杖と魔道技師と火薬と薬剤11
3人は城門を出た後、街道を歩いていた。辺りは畑や放牧地といった光景が広がっており、荷物を運ぶ馬車も多く見られる。
砂利が敷き詰められた街道を進んでいくと、徐々に馬車の行き来が少なくなってくる。
城門の外へ出て1時間ぐらい経ち、そろそろいいかなとトールは荷物を運ぶため、ナーリャの手から離れ、浮かび始めた。
そしてナーリャが持っていた荷物を、柄の部分に引っ掛ける。
「うん、大丈夫そうだな」
カバンの重さを確認するように少し上下に動き、確かめるとそのままナーリャとリューナに付いて行く。
「この辺りになると人もまばらになるしね。すれ違った人がいても新しい魔道具ってことで押し通すよ」
ナーリャはうーんと伸びをして、肩をまわす。荷物が無くなって楽になったようだ。
ナーリャとリューナはそれから他愛の無い会話をしながら進む。トールといえば女子トークについていけず、ひたすら後に付いて行っていた。
さらに1時間も歩くと、荷物が急に重くなったのトールは感じた。おそらく魔法の効果が切れたのだろうと、ナーリャに伝える。
「荷物が重くなったな。重力軽減の魔法がきれたっぽいな」
「そっか。効果は2時間ほどだね。もう一回かけ直すね」
重くなったことをナーリャに伝えると、一旦3人は立ち止まり、再度ナーリャは魔法をかけなおす。
相変わらずトールには理解できない発音で、呪文を唱えるナーリャ。その様子を興味深そうにリューナは見つめていた。
「やはり聞いたことの無い文言も交じっていますね。重力軽減でしたか、興味深いです」
軽くなっていることを確認するようにクイクイと、リューナはカバンの紐を引っ張っている。
「私にもこのような便利な魔法を教えてもらえませんか?こう、昨日みたいな物騒なものではなく」
テーブルの一部を吹き飛ばしたのを思い出したのか、リューナは苦い顔をしながらトールに聞いていた。
聞かれたトールは、少し悩みながら話す。
「そうだな。リューナは風と水の他には雷と時空の属性があったはずだから、時空で何か無いか探してみるか」
「お願いします。生活に役立つようなものだと嬉しいです」
そういって3人は止まっていた足を進め始める。
トールは考え事をするからと会話からはずれ、二人の後ろから付いて行く。時空魔法に良いものが無いかと考えるためだ。
「(時空魔法か。時間と空間だよなぁ。時間だと早くする、遅くするって言うのが考えられるし、空間だとなんだ?広くするとかか?)」
そう思いついたトールは例によって《知識の泉》に問いかける。
いくつか質問をして、新しい呪文が無いかを検索をする。その結果、何度か不定名称ですの回答が返ってきたが、二つの候補が挙がってきた。
…空間拡張の魔法:空間の一部を拡張する魔法。ある一定の空間を拡張し、より多くの体積を確保する。
…空間拡張の呪文:vawJ gevwcI deaKC WPmaU YAr
…空間圧縮の魔法:空間の一部を圧縮する魔法。空間ごと圧縮することで、体積を小さくする。
…空間圧縮の呪文:vawJ gevwcI deaKC vmQau YAr
両方とも空間に関する魔法だ。ひとつは拡張、もうひとつは圧縮。
トールは、結構便利な魔法じゃないかと思っていた。要は小さなカバンに多くの物が入れられるようになる魔法ではないかと。
しかし圧縮と拡張で同じ用途で、どのような違いがあるかは検証してみないことにはなんともいえない。
そう考え、トールはリューナに伝えようとしたが、ナーリャと楽しそうに話しているようで、後回しで言いかと考える。
そうして時間が経ち、何度か軽量化の魔法を使いながら進んでいく。あるところで街道から外れ、3人は目的地であるベリエ草原へとたどり着いた。
辺りは颯爽と草花が茂っており、所々に岩や背の高い草や細い木が生い茂っている。
「さてと。到着だよ。ここがベリエ草原だね」
背を伸ばしながら、ナーリャは到着を告げた。
太陽は高く、時刻はちょうど昼時を示している。
「では昼食をとってから採取といきましょうか」
リューナの提案にナーリャが賛同し、トールに掛けていたカバンから昼食を取り出す。サンドイッチと水筒だ。
リューナにそれを渡すと、カバンからシートを取り出し、地面へと敷いた。そして二人はそこに座ると昼食を食べ始める。
「いただきます」
トールは、昼食をとり始めた二人を見て、先ほど調べた魔法についてちょうどいいかと思い伝える。
「なあリューナ。さっき聞かれていた便利そうな魔法なんだがな。二つ見つかったぞ」
「本当ですか!?ぜひ教えて下さい!」
食いつきそうな勢いでリューナに詰め寄られ、トールは少し距離をとる。
二人に魔法関連を教える時の勢いは凄まじいものがあるなと思いながら、トールはいつもの音声機能を使い呪文を伝える。
「ひとつは空間拡張の魔法だ。おそらくだがカバンの中なんかの空間を広げて、多くの荷物を入れられるようにする魔法じゃないか?もうひとつは空間圧縮の魔法だな。こっちは部屋の中とかの空間を、手のひらサイズまで圧縮できるとかかなと思う」
「思うって結構曖昧ですね」
「そうだな。俺も実際に見たことが無いから、試したほうがいいと思うぞ」
「そうですね。食べ終えたらちょっと試してみましょうか」
二人が食事を終えて片付けを済ますと、リューナは早速とばかりに新しい魔法を試そうとする。
「採取の時間もあるから、あんまり時間掛けないようにね?」
「ええ、分かっています。それでは拡張の方から試してみましょう」
リューナは自分が運んできた、空のカバンを前に置くと呪文を唱え始める。
「vawJ gevwcI deaKC WPmaU YAr」
魔法の対象となったカバンは、一瞬膨れると次第にしぼんでいった。
その様子を確認し、恐る恐るといった態で、リューナはカバンを開ける。
中を覗き込むと、カバンの中とは思えないような広さの空間が広がっていた。おおよそ部屋ひとつ分くらいはあるだろう。
「成功のようです。すごいですね、中が広がっています」
トールとナーリャも興味があり、中を覗いていく。広がっている内部と外側を交互に見て、不思議そうにしている。
「なんだか不思議な感じだね。中は広いのに外から見ると普通のカバンだよ」
「そうだな。なんだか言い表せない感じだ」
トールはこれらを見て、小説に良くあるマジックバックってこんな感じなのかと考えていた。大量に物が入れられて確かに便利そうだ。
「なあ。中に何か入れてみないか?」
そう提案するトールに、ナーリャはそこらにあった小石をカバンの中へと入れる。
何個か入れてみて、ナーリャはあることに気づいた。
「これって入れたもの取り出せないよね?」
そう、カバンの内部は確かに広がってはいたのだが、入れたものまで手が届かなかったのだ。部屋の天井に穴を開け、そこから床のものを取ろうとする感じである。
「ひっくり返してみてはどうでしょう?」
リューナがカバンをひっくり返してみると、小石は中から出て来た。
「これは、使い方を考えないといけないな」
その意見にナーリャとリューナは同意し、今度は圧縮の方を試そうとリューナが立ち上がる。
「今度は圧縮の方を試してみましょうか」
リューナがそういって、誰もいない草原の方へと向く。立った状態で、両手を前へと突き出す。
「vawJ gevwcI deaKC vmQau YAr」
リューナがそう唱えた瞬間、前方にあった草花を大体1m四方が、空中へと吸い込まれる。そして数秒も経たないうちに、吸い込まれた草花や土が、固まりとなって地面へと落ちた。
その光景を目にして、固まる3人。リューナの前方1m四方は土が露出した状態になっている。その中央に圧縮された草花が固まって落ちていた。
「これは……あかんな」
そう呟くトール。それに釣られるかの様にリューナも言葉を口にする。
「これはかなり危険ですね……唱えた瞬間魔力も結構持っていかれましたし」
「なんだか危ない魔法みたいだね。これは気をつけておかないとまずいよね」
ナーリャの発言に首と縦に振る二人。トールは宝玉部を振っているわけだが。
「こりゃあ攻撃魔法だな。いざという時便利かも知れないが」
「そうですね。それでは採取に行きましょうか」
シートも片付け、3人はペリエ草原へ採取へと向かった。




