杖と魔道技師と騎士と冒険者12
「どうした! 何があった!」
大声でそう叫ぶペルラ。
上空には爆音に驚いた鳥たちが一斉に飛び立っている。
爆音は二度、三度と鳴り響く。
そこに森から戻ってきたバッルートがペルラのほうへと向かって、走ってやってくる。
「あっちはウィスが向かっていた方角だ! 今からそっちへと向かう!」
バッルートはそのまま森のほうへと走って行く。
ペルラは少し思案した後、ナーリャ達に向かって告げる。
「嫌な予感がする。君たちはここで待っていてくれ。私はあちらへ向かうとする」
「いえ、わたしたちも行きます!」
「駄目だ、危険すぎる!」
「いいえ、私達も一緒に行ったほうが良いでしょう。傷薬に爆弾も持ってきていますよ」
ペルラはナーリャとリューナの言葉に一瞬逡巡し、決断する。
「分かった。しかし絶対に前にはでるな!」
「わかりました!」
「承知しました」
ペルラは音のなった方角へと走りだし、二人ともそれについていく。
トールもその後ろから飛んで3人についていった。
現場にたどり着くと、そこは怪我を負ったのか、肩を押さえながら肩ひざを突いているウィスティリアに、その前をバッルートとジザリオンが庇う様に、武器を持ち立っている。
そしてその前には怪物が立ちふさがっていた。
トールはその怪物を見た事はないが、表現は出来る。日本で謡われている鬼のようである。
「大丈夫か!?」
ペルラの声に反応したのか、その鬼は大きく手を振りかぶり、バッルートへと叩きつけようとする。それを何とか回避すると、手に持っている大剣を叩き付けた。
しかし鬼はまるで何事も無かったかのように、再度手をバッルートへと振りかぶる。
今度は避けきれず、大剣を盾にその腕を受け止めたが、勢いに押されて吹き飛んだ。
「バッルート! ちきしょう!」
ジザリオンは手に持つ短剣で、目の前の鬼をけん制する。
吹き飛ばされたバッルートは何とか無事なようで、手に剣を持ち再度鬼へと立ち向かっていく。
「お二方は彼の怪我の治療を! 私も前線に出る! アルマ!」
ペルラがキーワードを発すると、彼女の着ていた鎧が発光しだす。先ほど走っていた速度より速く、ペルラは鬼へと向かっていく。おそらく魔道鎧の機能を作動させてたのだろう。
ナーリャ達はウィスティリアの下へと向かい、傷の様子を確かめる。
「大丈夫ですか!?」
「私はなんとか。少しヘマしてしまいました」
ウィスティリアの肩からは血が流れ出ており、ローブを紅く染めている。
ナーリャとリューナはカバンから傷薬であるベリエ薬を取り出すと、水で傷口を洗った後塗っていく。しみるのか、彼は少しうめき声を上げるが、次第にそれも収まる。
傷薬を怪我をした患部へ塗りこむと、それは次第に発光し始める。
「あまり効果は大きくないですが、血止めぐらいにはなります」
リューナはそういっているが、トールからするとその効果はかなりのものである。怪我をしたところは既に血も止まっており、徐々に傷口が塞がってきているようにも見える。
ナーリャは傷口を布で縛ると、とりあえず一安心と息を吹いた。
「これで大丈夫だと思います。あとは安静にしていれば1日2日で傷は塞がるかと」
「すごい効果ですね。やはり魔道技師の薬とは」
ウィルティリスは立ち上がると、杖を持って鬼の方へと向く。
戦局はペルラが加入した事で膠着した状態になっていた。ペルラはその見た目では想像できないほどの怪力で、鬼が振りかぶった腕を受け止めている。そうして出来た隙を、バッルートとジザリオンが巧みに攻撃を仕掛けていた。
しかしそれらの攻撃も効果が薄いらしく、切りつけて出来た傷は瞬く間に消えている。
「では、私も加勢していきます。お二人は下がっていてください」
「でも!」
「大丈夫ですよ。こう見えても私も冒険者です。怪我には慣れていますから。……土の槍を使います!」
大声で前方で戦っている3人に声を掛けると、ウィルティリアは呪文を唱えだす。
「vawJ tte iuC bnxmay ZUpax HmaosJ iYkf」
それは昨日も聞いた呪文である。
ウィスティリアが唱え終わると、地面から槍が飛び出してきて鬼へと向かう。
そのタイミングを見計らって、ペルラは鬼を腕を剣で弾いて体勢を崩した。
鬼へと向かった土の槍は、そのままその足へと狙いを定める。しかし鬼へと命中した傍から崩れていってしまう。あたった痕には多少の傷が出来てはいたが、それもすぐさま塞がってしまった。
「これも駄目ですか。ならばこれならどうです!」
ウィスティリアは新しく呪文を唱えだす。
それらの光景を見ていたトールは、何か出来る事が無いかと考えていた。そうしてひとつ思い立つ。《知識の泉》で弱点か何かを見つけられないかということだ。
「(画像参照、たのむ!)」
…画像参照:データベースに該当なし
「はぁ!?」
その答えにトールは思わず声を出してしまった。
不定名称でもない、そのデータベースに該当なしという答えは初めてだった。
「トール、どうかしたの!?」
「いや、《知識の泉》にあいつの事を聞いてみたんだが、該当なしって答えが返ってきた」
「該当なし、ですか。そうするとあれは一体何物でしょうか?」
後ろで待機している二人に告げ、トールは改めて考え始める。
そうした時、攻撃を避けそこなったのかジザリオンが吹き飛ぶ姿が飛び込んできた。
「あがぁ!」
ジザリオンはそのまま木に叩きつけられ、動かなくなる。そして鬼は、前に立ち塞がる二人をあしらいながら、ジザリオンの方へを向かっていく。
「ヤバイ!」
それを見たトールは思わず飛び出していた。
「トール!」
「トールさん!」
トールを静止する二人の声を背後に、トールは上空に飛び上がると、柄を鬼の方へ向けて突撃していく。その狙いは目である。
鬼はトールに気付いて手で振り払おうとするが、それを見事に避けてトールは鬼の目へと突き刺さる。
「がぁああぁ!!」
トールが目に刺さった鬼は声を荒げ、トールを引き抜こうとする。トールは、なんとか鬼の手から逃れそこから離れると、上空から鬼にけん制を始める。
「ナーリャとリューナはジザリオンを頼む!」
ナーリャとリューナはその声を聞き、ジザリオンの下へと走り、彼を担いで安全地帯まで連れて行く。
その様子を見たトールは、鬼の方へと向き直り、鬼と対峙し始める。
「トール殿はそのまま上空でこいつをけん制してくれ! バッルート殿はこのままこいつを切り続けてくれ!」
「了解!」
「承知した!」
トールは上空で鬼の目を狙い、けん制をする。鬼の意識が上に向かったら、今度はペルラとバッルートがその隙を突いて切りかかる。
そうした連携を駆使し、3人は徐々に鬼を押し始めた。
――よし、このままいけるか!?
そう思った直後トールは意識の範囲外から伸びてきた手に気付けず、鬼に捕まってしまった。、




