杖と魔道技師と火薬と薬剤6
二人と、持ち運ばれているトールは大通りを歩いていた。
昼時でもあり、多くの人々が思い思い道を歩いている。
やがて、シアラの飛跳ねる雌鹿亭につくと2人は、中に入る。そしてそれぞれ注文をし、それをトールは横目でうらやましそうに見ていた。
そうして運ばれてきた料理は、この付近で取れる野菜やベーコンの炒め物に、パンや果物を絞ったジュースなどである。
「いただきます」
早速食べ始めた2人は、採取に必要なものを話し合う。
その結果食料と採取道具など、ほとんどは家にあるためナーリャが、それ以外の細々としたものをリューナが準備することになった。
そうして支度の話を終えると、今度はシアラとスィンが二人が座っている卓にやってきた。
ナーリャとそっくりな容貌のリューナに、興味があったのであろう。やってきた二人はナーリャを質問攻めにし始めた。
質問の内容は、何処から来たのか、ナーリャの家に住み始めた経緯、果ては恋人がいるのか等、様々に渡る。
そうして盛り上がっていると、杖に気づいた女の子、スィンはこれなぁに?とナーリャに聞いていた。
「これは新しく買った杖なんだよ」
「わあ、あたらしいんだ!もってみてもいい?」
新しい物という言葉に反応したのか、スィンは興味がわいたようだった。ナーリャは笑顔でいいよと答え、それを受けたスィンはトールを掴み、振り回して遊び始めた。
たまったものじゃないのかトールだ。ブンブンと振り回され遊ばれる彼は、叫び声を上げられず必死に耐えていた。
「(ナーリャ!後で覚えていろよ!)」
キャッキャと振り回され続けるトールの横で、リューナの方は質問攻めを受け続けていた。先に食事を終えたナーリャも、面白がって質問を始めていた。
その勢いに押されながらも、リューナは食事をとりながらも何とか答えていた。
ナーリャから少し遅れて食べ終えたリューナは、これ以上質問攻めにされては堪らないとばかりに切り出した。
「食事も終えましたし、それではお暇しましょうか」
そう逃げるように言うと、またいらっしゃい、とのシアラの言葉に返事をしながら支払いを済ませ、2人は外へと出る。
「リューナちゃん、モテモテだったね」
「何を馬鹿な事言っているんですか。ナーリャもナーリャです。一緒になって悪乗りする必要ないでしょう」
そう茶化すナーリャに、疲れた顔をしてリューナは返答する。
「モテモテだったじゃないか。こちとら少女に振り回された挙句、一切話せなくて虚しかったんだぞ」
小声で辺りに聞こえないように言うトールは、振り回された影響かまだ目が回っているように感じていた。
そんなことを話しながら歩いていると、3人は大通りの交差点までやってきていた。
「それでは、私は荷物の確認と必要なものを買いに行って来ます。トールはどうします」
最後は少し声を落とし、リューナは言った。
「俺はナーリャと一緒に帰るわ。あんまり喋れないのも窮屈だしな」
「じゃあ、トールは私が責任もって持って帰るよ」
トールとナーリャは、リューナと別れると帰宅の徒をたどる。
やがてナーリャの家に着く。鍵を空けて家に入るナーリャに続いて、中に入ったトールは、ようやく自由だとばかりに浮び上がり、体をほぐすかのように様々な方向へ曲げていた。
「あー、やっと喋れる。話せないってものなかなかしんどいな」
二人に出会うまで、トールがいくら話しても、相手には聞こえていなかった。しかし今は聞こえるのだ。
すると今度は喋る杖という奇妙な物の出来上がりだ。外で話す問題性というのはトールにも十分に理解できていた。理解できたとして、辛くないというのも嘘だが。
「さすがにトールと、外でおしゃべりするのは色々問題がありそうだからね」
トールの開放されたかの様な動きを見ながら、ナーリャは台所へと向かう。採取のための、食料の在庫を確認しているようだ。
「そういえば、ちょっと聞いていい?」
食べ物の在庫を確認しながら、ナーリャはトールへ質問をする。
「なんだ?答えられることであれば何でも聞いてくれ」
ナーリャの様子が気になったのか、トールも台所まで浮かんで来ていた。
「前にマスターについて話しを聞いたときに、全属性について聞いたじゃない?」
「ああ。そうだな。それがどうかしたか?」
「その時はあんまり細かく聞けなかったから、ちゃんと聞いておきたくて。わたしが持っている属性は、火と土のほかにもあるんだよね?」
「俺が知る限りでは、ナーリャは火と土のほかに、光と重力の属性を持っているはずだぞ」
ナーリャは作業していた手を止め、トールの方へ向き直る。
「そう、その光と重力。今までそんな属性聞いたことが無かったから、本当にあるのなら大発見だなって」
「そうなのか。ああ、全属性って4大属性が一般的だってリューナが言ってたな、たしか」
「うん。だから気になっちゃて。4大属性以外の属性」
「そういうことなら、ちょっと待ってくれな」
そう言ってトールは、『知識の泉』へ問いかける。
…属性『光』:光と闇を司る魔力属性。光を操り簡易的な明かりや、光を吸収して闇の生成などが可能。
…属性『重力』:重力子を司る魔力属性。重力による影響の増加、軽減などが可能。
トールは、光属性って闇も操れるんだな、と考えながらナーリャへ『知識の泉』で得た内容を伝える。
その説明を聞いたナーリャはなるほどねーと呟いている。大体想像していた通りだったのだろう。
「光属性は暗闇も作れるって事なのかな?それに重力属性は、重さを変えられるってことだよね。それだったら荷物とか運ぶのに便利そうだよね」
ナーリャはトールの横にちょこんと座る。
「使ってみたいな~。呪文とか魔法陣とかは分からないの?」
「呪文?魔法陣は見たことあるが、そういったものもあるのか?」
「うん。魔法陣は特殊なインクで描かれた陣に応じて、効果が決まるんだよ。呪文は声に出して魔力を操る技術って言われてるの。ただ発動には正確な発音と、それなりの集中が必要だから難易度は高めかな?」
ナーリャは立ち上がると、目を閉じ手のひらを上に向け、言葉を発した。
「vawn ShGpyI-WC qYHOC」
ナーリャはトールが聴いたことが無い言葉でささやく。
すると彼女の手のひらから、拳大くらいの大きさの炎が現れた。
「これが呪文による魔法の発動だよ。今使っているのは火を生み出す魔法だね」
現れた炎は、暫く燃え続ける。そうして燃えていた炎は、ナーリャが握りつぶすと消えた。
それを見ていたトールは、わくわくしながらあることを考えていた。これなら自分でも出来るんじゃないかと。
魔法陣は、描き込まなければならない。杖の身であるトールには難しいだろう。しかし呪文であれば発音が出来ればいけそうな気がしたのだ。
ロボも好きだが、魔法だって大好きなトールは期待を込めて聞いてみた。
「なあ、それって俺にもできるのか?」
「どうだろう?呪文で魔法を発動する魔道具、なんて聞いたことが無いし。なによりトールが保持できる魔力量じゃ、厳しいんじゃないかな?」
しかし返ってきた答えは、無理じゃない?というものだった。
「……なあ。俺が貯蔵できる魔力量ってどのくらいなんだ?」
「う~ん。呪文で小指の先くらいの火が起こせれば御の字、って感じかな?」
トールはそれを聞いて、大体理解できた。つまりはほぼ無理ということが。
宝玉が下向きになるように体を曲げて落ち込むトールを、ナーリャがよしよしと慰めるようになでていた。
「でも不思議なんだよね?そんな魔力量で、浮かんでうねって話しをしている。普通じゃ足りないと思うんだけどなあ」
落ち込んでいたトールは、その呟きを聞き逃していた。




