インテリジェンスロッドと双子の出会い1
「ココが異世界か?」
まばゆい光に覆われた後、透は見知らぬ場所へと来ていた。周囲は森に覆われており、ここは森の開けた場所のようだ。
辺りを確認しながら、自分の体を見下ろしてみる。
「…杖だ」
そう、透の体は異世界の管理者と名乗るアイニスに言われた通り、杖となっていた。
透の体となった杖の装飾はシンプルで、一見木製に見える柄に、先端に丸い宝石のようなものが取り付いた形状をしている。
「本当に杖になっているな。ということはココが異世界ってわけか」
改めて透は自分の状態を確認する。自分の体はやはり杖となっており、今は台座に刺さっている状態のようだ。
刺さっている台座は、一見過度な調度は無く、ただその四方に彫刻がなされていた人の半分ぐらいの高さの柱があった。
そして改めて周囲を確認すると、辺りの森には様々な動植物が見て取れ、小動物が木々を渡り、その実をたべているのである。そこにはリスのようなものもいれば、鼻が妙に長いサルのような見たことも無い動物もいた。
幻想的ともいえるその光景に、異世界にきたのだなぁと透は実感させていた。
「見たことも無い生き物に植物。本当に異世界に来たのか」
そうつぶやきながら辺りの景色を堪能していた。ただただ落ち着いた風景を目の辺りに、久々にゆっくりとした時間を堪能する。
しかし5分も経ったころ、あたりの様子に心奪われていた彼はふと気づいた。まず最初に気づくべきことに。
つまり、あれ?動けなくね?と。
「え!?うそ!?まじか!」
それに気づいた透は慌てて動こうとした。けれど体|(杖)は一向に反応せず、ただただ時間が過ぎていく。
次第にあたりは薄暗くなり、慌てる透をよそに、やがて夜となった。
精神的に疲れた透は、動くのを一旦あきらめた。
「駄目だ、動けん」
あきらめの言葉を吐いた透は、今後どうするかを考え始める。
「(まさか完全に動けないとは…。その辺融通利かせてくれても良かったんじゃないのか?そもそも《知識の杖》って話しじゃなかったのか?そんな知識まったく手に入って無いんだけどなぁ)」
そう、《知識の杖》透には、この世界の知識はまったくといって良いほど無かった。無論、あの面談室で見せてもらった魔法に関するものも一切ない。ましてや世界の調和などという事柄に関してもだ。
「(その辺については考えていても仕方ない。幸い感覚としては喉も渇かないし、腹も減らない。少し落ち着いて考えていこう)」
前向きに思考を持っていく。考えても仕方ない、先送りにするのも重要だと自身を納得させる。
「(それにしても一番最悪なのは、声が届かないんじゃないかってことだ)」
そう、透にはひとつの懸念があった。
先ほどまで何とか動こうとしている最中、だいぶ騒いでいたはずなのだ。それなのに辺りの小動物は一切反応が無い。
つまりは透が話しているつもりでも一切音が出ていないのでは、ということだ。
「(その辺は明日改めて検証してみよう。いまさらだが、下手に騒いでデカイ獣にでも来られたら厄介だし。まあ、テレパシーとかあるかも知れないし、その辺も含めて確認しよう)」
そうやって明日の予定を考えていると、徐々にある感覚がやってきていた。生前は良く感じていた、睡魔である。
「(眠くなってきたな。杖でも眠れるのか。これは今のところだいぶ助かるなぁ。このまま眠れず夜も過ごすのは簡便だし)」
透は睡魔に任せるがままに寝始める。こうして異世界1日目を終えるのだった。
次の日、透は目が覚めると、昨日考えていたことを試し始める。すなわち声が届いているかどうかだ。
「そこのリスさん、ちょいとこちらへ来てみんかね。そちらのサルっぽい君、こっちへ来てくれないか」
元いた世界であれば完全に怪しい人状態ではあるが、透としては進退にかかわる重要なことなので必死に話しかける。
だが、透の呼びかけに応える生き物は居らず、昨日と同様に木々の間を走り回り、食べ物を探しまわっている。透のことなどお構いなしだ。
最後の方ではアーだのオラァだの叫んでみたが一向に反応は返ってこなかった。
「(だめっぽいなぁ。じゃあ次はテレパシー作戦だ)」
ちょうど目に入った一匹のリスらしき生き物に対して、透は念を送るイメージを頭に思い浮かべる。
「(こっちへおいで~、こっちに果物あるぞ~)」
そういった内容を頭に浮かべながら、リスへ向けて念を送り続ける。だが案の定リスは気づくそぶりを見せず、そのまま森の中へと走っていってしまった。
「(まだだ!一匹試した程度じゃ分からん!)」
そうやって辺りにいる動物、リスや長鼻サル、妙に筋肉質なタヌキもどきに二足歩行する犬(チワワ)などに念を送り続けた。
しかしどの生き物も結局、透のほうへは気づかずに各々の生活を送っているだけであった。
「(ちくしょう、誰も気づきやしないな。それにしても何だあのタヌキもどき、マッチョすぎる。それに二足歩行するチワワって反則だろう。微妙なとこでファンタジーしてんなあ、この世界)」
このように透は、色々な生き物に話しかけ、念を送り、時には自分が浮くイメージをしてみたりと、様々な事を試していた。
しかし、結果は芳しくなく、ただただ時間だけが経過していった。
そうして3日も経ち、透がかなり飽きてきたころ、ようやく変化が訪れたのだ。人らしき姿がやってきたのだ。
人数は3人。革鎧姿の男2人、片方はガタイが良く背にリュックらしきものを背負っており、もう一人は背が低くひょろっとしている。最後の一人はローブ姿の男。その姿はファンタジー世界で言う冒険者と呼ばれそうな出で立ちだ。
3人は辺りを警戒した様子で、森から抜けてきた。
「(おお!第一異世界人発見!こっちへ来てくれよ)」
透はここ数日試していた声掛けからテレパシーなどを試していく。そうした努力?が実を結んだのか、冒険者一向は透が刺さっている台座へと進んできた。
「(よし、こっちだ!聞こえるか?返事してくれ!)」
しかし透の願いむなしく、冒険者たちには声が聞こえていない様子で会話をしている。
「おい、こんなところに杖があるぞ。しかもご丁寧に台座つきだ」
「本当ですね、こんな処にこんな物があるだなんて聞いたこと無かったのですが…」
「まあいいじゃんよ、この辺は安全そうだからまずは少し休んでこうよ」
「少し待ってください。いま調べますから」
そういうとローブ男は、右手を透へ向かわせながら、なにやらつぶやきだした。すると突き出した手が薄く光りだす。
手を向けられた透は、少し慌てだす。
「(なんだなんだ!?ちょっと待って!)」
そんな透の慌てた様子とは裏腹に、光っていた手は直に輝きをなくしていた。
「魔力も感じられないですし、罠も掛けられた様子はありませんね」
「よし、じゃあ休憩休憩っと」
そういって背の低い方の革鎧はそこらへ座り込んだ。続いて大柄の方は透のほうへと近づきながらローブ男と話しをしているようだ。
「誰かのいたずらか?」
「さすがに無いでしょう。わざわざこんなことをする意味も無いですし。台座にも何か書き込まれているわけでもないようです」
「ならどうするか。もって帰るか?」
「そうですね、まあ二束三文でしょうが、一応持って帰りますか」
そういうとローブ男はひょいっと杖を持ち上げる。
「(おお!)」
持ち上げられた透は一瞬の浮遊感に声を上げる。やはり冒険者たちには聞こえていないようだ。
「じゃあ休憩しましょうか」
ローブ男は透を台座から抜いた後、革鎧の男の背のリュックにくくりつける。そしてそのまま休憩に入るようだ。
「(駄目だ、声も聞こえない、テレパシーも無理。となるとこの冒険者風の男たちについていくしかないか)」
リュックに括り付けられた透は、どうしようもないと悟り、成り行きに身を任せる覚悟を決めていた。




