杖と魔道技師と騎士と冒険者10
「いや、すまない。思わず声に出して笑ってしまった」
ペルラは思わず笑ってしまった事をトールに再度謝罪する。
トールは特に気にしていなかったので、柄を振りながら答える。
「気にしないでくれ。面白かったのならば、笑ってくれた方がいいもんだよ」
最近はナーリャやリューナに体とうねらせてもスルーされて寂しい思いをしていたので、トールとしてもかえって嬉しかったのである。
「ふむ、面白いな、君は。ますます興味が沸いてくるというものだ。一体何物なのだろうな、君は?」
ペルラに探るように問いかけられ、トールは一瞬身構える。下手な事を話すと薮蛇となりかねない。
「さてな? 俺としても知りたいところだよ」
「君自身にも分からないという事か? だとすると君を作った者の意図は何だろうな」
「それこそ不明だよな。一体どんな意図があって作ったんだか」
半分はトールの本心である。世界の調和などといわれてこちらの世界に来たはいいが、まったくそれらしい事はできていない。そもそも何をすればよいのかも不明である。
「君は空を飛んで、こうやって話せること以外に、何か出来ることは無いのか?」
「他に出来る事といえば、こうやって体を曲げたりする事ぐらいだな」
体をしの字に曲げ、トールは答える。《知識の泉》に関する事はさすがに話すことはしない。
「そうか。飛ぶ事ができるのは一人の騎士としては興味部会が、その辺りは彼女らに任せた方が良いだろうな」
ペルラは少しの間思案顔になるが、すぐにそれをやめる。
そうしてトールとペルラが話をしていると、あたりの警戒に出ていた冒険者の3人が戻ってくる。
「辺りに危険な魔物はいなさそうだ。暫くは安全だろう」
「そうだねー。前に来た時もここいらは安全だったしね」
「私が調べた限りでは魔術的にも、特に異常は見当たりませんね。後は彼女たちの調査次第といったところでしょうか」
3人は安全であることをペルラに報告すると、それぞれが野営の準備に取り掛かる。
バッルートは薪を探しに、残りの二人は焚き木の準備をし始めた。
そうしてトール達はナーリャとリューナが調査を終えるのを待ち、あたりは次第に暗くなってくる。
暗闇で調査を継続するのも困難と判断したのか、ナーリャたちがトール達の元へと戻ってきた。
「今のところ、何も見つからないです」
「気になるところといえば、この祭壇の材質でしょうか。それ以外は特に目立った物は発見できていません」
ナーリャとリューナは戻ってそうペルラに報告する。
報告を受け取ったペルラは、少し考えた後に今後の予定を口にする。
「そうであれば、明日の昼まで調査を継続し、その後街へ帰還したいと思うが、いかがか?」
「それで大丈夫です。明日の昼まで調べても何も無ければ、ここには魔道技術と思われる物は存在しないと思います」
「ならば明日の昼、ここを出発しよう。ご苦労だった、すこし休んでくれ」
「そうだな。野営の準備は俺たちがしておくから、君らは休んでくれ」
「では少し休ませて頂きます」
ここに来るまでの移動と、その後の調査を連続して行っていたため疲労していた二人は、ペルラとバッルートの言葉に甘え休憩に入る。
トールはかなり疲れがみえる二人のところまで行き、声を掛ける。二人は地面にシートを引き、そこに座って休憩を取っている。
「二人ともお疲れさん。大丈夫か?」
「あ、トール。わたしは大丈夫だよ。リューナちゃんは平気?」
「私も大丈夫です。少し疲れはありますが、問題ないでしょう」
「それなら良かった。……それで何か見つかったか?」
トールは最後の方を小声で、ペルラたちに聞こえないように聞く。
それにあわせてナーリャたちも小声で答える。
「特に何も見つからないかな。魔法陣が刻まれているわけでもないし、魔力がたまっている箇所もないし」
「そうですね、私も同意見です。気になる箇所といえば材質ぐらいなものです」
「そうか。それならそれでいいか」
「そうですね。下手に何かあっても困るのはトールさんですし」
二人はトールと話しをしながら、楽な体勢をとる。靴を脱ぎ、魔法で水を出すと足を洗い出す。
その色のある光景に、トールは慌てて目を逸らす。
「そういうのは見てないところでやってくれ!」
「トールって意外と初心だよね」
「そういう問題じゃないだろ。ほら、タオルだ」
トールは柄の部分を駆使して、カバンからタオルを取り出しナーリャへと渡す。ナーリャは洗い終えた足をそれで拭くと、リューナもそれで足を拭く。
「確かに少しはしたなかったですね。次から気をつけます」
二人は足を拭き終えると、靴を履いて立ち上がる。それぞれが野営の手伝いに行くようである。
ナーリャは焚き火のほうへと行き、料理をするようである。リューナはナーリャのバックから食器を取り出し、準備している。
「料理が出来るの? えっと、ナーリャだっけ?」
「はい! 任せて下さい!」
元気よく答えるナーリャに、火の番をしていたジザリオンはそれならとナーリャに食事の番を任せる。
手際よく材料を切り、順序良くそれらを鍋に入れて、自分で持ってきた素を入れナーリャはシチューを作っていく。
その手際よさが気に入ったのか、ジザリオンの他にも集まってくる。
「ずいぶんと手際がいいな、お嬢ちゃん」
「いつも作ってますから。これでも料理は得意なんですよ」
あたりがすっかりと暗くなる頃、料理が完成し各自持ってきた食器によそっていく。全員にいきわたると、それぞれ食事を始める。
「おいしいですね。ナーリャさんはとても料理上手なのですね」
「ホントうまいね。俺らはいつも適当に焼いた肉とか、塩だけスープとかだから余計にね」
「ああ、うまいな」
「ああ、本当においしいな。これなら街でも店を開けるんじゃないか」
騎士と冒険者の4人に褒められ、テレながらナーリャも食べ始める。リューナもナーリャの料理が褒められて嬉しいのか、笑顔でシチューを食べている。
いつもの事ながら、ものを食べられないトールはそれらを見ているしかなかった。
全員が食事を取り終え、リューナが買って出た片付けも終えると、各自就寝の準備に入る。
大きめのシートが2枚引かれ、それぞれ男性陣と女性陣に分かれるようだ。
「それじゃあ最初はおれっちが起きてるから」
「たのんだぞ、ジザ」
冒険者たちは寝ずの番を決めているようだった。それを聞いたトールは疑問に思い質問する。
「なあ? 結界石があれば、起きていなくても大丈夫なんじゃないのか?」
「ん? ああ、基本的には問題ないが、やはり何があるか分からんからな。念のため俺たちは番を決めているんだ」
そういってバッルートとウィスティリアは床へとつく。ジザリオンは料理を作った焚き木の前に座り、薪を足している。
トールはやはり危険はつき物なのかと、次採取などで外に出たときは起きていようと決める。
そんな事をトールが考えていると、リューナの呼ぶ声が聞こえてきた。
「トールさん、ちょっといいですか?」
「ああ、どうかしたか?」
トールはリューナの方へと飛んでいく。リューナは顔を近づけ、トールの宝玉部の近くで小さく呟く。
「トールさん、忘れてないとは思いますが、結界に触ってはいけませんよ? この間それでどうなったかちゃんと覚えてますよね?」
トールは以前結界石の作り出した幕に触れたとき、それがいきなり割れたの思い出す。
今まですっかり忘れていたが、それをおくびに出さずトールはリューナへ答える。
「もちろん忘れてないさ。大丈夫、しっかり覚えているとも」
「なら良いのです。気を付けてくださいね」
そういってリューナは寝る準備へと戻る。
男性組みと女性組みがそれぞれ結界石を発動させると、発生した結界は接触した部分で交じり合い、楕円のような形状をとる。
「それではこちらは睡眠に入る。すまないが警戒のほうは頼んだ」
「へーい、任せといてー」
ペルラの言葉にジザリオンは手を振って軽く答える。
「それでは、こちら寝るとしよう」
一声ナーリャとリューナに声をかけ、ペルラは就寝する。それにつられナーリャとリューナも寝始める。
辺りは焚き木の音しかなく、ただ静かに時が過ぎていく。そこに浮かんでいるものにただ一人も気付くことなく。




