杖と魔道技師と火薬と薬剤10
早朝、目が覚めたトールは残りの二人が起きてくるのを待っていた。本日も晴天で、空は晴れ渡っている。トールはいい探索日和だと感じいて、気分を高揚させていた。
暫くした後、ナーリャが部屋から起きてきた。
「おはようナーリャ。昨日と同じでやっぱり早いな」
「おはようトール。トールこそ早起きだね」
そう朝の挨拶をした後、ナーリャは顔を洗い、髪を整える。まだ寝間着のままであり、ちょっと着替えてくると部屋へと戻っていった。
少し経ち、普段着へと着替えてきたナーリャは、台所で朝食の準備をし始める。今朝はパンとサラダ、それとベーコンエッグらしき恩のようだ。
トールは準備の間、何もすることが無いので台所でナーリャと話しをしていた。
「今日はベーコンエッグか?おいしそうだな」
「うん。これから家を空けるからね。卵は使い切っちゃいたいんだ」
「卵か。卵って結構流通しているのか?」
トールは疑問に思ったことを聞く。卵は痛みやすいため流通量は多くなく、結構高額なのではと思ったのだ。しかしナーリャの返答は以外なものであった。
「そうだね、流通は結構しているかな。近くの牧場から毎朝市場へ降ろしているみたいだしね」
ほう、とトールは感心する。地理的に恵まれているのか、流通網が発達しているのか。ともあれ卵が手に入りやすいのはいいなとトールは思う。食べられないが。
「近くに牧場があるのか。それなら納得だ。いい立地だな」
「それだけじゃなくて、魔道具による恩恵も大きいんだよ」
「魔道具による恩恵?」
「そう!卵や野菜なんかも冷やしながら運ぶと傷み辛いみたいで、冷却の魔道具が多く使われているんだ。火と水の風を合成した属性魔道具でね、これを木箱なんかに入れて置くと全体を冷やしてくれるんだ。それに何と言っても近年、オパラ式のものが開発されてね。魔力出力を改善したもので、密閉した状態なら凍らせることもできるんだよ。それに……」
「おーけー、分かった。落ち着いてくれ」
ナーリャに魔道具の話しを振ると長くなることを、つい失念していたトールは落ち着くよう諭す。
しかし、とトールは考える。冷蔵技術に果ては冷凍の技術もある。やはり思っていた以上に技術力は高いように思われる。しかもそれが魔道具とか言う未知の技だ。これは面白くなりそうだなと、トールは知的好奇心を刺激されていた。
「そう?まあ冷やす魔道具なら家にもあるからね。見せてあげるよ?」
ナーリャはそう言って台所の置くへと行く。トールも興味があったため、それについていった。
台所の置くには、白い箱が置かれていた。大きさは大体人の半分くらいだろう。ナーリャは上からそれのフタを開ける。
中には少しの野菜と、奥端に長細い板状のものが置かれていた。
「この奥にあるのが冷却用の魔道具ね。あとは最近買い物してなかったから中身がほとんどないんだよ」
サボっていたと思われるのが恥ずかしいのか、すこし声を高くして言うナーリャ。
トールはというと、完全に冷蔵庫だわと感心している。管理者が言っていた中世とはなんだったのか。
「すごいな、冷蔵庫があるのか。そうするとエアコンとかもありそうだな」
「レイゾウコ?エアコン?」
それらの単語は聞いたことが無かったのか、ナーリャは顔に疑問を浮かべる。
「冷蔵庫はこの魔道具みたいに箱の中を冷やして食べ物を長持ちさせるやつだな。エアコンは部屋の温度を調整するものだ。暑いときは冷やし、寒い時は暖かくするんだ」
「へー。そういえば部屋を暖かくするのは薪を使っているのがほとんどだし、部屋を冷やすって言うのはないなぁ」
今度はナーリャが感心したようで、しきりにうなずいている。
そうして冷却魔道具の話題を終えると、ナーリャは料理に戻っていく。トールも脇でそれを見ていた。
しばらくして、2階にある部屋からリューナが起きてきた。
「おはようございます」
リューナはとても眠そうな様子で声を出す。その姿は寝間着姿で、髪はぼさぼさである。
「リューナちゃん、おはよう。とりあえず顔を洗ったら?」
「そうさせていただきます」
リューナは顔を洗いに台所へと向かう。そして魔法陣にて水をだして顔を洗った。その際にナーリャが後ろからぼさぼさだった髪を直している。
後ろから見ていたトールは、その光景に仲の良い姉妹のようだと感じていた。
そうして顔を洗い終えると、リューナはようやく目が覚めたのか、半開きだった目がきっちりと開いていた。
「有難う御座いますナーリャさん。それとおはよう御座います、トールさん」
「おはよう。朝弱いのか?」
「ええ、朝はちょっと……」
そう言ってリューナは着替えに部屋へと戻る。その間に料理が出来たナーリャはテーブルへと運んていた。
リューナが戻ってくると、3人はテーブルに集まり朝食を食べ始めた。
「さて、今日は採取日和だね。晴れてて気持ちがいいよ」
「そうですね。食べ終えたら出発しますか?」
「うん。食べてちょっと休憩したら出発しようか」
採取の予定を話し合いながら朝食を食べ終えると、片付けは私がと言ってリューナが立ち上がる。
「いいよ、わたしがやるから」
「いえ、ここ数日まかせっきりですし、今日ぐらい私にやらせて下さい」
「……そう?それじゃあお任せしちゃおうかな」
珍しくナーリャが折れ、片付けはリューナがしていた。
リューナが片付けをしている間、ナーリャは昨日準備していたカバンの前に立ち、呪文を唱えていた。
それは昨日トールに教わっていた重力軽減の魔法であった。
カバンはが薄く発光した後、ナーリャは重さを確かめるように持ち上げる。魔法は成功したようで、軽々と片手で持ち上がっていた。
「うん、成功だね。この魔法べんりだね」
そうしてカバンを肩にかけると、軽い軽いと言ってうろうろし始める。
それにつられて、トールもナーリャの横を飛び始める。
「二人して何をしているんですか。なんだか私が目を離すといつもおかしなことしてませんか?」
片付けを終えて台所から出てくるリューナは、呆れたように二人の様子を見ている。
そうこうして、ナーリャとリューナの二人は、細かな準備をしに部屋へと戻る。
準備を終えて戻ってきた二人は、ローブを纏っていた。リューナの方は空のカバンを持っている。採取したのもを入れるためのものだ。
リューナは初日に来ていた白色で、青の刺繍がはいったものを。ナーリャは薄い緑色をしたものを羽織っていた。
「ナーリャさん、そのローブは?」
ナーリャの姿を見て、リューナがそう問いかける。
「これね、おばあちゃんがつくってくれたの。簡単な防暑や防寒が付いているの」
そう言うとナーリャはローブの内側を見せる。中には薄っすらと魔法陣らしきものが見て取れた。
「魔法陣付きのローブですか。結構いいものですね」
リューナは感心したようにナーリャのローブを褒める。それを受けたナーリャは嬉しそうに笑っている。
「そろそろ出発しないか?」
二人の少女のローブ談義が長くなりそうだと察知したトールは、話しを打ち切るためにそう提案する。
それもそうだね、とナーリャは昨日から準備していたカバンを持ち、リューナと二人ドアのほうへ向かった。
外に出た3人は家の鍵を閉めて店の方へと行くと、店のドアに不在の立て札をかけてから門に向かって出発した。トールはナーリャに持たれている。
途中、職人のような風貌の人々に声をかけられながらも、門までたどり着く。
そこは大門と小門に別れており、大門の前には4人、小門の前には二人が立っていた。
二人は小門の前まで行くと、門番に向かって挨拶をした。
「おはようございます。いつも大変ですね」
「おや、ナーリャちゃんかい。おはようさん、いつも元気だね。今日はどうしたんだい?」
「はい。これから採取しに草原の方まで行こうかと思っています。通れますか?」
ナーリャと顔見知りだったらしい門番は、草原かと呟きながら、首を縦に振っている。
「大丈夫だよ。ただすこし魔物が増えてきているとの情報もあるから、気をつけていくんだよ」
そうアドバイスを受けて、二人は有難う御座いますといって門をくぐる。
門を出た先は、広々とした農場が広がっていた。




