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杖と魔導技師と少女と魔物18

 

 背は高いが、それを俯き加減が下げている。インテルムは、以前あった時と同様の体勢の悪さのまま店へと入ってきていた。


「えっと、インテルムさん、でしたっけ?」


「はい。その通りです。インテルムで御座います」


 慇懃無礼といってもよい口調で改めて名乗るインテルム。

 ナーリャとリューナにとって彼は王都で出会った魔導技師の一人である。特に親しくしていたわけではないが、それでも特徴的な行動が印象に残っていた。


「わざわざダナンまでいらっしゃって、本日はどういったご用件ですか?」


「いえいえ。実はわたくし、こちらに引っ越して来まして」


「引っ越しですか? 王都から?」


「はい。彼の杖でいらっしゃるトール殿に興味が御座いまして。彼との会話はそれはもう楽しいものでした。もっと楽しみたいと思い、いてもたってもいられずこうして引っ越してきてしまった訳です、はい」


 インテルムは両手をもみながら、ナーリャ達へと引っ越しの理由を話す。トールに興味があるのだと。

 それを聞いた2人は少し警戒心を表わす。なにしろトールは秘密を詰め込んだ爆弾のようなものである。今は王子よりもらった保護状があるが、それでも警戒するに越したことはない。

 身構えた2人に気が付いたインテルムは、おっとと一言呟く。


「誤解しないでいただきたい。わたくしは彼の杖に興味がありますが、それをどうこうするつもりは御座いません。むしろ、ただお話が出来ればいいのです。彼のゴーレムは、それはもう素晴らしい出来でした。その製作者であるトール殿と議論を交わせるだけで、それはもう満足なのです、はい」


 大仰に天を仰ぎ、両手を広げた状態で語りだすインテルム。その様子はまるで天に祈りを捧げているかのようでもあった。

 その様子に、ナーリャとリューナは困惑の表情を浮かべる。どう判断していいものかわからなかったのだ。


「えっと、インテルムさんはトールとお話するために、このダナンの街まで引っ越してきたってこと?」


「そうでございますよ、ナーリャさん」


 我が意を得たりとばかりに笑顔でインテルムはナーリャの問に答える。


「ですから、今日はそのご挨拶に伺ったのです、はい」


 これ手土産です、とインテルムは持っていた小さな小包みを差し出す。

 それを恐る恐るといった体でナーリャは受け取った。


「王都を出る際に、珍しい品が手に入ってので御裾分けです。どうぞご覧ください」


 ナーリャは進められるがままに、その布で包まれた小包みを開ける。するとそこからは、ナーリャとリューナが見たこともない小さな宝石が2つ出てきた。


「東の国で産出する宝石だそうです。現状相性の良い魔力属性は見つかってはいませんが、それでも価値のある物だという事でして。トール殿のマスターで在らせられるお2人は女性でしたから、そういった物もよいかと思いまして、はい」


 インテルムは2人を見た後、その隣に座っているもう一人の黒髪の少女、新理愛を見る。


「すみません、お嬢さん。てっきりお2人だけかと思っておりましたが、もう一方いらっしゃんですね。これは気が付きませんで」


 新理愛に話かけたインテルムであったが、それに新理愛は首をかしげて答える。


「ああ、すみません。彼女はこちらの言葉が通じないんです。まだこの国にやって来たばかりでして」


「おや、そうなのですか。他言語の国となると、西海を渡った先にあるという諸島列島国か、もしくはずっと東に位置する帝宮ですかね。おっと失礼をば。女性に素性を尋ねるものではございませんね」


 またしても大仰に手を胸に当て、インテルムは新理愛に頭を下げる。

 新理愛はその動作を自己紹介でもしたのかと勘違いし、自分の事を指さしてアリアと言っていた。


「おや、アリアさんと仰られるのですか。わたくしはインテルム。インテルム・ダードゴンと申します」


 新理愛に合わせるように、インテルムもまた自分に指さして名乗る。

 そしてその名乗りに、驚いたのがリーノであった。


「ダードゴンと仰られましたか?」


「はい、その通りですよ、えっと……」


「失礼しました。私はリーノ。この街の鉱山ギルドで働かせて頂いている者です」


「リーノ殿ですね。インテルム・ダードゴンです」


 自分が唐突に尋ねたことが失礼になると感じたリーノは、慌てて自己紹介をする。それにインテルムは快く答えていた。


「失礼ですが、ラクテウス商会にて魔導技術長と勤められていた方かと存じますが、そうなのでしょうか?」


「はい。とは言ってももう辞めてきましたが」


 ラクテウス商会といえば、王都でトップに当たる商会である。以前トールが≪知識の泉≫を使って知った魔力インクの、唯一の製造元でもあった。

 その魔導技術長、元ではあるが、がインテルムだった。


「技術長といえば、魔道具開発関連に関する長という事ですよね? どうしてまた、それをお辞めになってまでこの街に……」


「それは先ほど申しました通り、トールさんと友好を交わすためで御座いますよ。なにしろ彼ほど面白い方は、王都にもいませんでしたから」


 この異常ともいえる行動に、リーノとリューナは少しだけ呆れた表情をする。流石に表立っては言わないが、ちょっとおかしいんじゃないかと。ナーリャは良く分かってないらしく、凄い行動力だなとしか感じておらず、新理愛に至っては何を話しているかさっぱりであったため、体を擦り付けてきている子狐にちょっと待ってねと話していた。

 インテルムのこの行動、簡単に言ってしまえば、世界有数の企業の技術本部長がトールと話をしたいから、会社を辞めて引っ越して来ましたと言っているようなものである。普通誰だって首をかしげる。


「わたくし、魔導技師とは名ばかりで、趣味で魔道具を弄っているような物でしたから、辞めても特に問題ないのですよ。あそこでは自由にさせて頂きましたが、トール殿との会話よりは楽しくないのですから。そういえば、トール殿はご在宅ですかな?」


 今更思い出したかのように、目的の杖であるトールの事を尋ねるインテルム。彼はキョロキョロとあたりを見回している。


「いえ、今ちょっと買い物に……」


「今帰ったぞー」


 そうリューナが答えようとした時、気楽そうな声を出しながら店のドアを開けてトールが入って来た。

 話題の人物、ではなく杖物が帰って来たことで一斉にそちらへと視線を向ける。

 一斉に見られ、トールは何事だと宝玉部の根本をかしげる。何かやっちまったかと。


「おや、トール殿。ご無沙汰です」


「あんたは……インテルムだったか。久しぶりだな。わざわざダナンまで来て、どうかしたのか?」


 トールは王都であったインテルムがなぜこんなところにいるのか不思議に思い、そう尋ねる。

 インテルムはそれに先ほど話していた通り、トールに会いに来たという事を告げる。そしてそれにはトールもちょっと驚く。


「わざわざそんな理由で来たのか。あんた物好きだな」


「いえいえ、何を仰るのか。こうしてあなた様とお話しできるという事は、存外わたくしにとっては楽しい事なのですよ」


 トールは道の屋台で買ってきた食べ物、サンドイッチらしきもの、を3人に渡しながらインテルムへと話す。トールからしてみれば、そんな理由で王都からやって来たインテルムを変と思わずにはいられない。

 だが、実のところインテルムは明確に判断していた。トールが普通の魔導技師たちとは異なる思想を持っていると。

 通常魔導技師たちは、今ある物を改良していくことを目標にしていることが多い。技術の発展とは得てしてそういうものだ。だが稀にそうでない者たちもいる。自由な発想の元、一から新たに作り出すことを目指す者たち。

 彼らは常に最新の知識を持ち、それでいて自分の目的をもって研究、開発などをしていく。別段1人で行っている物だけではなく、組織だって行う事もある。

 そしてインテルムが見出したトールという人格は、上記の物とも異なると考えていた。何か自分達とは異なる技術体系を習得していると考えたのだ。


 トールの作ったゴーレムは、特徴としては少ない魔力量で活動できるというのがある。それに加えて、自分の意思を明確にゴーレムに伝えることによって、より細かな動作を可能としている。

 そしてそれらの技術というのは、今まで研究されてきた技術的アプローチと異なっているのだ。魔力量削減にしても、今の主流はいかに体系を元となった動物に近づけるかである。それをトールは、動物、この場合は人間と異なった構造で作り出している。

 大まかに言えば近似している箇所もある。しかし関節部は明確に人間と異なる。それもそのはず、各ジョイント部はトールが前世の知識で作り出したものだからだ。正確に言えば、ロボット技術の応用というやつである。


 人間の関節というのは、骨だけではばらけてしまう。靭帯や関節包などに覆われ、腱で繋がれた筋肉で動作を行う。しかしトールのゴーレムは、関節はシャフトを用いたジョイント構造になっている。つまりはそれ単独で固定されている。

 この発想は、インテルムからして目に鱗であった。そして今までそのような発想をもって研究してきた者は、インテルムは知らなかったのである。

 それを知った後、トールと会話することで、言葉の節々からインテルムはこの杖が違う技術体系の元発想していることを感じ取った。違う考え方、違うアプローチ方法。それらがこのゴーレムを作り出したのだと。

 それを思いついたインテルムは、いてもたってもいられなかったのである。そして自分が知らない手法を、この杖との会話で感じ取り、学ぶことが出来たのなら、さらに面白い魔道具が出来るのではないかと。


「そういうもんかね。まあ、こっちに引っ越してきたっていうんなら、それはそれで歓迎するぞ。いつでも遊びに来てくれ」


 インテルムの思いなぞ特段気にしなかったトールは、そういう事もあるかと1人納得していた。トールはインテルムがラクテウス商会の技術長であった事も知らないので、変な奴だなと思うにとどまっていた。


「ああ、3人とも。適当に買ってきたからうまいかどうかはわからないが、もしアレだったら後で言ってくれな。次は違うものを買ってくるから」


 トールはそこで3人に買ってきた食べ物について思い出す。見た目で買ってきたため、味はどうだかまったくの不明であり、そして自分では確かめることはできない。なので3人に感想を聞きたかったのである。

 食べ物を渡された3人は、それぞれトールにお礼を言う。しかし流石に客が来ているこの状況では食べることが出来ないと判断したのか、今のところ口を付けない。

 その様子に気が付いたように、リーノが申しでてきた。


「まだ昼食をとられていなかったのですね。それでは思いのほか長居してしまったので、これにて失礼いたします。またお邪魔させて頂いてもよろしいですか?」


「うん、もちろんだよ。いつでも来てね」


「ではわたくしも。引っ越したばかりなので色々とありまして」


「いつでもいらして下さい」


 リーノはナーリャにいつでも来ていいと言われ笑顔で店を出ていく。インテルムは別段変わった様子もなく、それではと言って店を出ていった。


「さて、3人とも店番は俺がしておくから、奥で食べてきたらどうだ?」


「そうですね。それじゃあお言葉に甘えましょう」


「うん。ありがとね、トール」


『あの、有難う御座います。頂きます』


 3人が奥の工房へと引っ込んでいったのを確認し、トールはカウンターの奥で客が来るのを待つことにした。



脳内設定を一つ。

トールのゴーレムはユニバーサルジョイントと呼ばれるものではなく、いくつかの自由度を持ったジョイントの組み合わせです。

腕を曲げる、捻るといった動作を可能にするためと、関節をプラプラさせないためといった意味合いも持ってたりします。出来る限り人と同様の動きをしたいという考えから、関節部に歯止めも設けています。肘があらぬ方に曲がらなくなるように、ですね。

蛇足でした。

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