグゥルアァ!!」
鬼は顔の近くにいる人間達を払うべく腕を振る。ペルラとバッルートはその攻撃を避けるために後ろへと跳び、鬼と距離をとった。
トールは、倒れた鬼の顔を殴りつけようと拳を振り下ろすが、鬼は体を横に回転させてそれを避けると、機敏な動作で立ち上がった。
「まったく、キリが無いな」
鬼の首下を見ながら、思わずトールは口にしていた。
先ほど二人がかりで切りつけた鬼の首の傷は、肉が蠢きながら次第に塞がっていった。
「決定打がありませんね。二人がかりでも首を落とせないとは」
「それにあの回復速度だ。まったくもって訳が分からんやつだ」
「ああ、本当にタチが悪いな」
トールは、もう一度相手の動きを止めるために掴みかかりに行く。その後ろに続いてペルラとバッルートも駆ける。
「(何か方法はないか? 殴っても投げても切っても駄目。すぐに傷が塞がっちまう)」
トールは鬼を押さえつけながらも、考えを巡らす。
「(腕を剣の形にして切りつけるか? いや、重さが無い分威力が出ない。ハサミの様にして首を切り落とすとか? ……駄目だ、そうすると、こいつの動きを止められない)」
トールは腕のほかにハサミを作り出そうと試してみるが、まだ《守護者の巨人》の機能になれていないのか上手くいかない。
そうしていると、またしてもトールの腕に噛み付こうと鬼が口を開ける。それを避けようとトールは、鬼の腕を掴んでいた手を引っ込めるが、それを許さないとばかりに鬼は全身を使ってトールへと迫ってくる。
「くそったれ!」
押し返そうと腕を伸ばすが、鬼はその勢いのまま巨人の肩を目掛けて口を大きく開ける。
まさに鬼が噛み付こうとした瞬間、鬼の顔付近で爆発が発生した。その爆発を顔に浴びた鬼は、顔を手で覆いながらたたらを踏んで数歩下がる。
トールが振り向くと、杖を鬼に向けてかざしているウィスティリアの姿があった。
「これでも駄目ですか。取って置きだったんですけどね」
悔しそうな声色で、ウィスティリアは鬼を見ながらそう呟く。
爆発によって鬼の顔の表面は焼け焦げた痕ができていたが、それもすぐに回復してしまう。鬼は回復が済んだことを確認すると、トールの方へと走りよってくる。
トールはそれを受け止め、鬼との組合いになる。
「(爆発でも今の火力じゃあ、表面が焼けただけですぐに回復しちまう。それじゃあ完全に相手を吹き飛ばすには……!)」
トールは組んでいた手を離すと、鬼の顔を殴りつけて距離を離す。鬼は今度はすぐにはやってこず、トール達の様子を伺っているようだ。
「ちょっといいか?」
「どうかしたか?」
トールは鬼から目を離さずに、ペルラとバッルートへと話しかけた。
「少しの間でいいから、あいつの足止めを出来ないか?」
「なにか思いついたのか?」
「ああ、上手くいけばあいつの顔を吹っ飛ばせる」




