杖と魔道技師と火薬と薬剤17
「まだゴーレムを見ていたのですか?」
トールがナーリャを質問攻めにしているとリューナが戻ってきた。手には大きな旅行バックを持ち、底に付いた車輪で転がしている。
「リューナちゃんお帰り。トールが離れてくれなくて大変なんだよ」
「これだけ見ていて飽きないのですか?」
「飽きるなんてとんでもない!この大きさ、構造、コンセプト!どれをとっても男のロマンがあふれているじゃないか!」
「男のロマンも何も、あなたは杖でしょう。あと声が大きいです」
冷めた目でリューナはトールを見ているが、当の本人は気にする様子は見せずただゴーレムを眺めている。姿が杖でなければ、子供がおもちゃの前で目を輝かせているようにも見える。
「このロマンが分からないとは、まだまだだな。いいか? まずはこの造詣が……」
「はいはい、いいから行くよ? トール」
何かを語り始めたトールをさえぎると、ナーリャはトールを引っ張って連れて行く。駄々をこねる子供のように。
「あ、こら。まだ俺の話は終わって……」
「いいから行きますよ」
こうして二人はトールを荷馬車のゴーレムから引き離すと、帰路へとつく。トールはゴーレムが見えている間は、ずっとそれを眺めていたのであった。
そうしてひと悶着が合ったが、無事に荷物の集積場を後にした3人は、その後は特に問題も無くナーリャの店へと戻ってきていた。
中に入り、店の奥にある工房までやってくると、リューナは旅行カバンから荷物を取り出す。調合器材である。
それはフラスコ、ビーカーに似たガラス器具から乳鉢、ろ過器と様々なものであった。その中には板状のものに魔法陣が刻まれたものまである。
「あまり種類はありませんが、これで調合の方は目処が付くと思います」
「うん。ありがとうリューナちゃん」
お礼を言うナーリャに対して、どう致しましてと答えるリューナ。
リューナはそのまま取り出した調合器材を、テーブルの上へと並べ始めた。
「それでは、まずは採って来たものを片付けてしまいますか」
「そうだね。荷物も片付けなきゃだし」
ナーリャは採取に持って行ったカバンを持って、工房から出る。リューナは採取してきたものを、種類ごとに分けてテーブルの上へと並べ始めた。
30分程後、ナーリャが工房へ戻ってくると、リューナは既に採取物の仕分けを終えていた
仕分けた採取物を棚やかごへ入れ、片づけが終了する。
「さてと、それじゃあ始める?」
ナーリャの言葉にリューナは頷いた。何を始めるのか分からないトールは、体を?の形にして聞いた。
「何を始めるんだ?」
「もちろん魔道具の製作です。魔法陣における属性混合が可能だったので、今度は作成で使えるか試すのです」
ほう、とトールは答える。二人が魔道技師という話しは聞いていたが、物を作るのは見た事がなかった。
興味深々とばかりにトールは二人の下へと近づいていく。
「それは興味あるな。ぜひ一度見せてもらいたいな」
「それじゃあまずはわたしの方からが良いかな?」
ナーリャはそう言うと、棚から魔法陣の描かれた紙と石を取り出す。
「これは燃鉱石と言って、火薬の材料になる石だよ。それでこっちの魔法陣は燃鉱石を、火薬へと加工するためのものだね」
トールに向かい説明すると、ナーリャは魔法陣の上に燃鉱石を置く。
加工用の魔法陣と聞いて、ピンと来ないトールは、ナーリャのやる事を大人しく見ている。
魔法陣に手を当て、ナーリャが目をつぶりながら魔力を流し始める。魔法陣は薄っすらと光りだして、徐々にそれは大きくなっていく。
すると魔法陣の上に置かれていた燃鉱石に変化が出始めた。魔法陣の発光が大きくなるにつれ、燃鉱石が徐々に崩れだしたのだ。それはどんどんと進み、最後には燃鉱石は全て砂状となっていた。
「よし、成功だね」
燃鉱石の全てが砂状になると、ナーリャは魔法陣から手を離し魔力を送るのをやめる。全て砂状態になっているのを確認し、満足そうに頷いている。
「なあ、これなんなんだ?」
当たり前といった感じで作業しているナーリャに対して、トールは大分驚いていた。
燃鉱石とやらが火薬の材料となるのはいい。だが魔法陣の上にのっけただけで、砂になるのはどういった原理なのか。そこら辺が分からずにトールは驚いていたのだ。
「うん? これって?」
「今その燃鉱石とやらが砂みたくなったが、何でだ?」
「? 魔法陣で加工したからだよ?」
あっさりと告げられ、トールはポカンとしてしまう。
トールの常識では、通常鉱石などを粉砕加工するときは磨り潰したりする必要がある。以前一度手作業でそれを行った事があったトールは、大変地味ながらも手間取ったことを思い出していた。
しかしナーリャは魔法陣という手段であっさりとそれを完遂している。トールはなんだかずるいなぁと思ってしまっていたのだ。
「……魔法陣って水とか火とか出すだけじゃないんだな」
「それはそうだよ。整形や加工といったことも出来るし、魔力を込めたりも出来るよ」
なんだか自分の物作りの常識が崩れそうになるトールは、どういった原理とかは一旦考えるのはやめようを心に誓う。魔法の世界で考えても仕方が無いことと割り切る。
「それで、その砂になった燃鉱石が火薬ってことか?」
「うん、そうだよ。正確には砂状にして、火の属性を少し付与した状態かな。火の属性を入れることで、火力が少し上がるんだ」
トールはなるほどと理解していると、今度は隣で座って作業しているリューナが目に入った。
彼女は草原でとってきた草、ナスィーム草を磨り潰している。
「なあ、そっちの草は魔法陣で加工できないのか?」
「これは出来ませんね。下手に魔法陣を使用してしまうと、魔力が反応してしまい変に属性が付与されてしまうので」
便利なだけじゃないんだなとトールが思っていると、リューナは磨り潰した草をビーカーの中へ入れ、その中に水を入れた。
それをアルコールランプで煮詰めると、出来た緑色の液体を濾して中の不純物を取り出す。
リューナは不純物を取り除いた液体の入ったビーカーを、今度は魔法陣の上に載せてナーリャと同じ様に起動させた。
魔法陣が輝くのと同時に、中に入っていた緑の液体が沸騰したようにあわ立ち、最終的には粉のようになる。
「これで完成です。ナーリャさん、こちらも出来ましたよ」
「うん分かった。こっちも準備OKだよ」
二人はそれぞれが作り上げた火薬と粉を持ち寄り、それらを混ぜる。混ぜた粉末を紙で簡単にくるむと、新たに描かれていた魔法陣の上にのせる。
「さて、これで上手くいけば……」
「うん、わたし達の魔力で複合属性のものが出来るね」
納得している二人をよそに、トールは何がなんだかさっぱりである。
「今度は何をしようとしているんだ?」
「今はプラーミァを作ろうとしています。まあ行ってしまえば爆弾ですね」
おいおい大丈夫かとトールが思っていると、続いてナーリャが説明する。
「この爆弾は風と火の属性が必要で、これが上手く作れれば、わたし達二人の魔力でひとつの物が作れるってことになるんだ」
そうして二人は、魔法陣の上に手をのせて魔力を流し始める。
光る魔法陣の上にのっている紙にくるまれた粉末は、徐々にその姿を変えて最後には綺麗に紙で覆われた玉のようになった。
「……成功ですね」
「……成功だね」
ナーリャとリューナの二人は、出来た玉を見て笑顔でハイタッチをした。




