杖と魔道技師と騎士と冒険者4
「騎士? どういうことだ?」
「どういうことも何もそのままの意味です。彼女は守備隊と名乗っていましたが、身分は騎士のはずです」
リューナは腰に挿してあった紙を取り出し、何かを書き込み始める。それにはトールが見た事もない魔法陣が描き込まれていった。
リューナはそれを描き終えると、トールとナーリャに見えるようにカウンターの上へと置いた。
「彼女の鎧にこの魔法陣が刻まれていました。これは王国騎士に下賜される魔道鎧のものです」
「まどうよろい? 聞いたこと無い魔道具だね? どういった物なの?」
「私も詳しくは把握できていませんが、着用者の戦闘力を大きく高める物だと聞いています。それよりも気になるのは、なぜ彼女は騎士の身分を名乗らず、守備隊を名乗っていたのでしょう?」
その質問に、トールとナーリャは考える。騎士ではなく、身分の低い守備隊を名乗る理由を。
「う~ん……なんだろうな? ただ単に今の所属を名乗っただけじゃないか?」
「騎士ともなると準貴族の扱いになります。わざわざ低い身分を名乗るというのは、他の貴族に低く見られる事になるため、普通は名乗らないんですよ。もしくは騎士を名乗ってから所属を名乗ります」
「えっと、それじゃあ、実は本人がその辺りをあまり気にしない人とかは?」
「それもありえない事ではないですが……」
「まあ考えていたってしょうがないだろ? それよりも出発は3日後だったか? それの準備をしないとだな」
それもそうですね、とトールの意見に賛同しリューナはナーリャを連れて工房へと戻る。
工房の中へと戻った二人は今まで作業していたものを片付け始める。
「さて、それじゃあまだ3日あるけど早めに準備しなきゃだね。結界石も一個動かなくなっちゃったから買いに行かないとね」
動かない結界石。トールは思い当たる節があり、目を逸らす。正確には宝玉部だが。
リューナはトールのその反応を見て少し笑っており、ナーリャは何かあったけ、と首をかしげている。
「さて、それじゃあ俺はどうすれば良い?」
誤魔化すように少し大きめの声で聞くトールに、ナーリャは少し考えた後に答える。
「それじゃあトールには買い物してきてもらおうかな? 食べ物とかこっちで用意するからその他のものをお願い」
「了解した。場所は何処に行けば良い?」
「う~んと、ちょっとまってて」
ナーリャは工房においてあった紙になにかを書き込み、手提げバックと一緒に持ってくる。
「この紙に必要な物を書いておいたから、これを見れば分かると思うよ。売っているお店はダルお爺さんのところなんだけど、場所わかる?」
ダルお爺さん。そこはトールが最初に買い取られた店だ。
トールはそこからナーリャの店まで運ばれていった時のことを思い出し、何とかなるがと思った。
「ああ、そこなら大丈夫だと思う。じゃあちょっと買いに行ってくるわ」
手提げバックとそこに入れたお金と紙を柄に引っ掛け、トールは外へ出ようとする。
しかしそこに立ちはだかったのは、工房のドアである。
何も持っていない状態であれば、何とか開けられるようになったドアであるが、柄の部分に物を引っ掛けた状態ではいかんともしがたい。
トールがドアと格闘していると、それに気付いたリューナが呆れた顔をしてドアを開ける。
「開けられないのだったら言って下さい」
「いや、なんとなく男の意地というものがあってだな……」
「男も何も杖なんだから仕方が無いでしょう。変なとこに拘ってないで、ちゃんと行って来てくださいね」
工房のドアを通りリューナはその先の店のドアも開ける。トールは最近開けられるようになったドアに邪魔をされ悔しさを感じながら外へと出て行った。
外の路には相変わらず人々が行きかっている。多くは職人らしき体格の良い男たちである。
トールは道を思い出しながら、ダルの店へと向かう。道中子供たちに見つかって追い掛け回されたり、辺りの人から好機の目で見られながらも無事にダルの店へとたどり着いた。
店のドアは幸いながら開いており、トールはすんなりと入る事ができた。
「ごめん。買い物にきたのだが」
その声にダルが店の入り口を見ると、そこには空中に浮いた杖がバッグを引っさげて居るのが見える。
「なんじゃ? 最近は杖が買い物に来る時代になったのかの」
ゆっくりと腰を上げ立ち上がると、ダルはトールの方までやってきた。
「お前さんはナーリャちゃんのとこに売った杖だな? ナーリャちゃんはどうした?」
「ナーリャは家で作業中だよ。それよりもカバンの中に入っている紙に書かれているものを売ってほしいんだが」
「なんじゃ、ナーリャちゃんは来んのか。まったく杖だけとは花がないのぅ」
ぶつくさといいながら、ダルはトールが持ってきたバックに入った紙を取ると、ちょっと待ってろと商品棚の方へと向かう。
トールはその様子を後ろから眺めていた。
「ほれ、これで全部じゃ。持ってけ」
ダルは集めた品をトールが持ってきたバックへつめると、その中から代金を持っていく。
「ありがとう。助かる」
「ふん。そんな事より今度はナーリャちゃんを連れてきてくれ。それとリューナちゃんだったかのぅ。彼女も一回連れてきてくれ」
仕事は終わったとばかりにダルはカウンターの裏へと引っ込む。
トールはこのスケベ親父がと心の中で突っ込みを入れる。
「言っておくがスケベ心で言っている訳じゃないぞ。ナーリャちゃんはわしにとって孫娘みたいなもんじゃからのぅ」
心を読まれたかの様に言われた発言に、トールは一瞬ドキッとしたが、幸い表情は分かり辛い形をしているため、とぼけたまま店を出て行った。
トールが街の外壁に近いダルの店からナーリャの店へと進む。
あっさりと買い物も済まし、これが人間の体なら道草でも食うのにと思いながらも、トールは帰り道を急ぐ。
「おや? あれは……」
声が聞こえたのもそんな時であった。
トールの進む路の先には、3人組の男たちが立っていた。
「ああ、やっぱり。間違いありませんね」
「なになに? どうかした?」
その3人組は、森の中でトールを見つけた冒険者風の男たちであった。




