杖と魔道技師と火薬と薬剤12
採取に向かった3人は、まずはということで手ごろな薬草を採取していた。
「これがベリエ草ですね。加工して傷薬として使用されます」
「ナスィーム草もあったよ。こっちは触媒として色々なものに使われるんだ」
ナーリャとリューナに解説を聞きながら、トールは二人の後に付いて行っていた。
トールは採取することが出来ないため、食料等が入っているナーリャのカバンと、先ほど空間拡張の魔法を描けた、採取したものを入れるためのリューナのカバンをぶら下げている。
「なるほど。結構色々あるんだな」
二人の説明を聞きながら相槌を打ち、感心したようにトールはうなずいていた。
採取している二人は、次々と草花を取っていく。
「あ!こっちにピアンの花があるよ」
「いいですね。それも取っていきましょう」
そうして一通り草花を採取した二人は、今度は草花以外にも探し始める。
「こっちは渡り鳥の羽だね。いくつか落ちていたよ」
「こちらは鉱石がいくつか見つかりました。それと湧き水ですね」
楽しそうに採取する二人。トールにはその様子がウィンドウショッピングを楽しむ女性のような気がしていた。
あまり出しゃばらずに付いていこうと考えていたトールは、ふとあるものが目に付いた。
それは人のヒザくらいの大きさの、角の生えたウサギのような生き物だった。
「なあ、あそこに大きいウサギのような生き物がいるんだが」
トールのその発言に、二人は振り向くと咄嗟に警戒した様子を見せる。
「あれは角ウサギですね。魔物の一種で、角による頭突きが危険なやつです」
そういってリューナは腰から刃渡り30cmほどの刃物を取り出す。ローブの内側に装備していたもののようだ。
ナーリャも慌てて腰に手を当てるが、何かを探すような挙動をした後にトールの方へとやってくる。
「そうだよ。わたしの武器はトールなんだよ。そのために買ったんだから」
「なるほど。でも俺で叩くのは簡便してもらいたいんだが……」
「わがまま言ってないで早く!こっち来ちゃうよ!」
ナーリャは、トールに掛けていたカバンを二つとも地面に置くと、トールのことを掴む。そうして角ウサギの方へと構えた。
「まずは魔法でけん制しましょう。その後左から私が、右からはナーリャさんが行って下さい」
「了解だよ」
簡単に作戦を決め、二人はローブの内側から、魔法陣の描かれた紙を取り出した
。
「ではいきます!」
リューナの合図で、二人は角ウサギの方へ突き出した魔法陣から魔法が発動した。
ナーリャの方は火球が、リューナの方は半透明の渦が飛び出す。
それらが飛び出すと同時に、角ウサギも気づいたのか避ける様に飛跳ねる。
火球と渦は、飛跳ねた角ウサギの下方を通りすぎて、地面へと着弾する。着弾した場所で二つの魔法は交じり合い、小さい火炎の竜巻を起こしていた。
「リューナちゃん!」
魔法を発動してすぐに走り出していたナーリャは、空中に跳んでいた角ウサギの傍まで来て、トールを振りかぶって角ウサギを殴る。ギャー!と悲鳴を上げるトールをよそに、その衝撃に耐え切れず地面に叩きつけられた角ウサギを、今度はリューナが刃を首筋に立てとどめをさした。
二人の見事な連携に、トールは角ウサギに叩きつけられて目を回しながらも感心していた。
「見事なもんだな!さすがに目が回ったが」
「へっへー、そうでしょ?そうでしょ?」
「大分綺麗に決まりましたね。楽に終わってよかったです」
ナーリャはトールの叩き付けた部分をさすり、リューナは刃に付いた血をふき取る。
武器の簡単な手入れを終え、3人は地面に放置していた2つのカバンを取り、今討伐した角ウサギの前まで来る。
「さてと。それじゃあ解体しちゃうね」
ナーリャはそう言うと、カバンから小型のナイフを取り出す。
「解体って、ここでやるのか?」
生物の解体なぞ、やったことはもとより見たことも無いトールは、及び腰でそう尋ねる。
「うん。新鮮なうちにやっとかないとね。それに血抜きもしないと」
ナーリャはかなり手馴れた様子で、角ウサギの首元を血抜きのため切る。そうして辺りをきょろきょろとして、にんまりとした笑顔でトールのことを見た。
それに嫌な予感がしたトールは、少しナーリャから距離をとる。
「……どうした?そんな笑顔で」
「血抜きしたいんだけど、引っ掛ける場所が無くてね?それでちょうど良く引っ掛ける場所が見つかったから」
角ウサギの後ろ足を持ち、トールへとにじり寄ってくるナーリャ。すかさず逃げようとしたトールは、後ろから近寄ってきていたリューナにつかまった。
「諦めて下さい。今夜の食事のためです」
「……リューナって結構食い意地張ってるよな」
失礼な、といってリューナはトールを横にして、ナーリャの前差し出す。ナーリャは角ウサギの後ろ足とトールを紐でくくりつけると、満足そうな顔でうなずいていた。
諦めたトールは、角ウサギのほうをあまり見ないようにしようを心に決める。
暫くして、血抜きが十分だと判断したのか、ナーリャは角ウサギの解体を再開する。トールに吊り下げたままで。
皮を剥ぎ、内臓を取り出す。そうして残った肉の部分を枝肉に分解する。
その光景を見ていたトールは、最初はきつかったが徐々になれたのか普通に眺めていた。
そうして解体も終わり、最後に頭についていた角と、内臓の中から何かを取り出す。それは石のようなものだった。
「それはなんだ?石みたいだが?」
リューナに水を出してもらい、手と一緒に石を洗っていたナーリャは、トールのほうに振り向くと答える。
「これは魔石って言って、魔素や魔力を貯めておけるものだよ。よく魔道具なんかに使われるんだ」
「魔道具の中には人の手を離れても、稼動し続ける必要があるものもあります。そういったものに使用されるわけです」
トールはその説明を聞いて、以前|《知識の泉》に聞いた魔物が体内に魔素を貯める器官はこれかと考える。
魔力に変換する能力の無い魔物は、そのまま魔素を貯めて使用し、魔力に返還できる人間は魔力貯蔵庫にして使用するといったわけだ。
なるほどとトールが納得していると、再度カバンをトールに掛けて二人は採取を再開する。
その後、何度か角ウサギに襲われたものの、見事に二人は撃退して採取を続けた。角ウサギはもう一匹だけ解体して肉を取ったが、その他はかさばるため魔石を角を取るだけにとどめおいていた。
途中、空間拡張の魔法が切れたのか、採取物を入れていたほうのカバンが膨らみ、とめ具がはじけ跳ぶというアクシデントに見舞われたが、他は滞りなく採取を続けていた。
そうして辺りを見渡すと、時刻は夕方になっていた。
これ以上の採取は危険と判断して、3人は夕食の準備へと取り掛かる。
ナーリャは取った肉と持ってきていた野菜を調理する準備をしており、リューナはそこらに落ちている枝を拾っていた。
トールはというと、ナーリャの傍で材料の入ったカバン持ちをしていた。
「今日のメニューはウサギのスープか?うまそうだな」
「トールも食べられたら良かったのにね。残念だなー」
そうして他愛無い話をしていると、リューナが薪を集めて戻ってきた。
「この辺りは流石に木の枝は少ないですね。少し時間がかかってしまいました」
戻ってきたリューナは、石と枝を組み合わせて焚き木を作り、そこに鍋を吊るす台を作る。
そうして出来た焚き木に、ナーリャは魔法で火をつけ水の入った鍋を吊るす。切った野菜や肉を調味料と共にその中に入れ、スープを仕立てた。
暫くの間煮込み、他に持ってきていたパンも準備し、夕食の準備が完了する。
「いただきます」
そういって二人は食事を始めた。




