杖と魔道技師と騎士と冒険者9
一行が話しをしながら街道を進んみ幾ばくかの時間が過ぎた。
途中分かれ道があり、トール達が以前に訪れた草原へ続く道とは、異なるほうへを歩みを進める。
その道は森の方へと続く道であったらしく、トールの視界の中には森が生い茂っている様子が見て取れた。
「さて、ここからは静かに頼む。魔物の増え始めるからな」
バッルートがそういうと、ジザリオンは先頭へと立ちあたりを警戒し始めた。
ジザリオンが先頭、バッルートとウィルティリアはその後に続き、さらにその後ろはナーリャとリューナ、それにペルラと続いていく。
トールは冒険者たちとの会話を終え、ナーリャたちのもとへと戻っていた。
「なあ、この森って結構危険なのか?」
小声でそう聞くトールに、ナーリャも小声で答える。
「そこまで外縁のあたりなら危険な魔物いないけどね。ただ視界が良くないから、音とか聞いてあたりを確認するんだよ」
それもそうかと納得し、トールは静かに皆についていく。
一行は森の中に入ると、そこはトールがこちらの世界にやってきた時を変わらない光景を見せていた。
鬱蒼と茂った木々に、えさを求めてリスのような小動物が行き来している。
30分程歩いたあたりであろうか、ナーリャとリューナは少し息を切らし始めた頃である。
「ちょっとストップ。なんかいる」
先頭を勤めていたジザリオンが皆を止める。彼は前方を確認すると、声を発した。
「ボアベアだね。ちょうど進路と被っているけど、狩って行く?」
トールが言われた先、進んでいた方角をよく確認すると、そこには二足歩行する生き物が見えた。それはまるでイノシシの体に熊のような手足を持った生き物であった。
その姿を確認したトールは、相変わらずのこの世界の生態系に疑問を抱いていた。どんな進化を伴えばこんな形状になるのかと。
「そうだな。少しでも街が蒙るかもしれない危険は減らしておきたい。頼めるか?」
「オーケー、ボス。それじゃあチャッチャとやっちゃいますか」
ジザリオンは腰から短剣を抜き、バッルートは背負っていた大剣を抜く。ウィスティリアは二人より若干後ろに陣取り、杖をとりだした。
3人は、気付かれないようにある程度まで近づくと、目配せをする。
ウィスティリアが呪文を唱え始めると、残りの二人はボアベアに向かって走り始めた。
「vawJ tte iuC bnxmay ZUpax HmaosJ iYkf」
ウィスティリアの唱えた呪文に答えるように、地面から土で構成された槍は生え、ボアベアにそのまま突き刺さる。土の槍に縫いとめられたボアベアに向かって、バッルートはその手に持った大剣を振りかぶり叩き付けた。
大剣を叩きつけられたボアベアはひとたまりも無く、そのまま息絶えた。
「ジザ、他はいないな?」
「おつかれー。大丈夫、近くにはいなさそうだよ。結局おれっちはなんもしてないや」
「ジザが警戒しているおかげで助かっているんですよ」
まさに鎧袖一触といった感じで、3人は危なげも無くボアベアを退治すると、装備をしまう。
、その洗練された攻撃に、トールは感動する。以前の草原であった角ウサギとの戦闘では、トールは武器として扱われていた。そのためナーリャとリューナの大体の行動しか把握出来ていなかった。今回は一歩下がったところから見る冒険者たちの見事な連携を見る事が出来たので満足していた。
「すごいな。こうして間近でみると迫力があるな」
「ええ。私としてはあの魔法にも興味があります」
「すごいよね。あんな大きな剣を振り回しちゃうんだから」
3人がそれぞれ感想を言い合い、冒険者たちを褒め称える。バッルートとウィスティリアは態度を変えずにそのまま戻ってくるが、ジザリオンは自分が話題に入っていない事に、多少ふてくされているようだ。
「たすかった、礼をいう。これで街も少しは安全になる事だろう」
「気にしないでくれ。これも仕事の内だ」
ペルラの感謝の言葉に、バッルートは素っ気無く返す。
「すみませんね、うちの大将が素っ気無くて。これでも悪気は無いんですよ」
「いや、気にしないでほしい。私としても、ただ感謝を伝えたかっただけなのだから。それでは先に進もう」
一行は改めて目的地へと進み始める。
トールは、先ほど戦闘があったように付近に魔物がいると実感できたため、静かに進もうを決めていた。
そして一行は、その後魔物に出くわす事も無く進み、やがて開けた場所にたどり着いた。目的の場所、トールが刺さっていた祭壇である。
トールが持ち出されてから一ヶ月以上経過しているが、その様子はほとんど変わっていない様に見えた。
「ここがその杖が刺さっていた場所だ」
バッルートが簡潔にそう説明する。
トールとしてはまだ一ヶ月ほどしか経っていないが、少し懐かしさを感じている。短い間であったが、森の生き物相手に意味の無い念を送り続けたことを思い出していたのだ。
「そうそう、ここだったな。いや~懐かしいもんだな」
トールは自身が刺さっていた祭壇の前までくると、それを観察し始める。トールが刺さってた四角い台座にはやはり何も書かれておらず、その四方を彫刻がなされた柱が4つほど立っていた。
「ここがトールが刺さっていた場所なんだね? きれいな柱が立っているね」
「そうですね。それ以外は一見特に何も無いように思われます」
ナーリャとリューナも興味を持ったのか、台座の方へと近づいていき、それぞれを調べ始める。
「ふむ、先に行ってしまったが、お二人ともここの調査をお願いする。何か異常がないかをお願いする。それと其方の3人は、この辺りに危険が無いか確認してきてほしい」
ペルラの指示で、冒険者の3人はそれぞれ付近を調べ始める。
ナーリャとリューナは、聞こえているんだか分からない様子で、台座近辺をくまなく調べている。
トールは当初ナーリャたちについて周り、台座を調べていたが、特に何があるというわけでもなく次第に飽きていた。辺りをうろつき、特にやる事も無く暇になったトールは、どうせだからとペルラのほうへと向かった。
「よう、今大丈夫か?」
「トール殿か。ああ、問題ないぞ」
ペルラは調査しているナーリャたちから、少し離れたところで辺りの警戒をしていた。
「それで? 何かあったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだがな。ただ二人が調査している間は暇でな。少し話でもと思ってきたんだ」
「そうか。そういうことであれば、辺りは3人が警戒してくれているし大丈夫だろう」
ペルラは腰に下げていた水筒を手に取り、水を一口飲む。トールは飲み終えるのを待って話しかけた。
「そういえば気になっていたんだが、ペルラってお偉いさんなのか?」
その直球な聞き方に、もしリューナが聞いていたら思いっきり吹いていたであろう。もし本当にお偉いさんであれば、無礼な扱いを受けたとしてどんな目にあうか分かった物ではない。
だがペルラは特に気にした様子も無く答える。
「ほう、どうしてそう思った?」
「その着ている鎧が高そうに見えたんだよ。白くて綺麗だろ?」
トールはリューナが言っていた内容をはぐらかしながら、そう答えた。
ペルラが騎士であることは、リューナから聞いた話しで分かっていたが、念のため本人にも確認しておいた方が良いとトールは思っていたのだ。そのためすっとぼけたフリをして、聞いてみたのである。
「なるほど。別に私は偉いというわけではないな。一応は騎士を拝命してはいるが、現在はこの街の守備隊に配属となっている」
軽くそう答えると、ペルラはトントンと自分が着ている鎧を叩いた
「この鎧は、騎士を拝命されると下賜されるものでな。かなり気に入っているが、値段の事は気にした事がなかったな」
トールの高そうという発言が面白かったのか、笑いながらペルラは話す。
「そういった訳で、値段については詳しく分からないのだ。おそらくいい値段がするだろうといった程度だな」
「そうか。いや、変な事聞いて悪かったな」
「なに、気にする事はない。ただし今後は気を付けたほうがいいぞ。騎士というのは、無駄にプライドも高いのが多い。下手に聞くと何をしでかすか分からん」
「そうなのか? それじゃあ今後は気を付けることにするよ」
ペルラの注意に、素直にトールは宝玉部を縦に振り頷く。
トールのその動きを見て、可笑しかったのかペルラは小さく笑いだす。
「いや、すまない。どうにも杖と話しをしていると、可笑しく感じてな」
「そりゃあそうだろう。俺だって、杖となんか話しをしたことなんて無いからな」
そう言ってトールは、家でよくやっている様に体の柄の部分をうねうねとうねらせる。
そのトールのしぐさに、ペルラは少し大きな声で笑い声を出すのだった。




