杖と魔道技師と火薬と薬剤13
夕食も終わり、ナーリャとリューナの二人は就寝の準備をし始める。日も落ちて、空には満面の星空が覆っていた。
二人は地面にシートを引き、ローブを毛布代わりとして寝るようだった。
「おいおい、このまま寝るのか?」
荷物の中にテント用具などは入っていなかったのをトールは見ており、どうするのか気になってはいたが、流石にそのまま寝るとは考えていなかったのである。
「ううん、流石にこのままじゃあ寝ないよ?魔物に襲われたら危ないしね」
ナーリャはシートの上に座りながら、懐から石を取り出す。それは昨日リューナが買出しに行って買ってきた結界石だった。
「これをこうしてっと。これで大丈夫」
ナーリャが石に手をかざし何かをすると、石は淡い光を出し始める。
そうすると今度は、石を中心に薄い膜のようなものがドーム状に発生する。それは広がり続け二人が寝るために敷いたシートをすっぽりと覆った。
「……これは?」
トールは結界石が起こした神秘的な現象に、何が起こったのかわからずに思わず疑問を口にする。
「これが結界石の効果だよ。魔物の進入を防いでくれる上に、雨なんかも通さないなんだ」
トールはその説明に、ナンじゃそりゃと思っていた。いくら剣と魔法の世界だからって便利すぎじゃねと。
ぶつぶつと呟いているトールを見て面白かったのか、今度はリューナが笑いながら話す。
「あなたは偶に面白い反応を返しますね」
「いや、流石にこんな道具を出されちゃあ驚くなというのが無理ってもんだろ?」
トールは笑われて恥ずかしいのを誤魔化すように、結界石によって作られたドームを見る。
ドームは半透明で、薄っすらと反対側の風景も見える。全体的に白く斑状になっているのが隔世の感を出していた。
「しかし、不思議な光景だね。こんな光景は見たことが無かったな」
「それはそうでしょう。あなたは生まれて10日ほどなんですから」
トールはリューナの言葉に咄嗟に反論しようとしたが、確かにこの世界に生まれて10日程かと思い直す。
それに前世に関することは、秘匿事項とのことで話せないのは以前に経験していたことだ。
「まあそれもそうだな。この世界にはまだまだ知らないことが多そうだ」
「変なの。トールって知識の杖なんでしょ?わたし達が知らないことをいっぱい知ってそうなのに」
その質問に、そういえばナーリャには《知識の泉》のことを説明してなかったなと思う。
トールは以前リューナに説明したことを、再度ナーリャに説明する。つまりは知識はトール自身が持っているのではなく、知識の詰まった本を持っているような感覚であるということを。
その説明を聞いたナーリャは、へーと呟いてトールを覗き込む。
「そうなんだ。やっぱりトールって変わってるよね?魔道具のはずなんだけど、なんか違うっていうか」
「それを言うなら、喋っている時点でおかしいですよ。それだけで見世物小屋で一儲けできるんじゃないですか?」
「いやいや、勘弁してくれよ。見世物小屋なんかにいきたかないぞ」
そう言って浮び上がり体をうねらせるトール。その様子に2人は笑い合っていた。
「そういえばひとつ気になったことがあったんだが、聞いてもいいか?」
「? なぁに?」
トールの問いかけに、ナーリャとリューナは首をかしげる。
「今日戦った角ウサギがいるだろ?そのときに二人が放った魔法がぶつかったんだよ」
「それがどうかしましたか?」
トールは少し浮かびながら話を続ける。
二人はトールを中心に向かい合うように座っている。
「火の玉とあの渦っぽいのがぶつかった時、小さいけれど火の竜巻みたいになったんだよ。なんだか混ざり合ったような感じでな。以前他人の魔力は、反発しあうって聞いていたから気になってな」
トールの疑問を聞いた二人は、考え込み始めた。確かに他人の魔力は反発しあう。しかし今回の現象は反発するどころか混ざり合ったのだ。
「……私は魔法が実際ぶつかりあった場合については、詳しくありません。ナーリャさんの方はどうですか?」
「わたしもあんまり詳しくないんだよね。魔法で出した水なんかは、魔道具をつくる時は混ぜちゃうとあまりよくないって聞いたことはあるけど」
考え込む二人に、トールはちょっと聞きたかっただけとは言えず、どうしたもんかと悩んでいた。
「そうか。まあ気になっただけだし、そんなに気にしないでくれ」
トールはそういって話しを打ち切ろうとした。しかし二人はかなり気になったようで、あれこれと話し合っている。
このままだと夜更かししそうだと思い、トールは二人の話を止める。
「自分から聞いておいてなんだが、明日も早いんだから今日はもう寝ないか?この件についてはまた明日ということで」
トールの提案に、話し合っていた二人も中断し、同意する。
「それもそうだね。そろそろ寝よっか?明日は日の出と同時に起きて、行動しなきゃだからね」
「そうですね。明日も早いですし、そろそろ寝ましょうか」
二人はそう言い合い、寝床へと入る。
トールはというと、二人の少女の寝姿を見ているのも犯罪臭がしそうだと感じ、シートの端まで浮かんで粋、結界石のドームの方を向いていた。傍目にはどちらに向いているか分からないが。
「それじゃあお休みなさい」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
就寝の挨拶をし、3人は眠りにつこうとする。しかしトールだけはまだ眠らなかった。
先ほど自分で質問をした、魔力の反発について気になっていたのだ。
「(さて、さっきはああ言ったが、反発ってやつが無ければ、二人の欠陥っていうのは解決されるんじゃないか?だとすれば少し睡眠不足になっても、調べておく必要がありそうだな)」
そうしてトールはいつも通り《知識の泉》に問いかける。
…魔力反発:波長の異なる魔力を接触させることで起こる現象。
…魔力反発で起こる現象:継続型の場合、同魔力値の場合は対消滅。魔力値が同等でない場合は高い方が残る。発生型の場合は魔力同士の波長を乱し魔力のみ消滅。
いつもなら何度も質問を繰り返して答えを得ていたが、今回はすんなりと回答が得られたことにトールは拍子抜けと感じていた。
だが簡単でも答えを得られたならを思い直し、トールは思案する。
今回得られた答え、つまり魔力反発で起こる現象は対消滅、もしくは片方が消える。しかし二人の放った魔法は混ざり合っていたのである。
そして二人がトールに魔力補充をしていた時、対消滅など起きることなくトールに魔力が充填されていた。
それらを考えると、トールはひとつの結論へと至った。
「つまり特別なのは俺じゃなくて二人ってことだ」
思わず口に出してしまい、トールは慌てて二人の方を見る。幸い二人には聞こえなかったようで、小さく寝息を立てている。
二人の悩みを解消できそうで、明日にでも話してみようとトールは気分良く眠りにつくのだった。




