杖と魔道技師と火薬と薬剤15
街道を通り、町への帰路を進む3人。ナーリャとリューナは歩きながら話し込んでおり、トールはその後ろを荷物を持ちながら浮かんでいた。
「そういえば、昨日ひとつ考えたんだけど」
話に花を咲かせていたナーリャとリューナに、トールは話を振る。
「どうかしたの、トール」
「いやさ、昨日角ウサギとの戦闘で魔法同士がぶつかって混ざったって話をしたじゃないか?」
「ええ、昨日の時点ではまた改めて検証しましょうとのことでしたが」
トールの話しに、歩みを緩めナーリャとリューナが振り向く。
「それなんだがな?ちょっと確認したところ通常魔法同士がぶつかると一方が消えるか、もしくは両方が消えるって現象が起こるみたいなんだよ。でも昨日の二人の魔法は混ざり合っていただろ?」
「うん。やっぱり魔法ってぶつかると消えちゃうんだ」
「そうなんだよ。でも昨日は混ざっていた。それで考えたんだが……」
トールは一拍置いて、切り出す。
「二人の魔力って、そのまま混ぜ合わせることができるんじゃないか?」
それを言われた二人は、何を言われたのか一瞬分からずポカンとした表情をしていた。
意味を咀嚼し、理解が及んだところで表情を一変させる。
「何を馬鹿なことを言っているんですか!そんなわけ無いでしょう!」
「そうだよ!いくらなんでもそんなこと考えられないよ!」
思わずといった感じで二人は声を荒げ、トールの意見を否定する。
魔力の混合は過去多くの魔道技師により研究されてきた。しかし成功者は誰一人として居らず、またその危険性から今では研究するものがほとんどいない。それが魔道技師達の常識となっている。そのため二人の頭にはその発想は一切無かった。
そんな二人の否定的な意見に、トールは落ち着いた様子で語りかける。
「でもさ?以前俺に魔力を補充してくれた時は、二人の魔力を注いでも問題なかったじゃないか」
「それはおそらく、色々とおかしいあなたが特殊なのでしょう。その機能を解明できれば、道も開けるとは思いますが……」
すこし落ち着いた様子でそう話すリューナ。
トールはさりげなくおかしい発言をされ、心の中で少しへこみながらも話を続ける。
「それなんだけどな?今思えばそこが間違ってると思うんだよ」
「? そこって?」
「俺が特殊ってところ。そもそも俺にはそんな機能は無いんじゃないか?」
「……つまりどういうことですか?」
「俺が魔力を混ぜる機能を持っているわけではなく、君ら二人がもともと混ぜても問題ない魔力を持っている。つまり特殊だったのは君達二人じゃないのか?」
そのまま3人は黙りこむ。歩みは既に止まっており、立ちつくしていた。
トールの話しを聞いていた二人は複雑な表情をしている。ありえない、もしかしたら。そんな二つの考えが去来している。
その様子を見て、トールは二人の気持ちを良く理解できた。
二人は魔道技師という名の技術者だ。技術者というのは元来積み重ねで物事を考える。
先人の知恵、過去実験によって編み出された数式、己が手で行う検討と検証。それらを積み重ねた上で新しい技術を開発していくのだ。
そして、おそらくトールが今言っている内容は、それら先人の積み重ねの根本を否定するものである。通常はそんなのは一笑に付される。
しかしトールはこの世界にやってきたばかりである。そして魔法の知識などは《知識の泉》によって与えられているものであり、積み重ねが無い。そのため現状否定しやすい思考を持っていられた。
「魔力を混ぜるのが俺の機能だとしたら、昨日魔法がぶつかった時の反応が説明つかない。でも元々二人の魔力は混ざり合うことが出来るって言うのなら、説明がつく。そうじゃないか?」
トールの追加の提唱にも返事はない。二人はそのまま黙り込んだまま、何かを考え込んでおり、時折目を合わせている。
トールも現状、これ以上の考えは持っていなかった。ただ口に出したことで考えがまとまり、やはり間違いないのではないかと考えを新たにしていた。
暫く3人はその場で立っていたが、とりあえず帰りましょうというリューナの言葉で帰路に着く。
帰路の間、3人は黙ったままであり、特にナーリャとリューナの二人は考えこんでいたようであった。
そうして3人は、昼が過ぎた頃に城砦都市ダナンへと戻ってきた。
城門で門番に挨拶し、ナーリャとリューナはそのままナーリャの家へと向かう。
トールもその後を付いて行く。途中、好奇の目で見られているのに気がついていなかったが。
ナーリャの家の前までたどり着くと、3人は普段生活している家ではなく、隣にある店に入っていく。そしてそのまま店の奥にある工房まで入っていった。
工房のドアを閉め、トールは荷物を床に置き、二人は椅子に座る。
「……リューナちゃん、改めてトールが言っていたことをどう思う?」
そう切り出したのはナーリャだ。トールの言っていたこと、つまり魔力を混ぜられるかということだろう。
「まずは本当に魔法が混ざるのか、から検証する必要があります。私はトールさんが仰っていた、魔法が混ざる瞬間を見ていませんから」
「そうだね、わたしも同意見。ここだと危険だから裏庭に行こうか」
二人は立ち上がり、そのまま工房のさらに奥にあるドアへと向かっていく。
トールは忘れられているっぽいことに、哀愁を漂わせながら後ろからついていく。
ドアから外に出ると、そこはちょうど生活している家の裏手のようだった。
裏庭は広々としていて、端のほうには幾つかの植物が植えられている。店と反対側の家との間には柵が設けられていた。
トールはこんな所で家と店が繋がっていたのかと感心していたが、二人にとってはどうでもいい事のようで、検証手順を話しあっている。
「それじゃあ、昨日と同じにわたしが魔法陣で火炎球の魔法を発動するから……」
「私は風球の魔法ですね。目標はそこの石が置いてある場所にしましょう」
二人は懐から紙、魔法陣を出すと目を合わせうなずく。そして同時に魔法陣を突き出し魔法を発動した。
二つの魔法は、目標の石の直前でぶつかり合い、そのまま以前と同様に混ざり小さな火炎の竜巻を作り出した。
「……まざっているね」
「……混ざってますね」
何度か試し、同様の結果がでたことを確認しあう二人。
「間違いなさそうですね。確かに私達の魔法は混ざりあうようです」
「うん。これが魔法陣でも同じことが出来れば……」
「この現象はトールが草原で見たのと同じなんだよね?」
「ああ、同じ現象だったよ」
目を合わせ頷き合うと、二人は戻りますよとトールへ声をかけて店の工房へと帰る。
帰った二人は、今度は紙とインクを用意し、魔法陣を描き始めた。先日トールの魔力を検証するために書いていた、火と風の混合魔法陣に似ていた。
「これでよしっと。こっちは完成したよ」
「こちらも準備よいです」
二つの魔力を魔法陣に流し込むと最悪爆発が起こる。そのため安全を確保するために、円形の魔法陣から魔力を注ぐための線が二本、外側へ長く描かれている。少しでも魔法陣から離れて、起動できるようにするためだ。
「あとはこっちからわたしが、そっちからはリューナちゃんが魔力を送ればいいだけなんだけど……」
ナーリャは踏ん切りがつかないのか、不安そうな顔をしていた。
「……あとは試してみる他ありません。やってみましょう、ナーリャさん」
リューナの発言に、ナーリャは、うんと頷くと魔法陣から伸びている二本の線に、それぞれ緊張した面持ちで手を当てる。
二人は目を合わせ頷くとカウントダウンを開始した。
『3、2、1、今!』
二人が手を置いた線から光が発せられる。それぞれの線から中央の魔法陣に向かい光が徐々に伝わっていく。
そして円形に描かれた魔法陣でそれらの光が交じり合うと、魔法陣全体が発光しその効果を発揮した。
魔法陣は破裂することなく風に揺られる火を生み出していた。
昨日は投稿できずに申し訳ありませんでした。ちょっと体調崩していました。
回復したので、今日から改めて出来るだけ毎日投稿します。
基本昼の12時の投稿になるかと思います。




