プロローグ2
「亡くなっている、ですか?」
いきなり何を言っているのだ、と透はつぶやく。
現にこの場に座っているのは誰だ、と。
「すみませんが、私は現にここにいます。いきなり死んだと言われても正直信じられません」
「仰られるとおりです。ですが事実なのです」
そういってアイニスは浮び上がっている映像を切り替える。
今度は簡易的な人を模した絵と、その隣には人魂のような絵が描かれている。
「まず、ここにいるあなたは魂の状態です」
急なオカルトチックな話に、透はやべぇ新手の詐欺か宗教勧誘か?と身構える。いい加減別世界だの、自分が死んだのだとと胡散臭い話しばかりである。
その様子をみて、アイニスは少し微笑むと、再度話し始める。
「生命は肉体と魂によって成り立っています。生命が失われると、魂は肉体より離脱し、通常は輪廻の輪へ回帰し様々なものへ生まれ変わります」
そういうとアイニスはパチン、と指を鳴らす。
次の瞬間、透の体はぼやけ始め球体へと変化していった。
「えっ!」
突然の変化にまたも透は混乱する。
彼の体は徐々に形を買え、そのまま光る球体になった。
「森宮様の今の体は魂を肉体の形へと変えている状態です。それを解除しますと元の形へ戻ります。」
再度指を鳴らすと、透の姿は元に戻る。
透は自分の手足を確認し、ほっとしたのちアイニスへと話しかける。
「…お話は理解しました。実際に見せられては疑いようがないですし…本当に私は死んでしまったのですね。」
「はい、その通りです。死因は脳梗塞だそうです」
申し訳なさそうにアイニスは話す。
それを見た透は、気を使わせてしまったかな?と思う。それと同時にショックがそこまで大きくなかったことに安堵した。ココまで散々取り乱した挙句に、再度パニックを起こしたとなると、なんかみっともないと感じていたのだ。
「お気遣いありがとうございます。すみません、お話を続けてください」
「ありがとうございます。では本題に入らせていただきます」
アイニスがそういうと、浮かんでいた映像が切り替わる。今度は一本の杖らしきものを映し出す」。
「森宮様には、私共が管理している世界の杖に宿り、世界の調和を担っていただきたいのです」
映像で杖に、魂が入っていく様子が映し出される。そして杖の上に《調和》と映し出される。
「私どもが管理している世界、ゼイアーズと呼称していますが、《チキュウ》でいう中世時代に魔法文化が根付いているような世界です。魔法は分かりますよね?ゲームで取り扱われているものと似たようなものです。」
アイニスは一拍置くと、手のひらを上に向ける。そしてそこから火が出てくる。
透はそれを見て、うぉ!と声を上げる。
「このような魔法が一般的に浸透しています。そこへ《知識の杖》としてゼイアーズへ向かっていただきたいのです。そして知識を、知恵を原住民に与えてほしいのです」
透は何とか話を租借する。要は杖になってその世界へ転生してほしいというわけだ。
すると何個か疑問が浮び上がってくる。
「すみません、いくつか質問してもよろしいですか?」
「はい、構いません」
では、と一呼吸をおいて透は質問する。
「まず初めに、なぜ杖なのですか?」
「森宮様をそのまま人の状態で送りますと、世界への影響が不透明になります。自分で動き、創造し、成果をなす。その影響が大きすぎるのか小さくなり過ぎるのか予測がつかないのです。その点何かに宿る形をとれば限定的になる、と考えております。
そして杖にした理由ですが…」
アイニスは少し目をそらしながら、こう話す。
「趣味です
「は?」
「趣味です」
一瞬何を言われているのか分からなかった透は、つい聞き返してしまい、同じ答えをアイニスは返してきた。
「わ、私の趣味じゃないですよ。上司の趣味です」
アイニスは少し恥ずかしそうにそう答える。顔もほんのりと紅い。
「え、えっと、その…別にそれだけじゃありませんよ?杖というのは現地での知識人、魔法使いなどが愛用しています。知識を与えるのに好都合でしょう?」
少しあわてた様子で疑問系で答えるアイニスに、透はちょっとかわいいなどと思っていた。顔には出していないが。
「えっと、そうですね。まあ、下手にもろいものよりいいかと思います。…もろくないですよね?」
「もちろん、そこはご安心ください。おおよそ地上では壊せない強度を誇っております」
調子を取り戻したのか、アイニスは自信を持って答える。
その言葉に少し安心し、透は次の質問をする。
「それでは次の質問をさせてください。調和をもたらす、知識を授けるとありますが、これは具体的にどういったことをすればよいのでしょうか?」
「知識に関しては言葉通り、杖の所持者になったものに授けてください。杖には現地をあらゆる知識を詰め込んでおります。森宮様が杖になられたら、その知識と森宮様が持たれている知識を授けてください。」
「好きに知識を授けてよいのですか?なんだかまずい気がしますが…」
「そこは森宮様の御判断で問題ありません。そのような人選をさせて頂いたと思っております」
なんか信頼されているっぽい感じがして、透はもやもやする。
「分かりました。では調和に関しては?」
「調和に関しましては、森宮様が杖としてゼイアーズに渡って頂くだけで大丈夫です。詳細はすみません、お答えできないのです。ただ決して森宮様の不都合になることは無いです」
申し訳なさそうにアイニスはそう答える。
その様子に仕方ないかと思い、透は質問を続ける。
「分かりました。ではこれを断った場合、私はどうなりますか?」
「もしお断りされました場合、森宮様には輪廻に戻っていただき、生まれ変わりを待っていただく事になります。そうした場合は記憶等は全て無くなると思ってください。」
「つまりは、OKすると記憶は保持したまま杖になる、ということですか?」
「その通りです。保持したままとなります」
これは聞いておいて良かったと透は思った。このまま記憶をなくしてしまうのは恐怖を感じる。
それと同時に、相手も結構したたかだと考えた。若干脅されているように感じたのだ。
「…分かりました。ちなみに私以外の候補者もいましたか?」
「いいえ、現時点では森宮様が最初の候補者です。森宮様に断れれば次の候補者の選定となります。」
「なぜ私が候補者に選ばれたのでしょうか?」
正直このようなものに選ばれる心当たりがない。別に人格者というわけでもないというのが自己評価である。
「選定基準につきましては、申し訳ございません、詳細はご回答できません。ただし全知を託すと言う事から在る程度信頼できる御仁に、ということになっております」
また詳細は回答できないとの言葉を受け、透は少しため息をつく。しかし下手に嘘を吐かれるよりはましだし、世の中いえないことも多いのが普通だと考え、少し納得する。それにこれ以上突っ込むとまずいかも、とも思い抑える。
「分かりました。では最後にひとつ。選定で選んだ後、私を殺しましたか?」
この質問をしたと同時に、周りの空気が重くなるのを透は感じていた。
はっきり言ってこの質問は不躾だ。相手を不機嫌にさせるであろうし、本当のことを答える確証もない。それに何より知ったところで出来ることは何も無い。
それでも透はこの質問だけはしたかった。
その質問を受けたアイニスは、一瞬何のことだか分からない様子を見せた後、あわててそれを否定する。
「そのようなことはございません!決して!自然に亡くなられた方より選定をし、森宮様にお越しいただいたのです!」
その様子は嘘を吐いているとは到底思えなかった。もしこれが嘘ならばたいした役者である。
透はその様子をみて、嘘じゃなさそうかなと思い、頭を下げた。
「すみません、不躾な質問でした」
「いえ、確かにそのように思われるのも仕方ないですし、お気になさらないでください」
「ありがとうございます。では聞きたいことは以上です」
そういうと透は息を長く吹く。思ってた以上に緊張をしていたようだ。手のひらは汗で湿っている。
それが分かると、魂でも手に汗握るんだなと少しおかしく感じる。
「はい、分かりました。それでいかがでしょう?杖へと生まれ変わり、ゼイアーズへ赴いていただけますでしょうか?」
アイニスの最終確認に透は少し考える。
「(記憶がなくなってまっさらになるのはいやだし、なにより剣と魔法の世界だ。自分は杖だが。
よく考えたら結構わくわくするな、これ。壊される危険も少なそうだし。それに生き返るのは無理だろうなぁ。)」
そう考えた透は、だったらと思いひとつ提案をする。
「ひとつだけお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「残された両親と妹が生活に困らないように出来ないでしょうか?それが心残りで」
そう、妻もいなければ彼女もいないし、だったらせめて家族だけはと思い口に出していた。
それを聞いたアイニスは、少し微笑み返す。
「分かりました。こちらで出来る限りのことはさせて頂きます」
その答えを聞いて透は信じようと思った。どうせ嘘だったとしても戻れないし確かめようが無い。だったら信じてた方が安心できる。そう考え、多少心残りはあるがいいかと思い答えを出した。
「ありがとうございます。どうか宜しくお願い致します。それで杖になる件ですが、お受けします」
その答えを聞きアイニスは少し嬉しそうにし、歓迎の意を示す。
「ありがとうございます。宜しくお願い致します。ではゼイアーズにある杖へと魂をお送りいたします」
そう言うと立ち上がり、呪文のようなものを唱えだす。すると透の体が光りだし、意識が薄れていく。
「森宮様に幸多からんことを。かの世界、宜しくお願い致します」
光が収まるころには、透の魂はこの部屋から消え去っていた。
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「おつかれ、アイニスちゃん」
アイニスが部屋から出ると、彼女の上司が声をかけてきた。
見た目40前後の角刈り、口元にはひげを蓄えた容貌で、全身は筋肉質の男性だ。
「お疲れ様です。なんとか引き受けていただけました。しかしよろしかったのですか?」
「なに、相手側もどう出るか分かってないし、先手を打っておいた方がいい。それに彼は信用できそうだ」
楽しそうに口ひげをいじりながら上司はそういった。
「で、どうだった彼は?」
「よいかと。最初は混乱した様子でしたが、その後は理解し、理解しようとしていました。柔軟性はありそうです」
「そうかそうか、それなら俺が選んできたのに間違いなさそうだ」
そういってがははと笑う上司。
「まったく。では私は彼の御家族の状況の確認と改善がありますので、失礼いたします」
「おう、宜しく頼むわ。それといざという時のバックアップ、頼んだよ」
「承知しました。では」
そういってアイニスは立ち去ると、上司は少しまじめそうな顔をし、こうつぶやく。
「はてさて、うまくいくかねぇ。まずは森宮君がどうなるか。まあ、期待しようじゃないか」




