杖と魔道技師と火薬と薬剤14
予約をミスってしまい2話同時投稿です。
杖と魔道技師と火薬と薬剤13も同時に投稿していますので、よろしければそちらからご覧ください。
朝日が昇り、夜が明けた頃にトールは目が覚めた。ナーリャとリューナの二人はまだ眠っているようだ。
二人の様子を確認し、トールは空を見上げた。結界石の効果はまだ発動しているようで、薄っすらとしか見えないが、今日も良く晴れているようだ。
トールは辺りを確認し、特に問題ないと判断すると浮び上がる。そうして結界石のドーム状の幕、結界の方を見る。少女二人の寝姿は流石に見ていられないので。
斑模様の結界は、昨日と変わりなくそこにある。それを眺めていたトールはふと触れるのか気になった。
物は試しとばかりに、柄の部分を曲げちょんちょんとつついてみる。すると特に触った感触は無いが、触れたところから波紋が広がっていくのが見て取れた。
面白がって突いているうちに、これなら通り抜けられそうだなと判断したトールは、そのまま全身を結界の外へと出そうとした。
柄の方から徐々に結界を通り、宝玉部が通過しようとした時、変化は訪れた。宝玉部が結界を触れた瞬間、パリンと音を立てて崩れたのだ。
「げっ!」
思わず声を上げてトールは、辺りをきょろきょろと見渡す。幸い近くに魔物もいなければ、雨も降っていない。
ただ結界が防いでいたのか、急に風が吹いてくる。トールには分からないが、まだ朝早いため少し冷たい風だ。
「クシュン!」
その音にトールが振り向くと、ナーリャが眠気まなこで起き上がっていた。
「う~ん。なんだかひえる。あ、とーるおはよう」
伸びをしながらナーリャはトールに向かい朝の挨拶をする。その様子はまだ眠そうだ。
「あ、ああ。おはようナーリャ」
まるで子供のいたずらがばれそうになった時のような居心地の悪さをトールが感じていると、ナーリャは目が覚めてきたのか辺りを見渡す。
そうして、結界の幕がないのに気づいた。
「あれ!?結界が無くなっちゃってる!どうしたんだろ?」
ナーリャの予想より早く消えていたためであろう、慌てて昨日作動させた結界石を確認している。
「ああー!壊れてる……なんでー!」
ナーリャは結界石を両手で掴み上下に振りつつ声を上げている。その様子にますます居心地が悪くなっていくトール。
「……おはようございます。どうしたのですか朝から」
ナーリャの声に気がついたのかリューナも起きてくる。こちらもまだ眠いのか、目が半分閉じている。
「結界石が壊れちゃってるの!」
両手で掴んだ結界石を、リューナの前に突き出しながらナーリャは声をあげる。
リューナは、けっかいせき……と口の中で何度か呟き、徐々に目を開けていく。そして少しした後パッと目を開けると、ナーリャに向かって話しかける。
「結界石が壊れたのですか!?それはいつ頃ですか?」
慌ててリューナも、ナーリャが突き出してきた結界石を確認する。
結界石のおかげで夜も見張りを立てずに寝ていたのだ。それが壊れていたのであれば慌てもするだろう。
そして壊した張本人であるトールは、そしらぬ顔で浮かんでいる。顔は無いが。
浮び上がっており、起きていることを伺わせるトールが静観している姿に違和感を覚えたリューナは、トールに向かって話しかける。
「トールさん。何か知りませんか?」
「いや、おれはなにもしらないぞ」
トールは宝玉部を振りながら、柄部分をねじらせつつ棒読みでそう答える。
そのあからさまに怪しい態度に、リューナはこの杖が何かやったなと検討をつけた。
「トールさん、何かしましたね?」
「えっと、その、なんだ。ちょっとな?結界を通りぬけようとしたら、パリンって音がしてな?そうしたら覆っていた結界が消えてしまってな?」
言い訳がましくそう説明するトールに、ナーリャとリューナはため息をつく。
ナーリャは起き上がって、トールのことを捕まえる。
「だめだよトール。ちゃんと説明しないと」
「そうですよ。子供じゃないんですから。……子供じゃないですよね?」
そう二人に詰め寄られ、トールは大人しく再度説明する。朝起きてちょっと突いてみて、通りぬけようとして宝玉の部分が触れたとたんに結界が割れたと。
その説明に、二人はもう一度ため息をつく。
「相変わらずトールは、訳の分からない現象をおこすよね」
「まったくです。これは本当に一度分解して、調査する必要があるかもしれませんね」
「いや、俺が悪かった!反省しているから分解は簡便してくれ!」
ナーリャに掴まれ、何とか逃げようとトールはウナギのように体をうねらせる。
それが面白かったのか、リューナは冗談ですよ、と言って笑い出す。ナーリャもそれにつられて笑い出した。
「本当に簡便してくれ。俺が悪かったから」
「まあ冗談は置いておいて。トールさん自身も分からないことがあるようですし、気をつけて下さいね」
リューナの提言に、トールは素直にうなずいた。下手なことをすれば、迷惑がかかるのはこの二人だからだ。
「でもトールの宝玉もちょっと興味あるよね」
「それもありますが、先に朝食にしませんか?」
やはりリューナは食い意地が張ってるな、とトールが思っていると、なぜかそれを察知したかのようにリューナに睨まれる。
「俺はなにも言ってないぞ」
「言いたそうにしているのが分かります。別に食い意地が張っているわけではなく、早めに朝食を取って帰りの準備を整えた方がいいと思っただけです」
分かりやすいかな、とトールが自分のことを見下ろしていると、ナーリャがそれじゃあ、と朝食の準備に取り掛かる。リューナは既に手伝いを諦めたのか、大人しくしていた。
ナーリャは昨日焚き木をしていた場所に薪をくべ、呪文を唱えて火をつける。そこに鍋を置き、油を引いて角ウサギの肉を焼いてゆく。焼いた肉に調味料をかけ、切ったパンに野菜と一緒にはさんでいった。
出来上がったサンドイッチを、リューナは嬉しそうに見ながら準備が済むのを待っている。トールは食べたいなあと思いながら、ナーリャの横で柄に引っ掛けてかばん持ちをしていた。
朝食の準備を終えて、ナーリャは水筒から水を出して木のコップへと注ぐ。
「それじゃあ召し上がれ」
「いただきます」
待ってましたとばかりに、リューナはサンドイッチをほおばる。ナーリャもおいしそうに食べる。
トールは相変わらず食べられないので、二人が食事を終えるのを待っていた。
食事を終えると、二人は後片付けを始めた。食器や鍋をリューナの出した水で洗い、シートをたたみカバンへとしまう。
最後に焚き木に水をかけて消火し、土をかけて埋める。
「よし、これで大丈夫だね」
「そうですね。それじゃあ道すがら採取しつつ帰りますか」
「それじゃあ、またカバンを俺に引っ掛けてくれ」
ナーリャは採取したものを入れたカバンと、食料が入っていたカバンをトールに引っ掛ける。採取入れのカバンはパンパンで、口元の金具が外れた状態である。
「それにしても、空間拡張の魔法は考え物だな」
昨日空間拡張のかけたカバンに、ナーリャとリューナの二人はどんどんと採取物を入れていった。そして1時間ほど経った頃、空間拡張の魔法が切れて、カバンの止め具がはじけ跳ぶアクシデントがあった。
幸いにもカバンごと破裂するといったことは起きなかったが、効果が切れたときの現象を図らずも実測した形となった。
「確かに考えなければなりませんね。ただ魔力の込め具合とかで調整できる気がしますので、使いようによっては大分便利になるかと思います」
リューナは口元に手を当てながらそう言う。
「それじゃあ、帰り道に考えながらいこっか」
ナーリャの合図で3人は街道へと戻り始めた。




