杖と魔道技師と騎士と冒険者2
「食事できたよー」
台所からのナーリャの声に反応し、リューナは手伝いのため台所へと向かう。
トールはというと、改めて自身について考えていた。
この世界において魔道具とは便利な物として、一般には認識されているようだ。そのため喋って飛ぶ杖も、魔道具ならありえるとして受け入れられる。
しかし知識の杖としての機能、《知識の泉》に関しては一線を画す。まだまだ確認しきれていないことも多いが、おそらくかなりヤバイ知識も含まれるであろう。例えば毒ガス兵器や、果ては核兵器レベルの製造法など。
流石にそれらの知識は、例の管理者たちは《知識の泉》に入れていないとは思うが、トールは怖くて調べていない。
トールがそんな事を考えていると、台所から二人は料理を持ってもテーブルへ戻ってくる。
「さて、それじゃあいただきます」
「頂きます」
二人は椅子に座ると、朝食を取り始める。トールはいつも通り見ているだけである。
サラダとパン、それにスクランブルエッグにソースをかけた物が、今日の朝食のようだ。トールはいつもながら美味しそうだと思いながら、食べる事の出来ないこの身を嘆いていた。
「そういえばさっき何を二人で話していたの?」
ナーリャはパンにスクランブルエッグをのせながら、トールとリューナに尋ねる。
「さっきって言うとナーリャが料理作っていたときか?」
「うん。台所からだとあんまり聞こえなくてね?」
「そっか。まあ大したことじゃないが、俺の正体というか喋って飛べることがばれただろ? それについて話していたんだよ」
「ふ~ん、そっかぁ。あの時はいろんな人が店に来て大変だったね」
ナーリャその時のこと、トールを見に多くの人が店に訪れた事を思い出したのか、苦笑いをしている。
「まったくです。それに先ほどはトールさんの、知識の杖としての機能についても注意していました」
リューナは既にパンを食べ終えており、話しながらサラダに手をつけている。
「それもそうだね。トールの知識の杖の機能がばれちゃうと、途端に大騒ぎだよね?」
「その通りです。トールさんが持っている知識の中には世界を覆しそうな物もあると思われます。賢者の石の製造法とか」
リューナは過去に自分が聞いたことがある賢者の石について思い浮かべる。この質問をしたからこそ、トールの危険性を理解したともいえる。
「賢者の石? トールはその作り方もしっているの?」
「いや、これについてはブロック、規制がかかっていてな。作り方はわからなかった」
「そうなんだ。もし分かっちゃうと大変な事になりそうだよね」
「大変な騒ぎになるでしょう。今はトールさんも作り方がわからないようですが、何が何でもほしがる人はでてくるでしょう。そうなれば、トールさんを分解してでも調べようとする人は幾らでもいるでしょうね」
分解という言葉を聞き、トールは寒気を覚える。杖になってからというもの、人間であった時より身の危険を多く感じる気がしていた。
「分解か。ホントそれだけは簡便だな」
「ですので、外では知識の杖の機能に関しては殊更注意して下さい」
「そうだね。わたしも気をつけなきゃだね」
そうして食事を取り終えた二人は、後片付けをして店にある工房へと戻っていく。トールも午後は特に子供たちと遊ぶ約束も無いため、その後に付いていった。
工房の中に入ると、そこには午前中に行っていた実験の後らしき状態で器材がそのまま置かれていた。机の上には魔法陣の描かれた紙から鉱石、薬草、何かしらの液体、動物の革などが置いてある。
「今日は何の実験をしていたんだ?」
「今日はね、ちょっと新しい事に挑戦していたんだ」
ナーリャは動物の革らしき物を持ち上げると、トールの方へとそれを向ける。
「いま作ろうとしているのは、リューナちゃんが覚えた、空間拡張の魔法がかかったカバンだよ。これがあればすごく便利になるからね」
「まだ研究の段階ですけどね。呪文から魔法陣へと変換して、後は幾つかある欠点をどうにかしなければなりませんから」
幾つかの欠点と聞いてトールは思い出す。ペリエ草原に採取に行った時に使った空間拡張の魔法は確かに欠点があった。
一つ目は入れた物が自由に取り出せない事だ。部屋の大きさくらいまで内部が拡張されたカバンは、奥底へと入っていった物を取り出す事ができなかったのだ。
二つ目が効果時間である。採取した物を適当に入れまくった結果、魔法の効果時間が終えるとともにカバンが膨れ上がったのだ。
幸いその時はカバンの止め具が弾け飛んだ程度で済んだが、もっと多くの物を入れていたらと思うとぞっとする。
そして最後に重さである。小さな収納スペースに多くの物が入れられるようになるが、その分重量がかさむのである
「結構大変そうだな。取り出し方と効果時間、それに重さか?」
「その通り! 重さに関してはわたしの重力属性を使えば何とかなると思うんだけど、その他の二つはどうしようかって悩んでいるんだ」
「空間拡張自体の時間は、結局のところ魔力に依存しますので、魔力保存容量自体を大きくし、後は切らさないように注意してもらうしかないでしょうね。これで重量軽減の方の時間も対応できるかと」
「なるほどな。でも重力軽減も空間拡張も、それらの属性を持ってない人には使えないんじゃないか?」
この世界で認識されている魔力属性は火、水、風、土である。しかし実際にはそれらに加え重力、雷、光、時空の4つが存在していた。トールのによってそれらを教えられた二人は存在をしって扱えているが、その他の人々は使えないのではないかとトールは疑問に思ったのだ。
「それなんだけど、属性変換の技術を使えば解決できるとおもうんだよね」
トールは初めて聞く属性変換という単語に疑問を持つ。
「属性変換? そんなことができるのか?」
「うん。そもそも他の人の魔力って反発するでしょ?それを防ぐために調節する技術なんだ。それを使うことで他の魔力属性へも変換できるんだよ」
「そんなものがあるのか。だとすると二人が魔力属性が無いのって別に問題なかったんじゃないか?」
「そういうわけにもいかないのです。そもそも属性変換をする場合、変換後の属性を持っていなければ作ることが出来ません。つまり私の場合は火と土属性へ変換する物は作ることが出来ないのです」
「それだったら他の人に属性変換を作ってもらったらどうなんだ?」
「そうすると今度はその人の波長に魔力が変換されちゃうから、結局わたしたちの魔力とは反発しちゃうんだよ」
ややこしい話しにトールがうなっていると、ナーリャとリューナは午前中の続きであろう作業に取り掛かる。
ナーリャは本を片手に紙の前で唸りながら魔法陣を描き、リューナの方は小さな木箱に魔法陣を描きつけている。
「二人は何の作業をしてるんだ?」
それぞれの作業に興味を持ったトールは、少しの間眺めていたが聞いたほうが早いと思い尋ねる。
それに最初に答えたのはナーリャだった。
「わたしの方は呪文から魔法陣を構築しているんだよ。呪文の発音を書き出して、そこから魔法陣へと変換しているんだよ」
「へぇ、そんな事ができるのか」
「うん。まず呪文を魔法文字で書いて、そこから陣に落とし込むって感じだね」
トールがナーリャが書いている紙を覗きこむと、トールには見た事のない文字が書かれている。その横には途中まで描かれた魔法陣らしきものがある。
トールは魔法文字とやらが気になったがナーリャの邪魔ばかりするのも気が引けた為、《知識の泉》へと質問をした。
…魔法文字:呪文を記号へと落としこんだもの。これを組み合わせ描き、それに魔力を流す事によって呪文の効果を得る事ができる。
トールはその説明に魔法陣ってこういう風に出来ているのかと納得する。またこうやって魔法の効果が再現できるという事に、魔法陣って本当に便利だなぁとも感じていた。
続いてトールはリューナの方へと向かう。リューナは魔法陣を小さい木箱の底に描いていたが、それがちょうど終わったのか魔法陣をチェックしているようだ。
「リューナは何をしているんだ?」
「私は空間拡張の魔法陣が構築できたので、それを試すために木箱の底に描き込んでいました。今はそれがちょうど終わったので確認していたところですね」
間違いが無かったのか、リューナはよしと呟くと、木箱に手を当てて魔力を送り始める。
トールがそれを眺めていると、木箱の底に描かれた魔法陣は薄く発光し、外観は一切変わることなく木箱の内部が急激に広がっていった。




