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杖と魔道技師と騎士と冒険者13

 

「くそ、離せ! この!」


 鬼に捕まったトールは、その手から離れようと必死にもがく。しかし鬼は動じず、その手に一層の力を込める。


「トール!」


「トールさん!」


 ナーリャとリューナが声を上げる。

 ペルラとバッルートもトールから鬼を引き離そうと、必死に剣で切りつけている。


「離せってんだよ! この野郎!」


 トールは段々と力が増してくる手から逃れようと必死にもがくが、鬼の手から逃れる事ができない。

 鬼も力を加えても壊れない事を悟ったのか、その口を大きく開き始めた。


「ちょ、ちょっと待て! それはまずい!」


 トールの抗議もむなしく、鬼はそのままトールの柄の部分に噛み付いた。

 噛み付かれたトールは、久しぶりの感覚を味わっていた。つまり痛みだ。


「いだだだだ! いてぇってんだこの野郎!」


 噛み付かれた部分が火花を上げている。鬼の牙が徐々に食い込みトールを壊そうと、さらに力を加え始める。

 そんな時だ、トールに声が聞こえてきたのは。


「トールをはなせぇ!!」


「トールさんを離しなさい!!」


 その声はナーリャとリューナであった。

 ナーリャはカバンから取り出した爆弾、プラーミァを取り出すと、鬼の顔めがけて投げつける。プラーミァは鬼の顔の前まで行くと、発光し大爆発を引き起こした。


「ガウゥウラァ!!」


 叫び声を上げ、よろめく鬼のわき腹に、今度はリューナが呪文を唱えながら近づく。


「vawJ Sszd YwgeC Hmaoj imor!」


 両手に雷を纏い、それをそのまま鬼のわき腹へと叩き込んだ。バチン! と大きな音とともに鬼のわき腹がえぐられる。

 大きく口を開け、叫ぶ鬼であったが、牙が柄に刺さっているのか、トールは逃げ出す事が出来ない。


「さっさとはなれてぇ!」


 ナーリャが叫びながら呪文を唱え、鬼の顔の前へと飛び上がっていく。重力軽減の魔法を自分にかけたのだ。

 そのままトールを掴み、牙から引き抜くとナーリャは鬼の顔をけって離脱しようとする。


「ガァ!」


 鬼も黙ってみているわけも無く、その腕をナーリャに叩きつけようとする。


「危ない!」


 トールはナーリャと鬼の爪の間に入ると、なんとかそれを防ぐ。しかし鬼の勢いは止まらず、そのまま離れたところまで吹き飛ばされてしまう。


「きゃあぁぁ!」


 ナーリャが悲鳴を上げて、地面へと叩きつけられる。


「おい、ナーリャ! 大丈夫か!?」


「ナーリャさん、大丈夫ですか!?」


 鬼から離れたリューナもナーリャの下へと駆け寄る。

 叩きつけられたナーリャはぐったりとしていた。二人の声に反応したのか、倒れたまま少し目を開けると、笑顔を浮かべる。


「よかった、トール。無事だったんだね」


「馬鹿! お前が無事じゃないだろうが! 心配させんなよ」


「だって、トールが壊されちゃうんじゃないかと思ったら、いても立ってもいられなくて……」


 ナーリャは体を起こすと、座ったままトールをなでる。

 その横で駆け寄ってきたリューナが、ナーリャの状態を確認する。


「詳しくは分かりませんが、おそらく大丈夫でしょう。まったく、無茶ばかりするんですから」


 リューナは口では文句を言いながらも、その表情は安堵したもので、薄っすらと涙を浮かべている。

 リューナはカバンから傷薬を取り出し、ナーリャへと塗り始める。


「トールさんもあまり無茶しないで下さい。私も心配するんですから」


「ああ、すまなかったな、二人とも。それとありがとう」


 二人はトールの言葉を聞くと、笑みを浮かべる。そのそっくりな表情に、トールは感謝の念が改めて浮び上がってくる。


「(なにかないか? このままじゃまずい。何か二人を救う手段は?)」


 トールは鬼のほうへと向く。

 そこはペルラとバッルートが鬼を食い止め、ウィルティリアが魔法で援護している様子が見える。攻撃は当たっているが、それも意に介した様子は無く、鬼は暴れ続けている。


「(二人を逃がすか? いや、二人は逃げないだろう。だとしたら、あいつをどうにかしなきゃならない。なにか、何かないか!)」


 すると、突然声が聞こえてくる。


 …規定値の突破を確認

 ……2ndプロテクトキーコンプリート


 その声はいつも《知識の泉》を使用しているときに聞いている、機械的な音声だった。


 ……2ndプロテクト解除……解除完了

 ……《知識の泉》における情報制限を一部解除

 ……《守護者の巨人》開封開始………完了


 その声が聞こえたとたん、トールの体が輝きだす。


「え、なに? どうしたのトール?」


「トールさん? どこか不具合が!?」


 その声を聞きながら、トールは意識が深い海へと漂うように涼んでいく。慌てる二人の表情が段々と薄れてくるのを感じる。

 何か膨大な情報が機械音声で流されて、頭に入りこんでいるようで、意識がはっきりとしない。


 …《守護者の巨人》は…を………るための……す。その…用方…は……

 …その…は万…を…ることを……とし、ありと………る害……らその身……だけでな……


 長く機械音声が続き、それが一通り完了すると、音声が急に機械的ではなくなり、男性の声が聞こえてきた。


「やあ、トール君。2ndプロテクトの解除おめでとう。さて、この力は君が守りたいと思う感情によって解除される物だ。願わくばその感情に、世界が含まれる事を祈るよ」


 音声が途絶え、トールの意識はクリアになる。

 トールの頭上ではナーリャとリューナが声を上げてトールを呼んでいる。少し離れたところでは、ペルラたちが必死に鬼を抑えているのが見えた。


「ああ、すまない。大丈夫だ」


「トール? 良かった!」


「何度呼んでも返事をしないから、心配になりましたよ」


 トールは浮び上がり、二人の顔を見る。二人は安堵した表情でトールの事を見上げていた。


「すまなかったな。もう大丈夫だ。それとひとつお願いがある」


「お願い?」


「ああ、俺にありったけの魔力を流し込んでくれ。《守護者の巨人》を試す」


 トールは二人の前まで行くと、頭を下げる。


「守護者の巨人? なにそれ?」


「俺に備え付けられている機能の一つのようだ。実際にやってみないとわからないが、試す価値はあると思う」


 ナーリャとリューナは一度互いを見ると、トールへと手を添えた。


「よく分からないけど、トールが言うんだったらやってみて」


「正直分かりませんが、トールさんが言う事でしたら」


 二人はトールに触れると、トールへと魔力を流し始める。

 トールはその暖かい感覚を感じながら、トールは叫ぶ。


「さあ、《守護者の巨人》! その名の通り、俺らを守って見せろ!!」


 その叫びと同時に、トールは光だし、浮び上がる。

 その光はトールを中心に広がっていき、徐々に腕や足らしき形状を構成し始め、人型を形成した。


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