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杖と魔道技師と火薬と薬剤7

 

 トールは、魔法が使えなさそうという事実から立ち直ると、また浮かび始める。


「さて、くよくよしていても仕方が無い。それで、重力属性の呪文か魔法陣だったか?」


「うん。その辺りが分かれば、属性の有無も確認できると思う」


 4大属性以外の属性。一般的には知られていない属性は、光、重力、雷、時空の4つだ。そのうちナーリャは光と重力を持っている。

 それを思い出しながら、トールはどうするかと思案する。


「(これから荷物を運ぶ必要もあるし、重力の魔法があれば便利かもしれないな)」


 そう考えると、魔法陣は調べても伝える方法がないと考え、トールはまずは重力属性の呪文を《知識の泉》へと確認する。



 …重力属性の呪文:重力属性を操るための魔法を発動する文言。



 トールは出て来た結果に、違うそうじゃないと突っ込みつつ、違う言葉で検索を始める。いくつかトライをして、ようやく求めていた答えを探しだした。



 …重力軽減の呪文:vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC psQhyOC



 その呪文は、トールにはやはり聞いたことが無い言葉であった。

 探していた呪文の答えを得たトールは、しかしどう伝えたものかと考える。このわけの分からない呪文を正確に発音できる自身が無かったのだ。

 トールが悩んでいると、不意に機械的な音声が発せられた。


「vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC psQhyOC」


 それは重力軽減の呪文だった。しかもナーリャにも聞こえていたらしく、いきなりのことで驚いているようだ。

 どうやら《知識の泉》が気を利かせたのかは分からないが、発音してくれたらしい。


「いまのは呪文?聞いたこと無い内容みたいだったけど」


「あ、ああ。重力を軽減するための呪文のはずだ」


 もう一度、とトールが願うと、再度呪文の音声が流れてくる。

 《知識の泉》にはこんな機能もあるのかと、トールは関心しながらもマニュアルがほしいなと考えていた。


 そうしてトールは何度かナーリャに呪文を聞かせ、教え込む。何度目かで覚えきれたようで、口の中で呟きながら確認をしている。


「じゃあ試してみるね」


 ナーリャはそばにあった桶を持ってきて、それに向けて呪文を唱え始めた。


「vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC psQhyOC」


 ナーリャはきれいな声で正確に発音する。桶は淡く光り、すぐさまそれは消える。


「……成功したのかな?」


 そう言ってナーリャは桶を持ち上げた。すると、思っていたより軽かったのか、それは勢いよく持ち上がった。


「本当に軽くなってる!すごいすごい!」


 ナーリャは桶を持ち上げながら、ブンブンと振り回しながら跳ね回る。よっぽど嬉しかったのか、笑顔で振り回していた。


「成功したみたいだな。いやー、よかったよかった」


 トールもナーリャに交じって、うねうね体をねじりながら空中で踊りを踊っている。

 台所で踊る奇妙な二人。そんな怪しい光景をつくっていると、玄関の方から音が聞こえてきくる。リューナが帰って来たようだ。手には買ってきた荷物を持っている。


「ただいま戻りま……何をしているのですか、二人して」


 リューナは、帰ってきてみると奇妙に踊っている一人と一本を見て、危ないひとを見るような目つきで尋ねる。

 桶を持って飛跳ねながら踊る少女と、そのそばを柄を捻らせながら浮び上がっている杖。傍から見たら何かのあやしい儀式をしているようにしか見えない。


「リューナちゃんお帰り!すごいんだよ!この桶がね、桶がね!」


 テンションが上がり過ぎていて、何を言っているのか分からないナーリャをの様子に、リューナはトールのほうを見る。


「一体何があったのですか?いまいち要領がつかめないのですが?」


「ちょっと重力属性の魔法について、試していたんだよ。うまくいったみたいでな、つい踊ってしまっていた」


「……大分怪しいのでやめて下さい。それで、重力属性の魔法というのはどういったものですか?」


 リューナも興味が引かれたようで、テーブルに買ってきた荷物を置きながらそう尋ねる。


「重力を軽減する魔法みたいで、それをかけた桶がすごい軽くなっているの!」


 興奮冷めやらぬ、といった様子でナーリャは答える。桶はまだ持っており、振り回している。

 そして、ナーリャはリューナの傍までやってきて、すごいんだよと言ってそれをリューナに渡す。

 桶を渡されたリューナは、その軽さに驚いた。ほとんど持っている感じがしないくらいだ。


「……本当に軽くなってる。ナーリャさんが使えるということは、風属性というわけでもないでしょう。本当に重力属性ってあるんですか?」


 桶を持ち上げたり下げたりしながら、そう思わず呟いているリューナに、トールは返事をする。


「やっぱりあるみたいだな。俺も半信半疑だったが。それにしても物を軽くするって、魔法ってすごいのな」


「すごいのな、じゃありません。ちょっと買い物に行っている間に何をしているんですか。……私の常識が崩れそうですよ」


 トールから4大属性以外の存在を聞いていたが、正直半信半疑だったリューナ。実際に目のあたりにして少し困惑しているようだ。桶を持った左手を下げ、右手をオデコに当てて空を仰いでいる。

 その横では嬉しそうな顔をしてナーリャが立っており、リューナへ話しかけている。


「ね?ね?すごいでしょ!わたしがこんな魔法使えるなんて!」


「ええ。まさか本当に重力属性なるものがあるだなんて。いや、まだあるとは限りません。ナーリャさん、もう一度魔法を使ってみてもらえませんか?」


 リューナはナーリャの手を掴むと、台所の方へと連れ去っていく。今度はなべに魔法をかけさせようとしている。

 ナーリャが先ほどの重力軽減の呪文をなべに向かって唱え終えると、リューナは重さを確かめえるべく、それを持ち上げる。

 何度か持ち上げたりおろしたりして確認すると、満足したのかなべを下ろす。


「やはり風の属性は感じられません。そもそもナーリャさんは火と土属性のはず。それらの属性だけでこんな芸当が出来るはずは……」


 顎に手を当て、考え込み始めるリューナ。

 その様子を見てに、ナーリャはある提案をした。


「リューナちゃんもトールに、何かの呪文を教えてもらったら?」


 その発想は思い浮かばなかったのか、リューナはハッとした様子で顔を上げる。


「そうですね。その通りです。トールさん、私にも何か呪文を教えて下さい」


 リューナは、台所から出てきていたトールの近くまで詰め寄る。その勢いにトールはたじたじとなっている。


「ちょっと落ち着いてくれ。えっと、リューナは風と水のほかには、雷と時空の属性だったよな?」


「ええ、そうです。トールさんのお話では」


「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」


 トールは再度《知識の泉》へ問いかける。いくつか検索ワードを変えて挑戦していると、ひとつの呪文が浮び上がってきた。



 …発雷の呪文:vawJ Sszd YwgeC Hmaoj imor

 …発雷の呪文 効果:手に雷をまとわせる。威力は込めた魔力依存。



「ひとつ呪文が見つかった。手に雷をまとわせる魔法のようだな」


「分かりました。それを教えてもらえますか?」


 相変わらず発音が難しいため、ナーリャの時と同じように、トールは呪文の発音は《知識の泉》の機械音声に頼って伝える。

 そうして何度かリューナに教えると、リューナは試してみましょうと言って、両手を前に向け呪文を唱え始めた。


「vawJ Sszd YwgeC Hmaoj imor」


 効果はすぐに現れた。リューナが突き出していた両方の手に、青白い雷光が纏わり始めたのだ。

 ばちばちと音を立てて光る手を見て、リューナは興味深そうにゆっくりと手を動かす。手に纏った雷は、リューナ自身は傷つけずにいる。

 少しずつ実感が湧き上がってきたリューナは、手を振り回す。


「すごい、すごいですよ!本当に私にも出来るなんて!」


 普段の落ち着いた様子とは打って変わり、目を輝かせて子供のようにクルクルと回り始める。


「喜んでもらえているようで何よりだ」


 リューナの様子に、トールも嬉くなる。

 そうしてクルクルと回っていたリューナだったが、足がもつれたのか、テーブルに手を付いた。付いてしまった。

 その瞬間、バチン!と一際大きな音とともに、テーブルの手を付いた箇所がはじけ飛ぶのだった。


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