杖と魔道技師と騎士と冒険者11
トールが目を覚ましたのは、まだあたりが薄暗い時刻だった。
焚き木の前には交代したのか、バッルートがその前に座っている。
トールは声を掛けようかと思ったが、焚き木が結界の外にあったためそれを断念する。結界に触れてまた壊す事になったら面倒な事になる。
「(さて、暇つぶしになにか調べ物でもするかな?)」
そう思い立ち、トールは《知識の泉》へと質問を始める。まず初めは昨日の昼ごろに出会ったボアベアについて確認する。
…ボアベア:魔物の一種。雑食で主に草や樹皮を食す事が多い。魔素の力によって腕力が強化されており、木々を易々と削り取るほどである。反面、足はあまり強くなく鈍足である。
《知識の泉》に問いかけると、説明と同時に脳裏にボアベアの写真が映し出される。相変わらずの形状で、イノシシに似た体に、熊のような手足を持っている。
他に何か無いかと辺りを見渡すと、ちょうど目に付いたものがあった。トールが刺さっていた祭壇である。
「(最初っからこれで調べていたら、早かったんじゃないか?)」
トールは今まで気付かなかったことに思い当たり、周りにばれる危険があったからだと自己弁護をした後に、《知識の泉》へ画像参照として問いかける。
…画像取得:基点装置と判断。知識の杖を送り出す基点のため設置された装置。次元を超えてシグナルを発し、位置情報を送信する。現在は停止中。
思いのほかハイテクそうな結果である。トールはその内容から、やはり管理者が設置した物かと判断した。短い間ではあるが、この世界に来て調べた範囲ではまだ無い技術であると思ったのである。
トールは起きてきたら二人に伝えようと思い、他にも無いかと色々と見て回る。
バッルートが背負っている大剣に、そのあたりに生えている植物などを調べる。
…画像参照:鉄製の剣と判断。形状により切断ではなく叩き潰すのが目的と予想。
…画像参照:リムの木と判断。ファボルの森に多く自生する木々。木の実には殺菌の効果がある。
なるほどな、とトールが見て周るとふと目に入った物があった。ペルラが着込んでいる鎧である。
騎士となった際下賜されるという鎧は魔道鎧と名前が付いており、おそらく魔法に何かしら関係するものであることは推測できる。
興味の沸いたトールは早速それを調べる。
…画像参照:魔道鎧と判断。各所に刻まれた魔法陣により強化された鎧。その他の機能としてキーワードによって自身の強化、射出魔法の発動などを持つ。本魔道鎧は自身の強化と風属性の魔法発動機能を有する。
身体の強化という言葉に、トールは興味を抱く。そういえば運搬用のゴーレムについて色々聞いていたときも、ナーリャの話に上がっていた。
いまさらながら、あのゴーレムも調べておけばよかったとトールは後悔しつつ、さらに何か無いかと辺りを見回した。
トールが辺りを調べていくうちに、辺りは徐々に明るくなってくる。木々の隙間からは太陽の日差しが差し込んでくる。
その明かりで目が覚めたのか、ナーリャが起き上がってきた。
「トールおはよう。相変わらず早いね」
「ナーリャか。おはよう」
ナーリャは朝の挨拶をして伸びをすると、髪の毛を手櫛で整えて後ろにまとめる。
カバンから水筒を取り出すと、立ち上がってシートの外へと向かう。
「おはよう御座います。ご苦労様です」
「ああ、おはよう」
ナーリャは寝ずの番に立っていたバッルートに挨拶をすると、少し離れた場所で顔を洗う。
しばらくして、他の面々も起き上がってくる。リューナはまだ眠っているようだが。
「ほれ、起きろ」
トールがリューナを起こすと、彼女はしぶしぶといった様子で起きる。青い髪はぼさぼさで、目もうつろである。
「なんですかとーるさん。まだはやくないですか?」
舌ったらずな声で話すリューナ。
「他のやつもみんな起き始めているぞ」
その声を来て、リューナは辺りをゆっくりと見回した後、トールの方を改めてみると徐々に目の焦点あってくる。
そうしてようやく意識がはっきりしたのか、リューナはちゃんとした声でトールへ挨拶をする。
「おはよう御座います、トールさん」
「おはよう、リューナ。ちゃんと目は覚めたか?」
「はい、まだちょっと頭がボーっとしますが、大丈夫です」
少し頭を振り、リューナは立ち上がって顔を洗いに行く。先に起きていたナーリャがリューナが起きてきたことを見つけ、髪を整えている。
「あの二人は仲がいいな」
起きていたペリエは二人の仲睦まじい様子を見ると、そう述べる。
「ああ、まだあって一ヶ月ほどのはずだが、かなり仲はいいな。相性がいいんだろう」
「そうみたいだな。微笑ましい事だ。おっと、挨拶が遅れたな、おはようトール殿」
「おはよう、ペルラ」
トールへ挨拶をすると、ペルラもまた顔を洗いに行く。
冒険者たちの方は、すでに全員が起きて顔を洗い終えているようで、焚き木の付近に集まっている。
顔を洗い終えたナーリャとリューナは、トールのところへと戻ってきた。
「それじゃあ私達は朝食の準備をしちゃうね。トールはちょっと待ってて」
「了解。結界に触れないように待ってるよ」
トールに一言伝え、二人も焚き火の方へと行く。朝食を準備し、一行は食事を取り始めた。
その間トールは焚き火へ行くには結界へ触れなければならないので、まだ引いてある寝ていたシートの上を転がって時間を潰す。
そうして食事を終えた面々は、結界石を解除し、寝床の片付けを始める。
解除された結界は、上の方から一気に下のほうへと向かって消滅する。トールは前回は自分で壊してしまって見れなかった光景に、何かしらのワクワク感を感じていた。
「結界って解除する時、結構面白いのな」
「そう? わたしは別に何にも思わないけどなー」
「私も特には思う節はないですね」
ロマンがないなとトールが思っていると、各自片付けを終えてペルラの下へと集まる。
「さて、本日も昼まで調査し、特に何も見つからなければ、そのまま街へと帰還したいと思う。冒険者の各位は、すまないが辺りの警戒を頼む」
ペルラの指示を受けて、バッルート達3人はそれぞれ分かれて森へと入っていく。
ナーリャとリューナは昨日と同様、祭壇のほうへと行き調査の続きを始めた。
トールは先ほど《知識の泉》で手に入れた祭壇に関する情報を伝えようと、ナーリャ達の方へと向かう。
「ちょっといいか?」
「? どうかしたの、トール?」
トールに声を掛けられて振り向くナーリャ。リューナもそれにあわせてトールの方へと向き直る。
「朝方その祭壇について知識の泉で調べたんだが……」
トールがそう話そうとした瞬間、森の方から突然爆音が轟いてきた。




