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杖と魔導技師と少女と魔物11

 

 落ち葉が舞い上がる中、トール達は新理愛を中心に陣を組み直す。

 トールの保護対象であるナーリャとリューナであるが、戦闘が一切できないという訳ではない。だが新理愛に戦闘を求めるのは、酷というものだろう。

 そこで誰もが何も言わないまでも、自然と新理愛を守るような布陣になっていた。


「厄介ですね。これでは目を開けているのも一苦労です」


「いっそのこと燃やしちゃう?」


「……やめてくれ。どんな参事になるか想像もつかない」


 そう話している間も、落ち葉が擦れる音と共に何かが掛ける音が聞こえてくる。隙を突こう風浪狗が周りを駆け回っているのだろう。


「vawJ tte iuC bnxmay ZUpax HmaosJ iYkf!」


 ナーリャは音がした方に集中して魔法を唱える。地面から土の槍が作られ、音が鳴った場所へと飛び出していった。しかし風浪狗の悲鳴はなく、命中した様子はない。、

 そこで今度は2匹の風浪狗が舞う落ち葉の後方より飛び出してくる。トールはすぐさまメイスを振るが、それは華麗に躱され風浪狗の一匹はトールのゴーレムがメイスを持った方の手首へと噛みつく。


「この!」


 トールは反対の手でそいつを掴むと、呪文の発動に気を取られていたナーリャに襲い掛かろうとしていた、もう一匹に対して放り投げた。それは運よく命中し、風浪狗二匹ともギャン、と悲鳴を上げる。

 倒れこんだ二匹に対して、リューナは咄嗟に球を投げつける。爆弾であるプラーミァだ。それは倒れこんだ二匹の風浪狗の近くに達すると、一瞬光を放った後に爆発を引き起こした。


「ありがと! 助かったよ」


 ナーリャは一言トールとリューナにお礼を言い、再度落ち葉が舞う方へと警戒を戻す。

 トールはちらりと先ほどプラーミァが命中した風浪狗の方を見る。それは毛皮が焼け焦げ、ピクリとも動かない。

 こっちは大丈夫そうだと判断し、トールは改めて風浪狗が潜んでいるであろう落ち葉で視界を遮られた方へと意識を向けた。落ち葉の隙間から影が見え、風浪狗の足音が聞こえてくる。そして時折鳴き声が響き渡り、それと同時に落ち葉を舞い上がらせている風が強くなっていった。


「まったくもって厄介だな」


 トールは小さく愚痴を呟く。この落ち葉を舞い上がらせている風も、効果時間があるのだろう。それを定期的に吠え、風浪狗は継続させている。

 それと落ち葉による視界不良と風切り音は、奴さんの足音を聞くのを困難にさせている。あと何匹いるのかも明確に出来ていない。その上いつ飛び出してくるかも分からないときている。まったくもって厄介な状況だった。


「≪守護者の巨人≫!!」


 トールは状況を打開すべく、≪守護者の巨人≫を起動させる。トールのゴーレムの背から、いくつもの光る腕が作り出され、それらは落ち葉の壁の向こう側へと伸びていった。そしてそれらは風浪狗を捕まえようと、あらゆる場所を探し始める。

 光る腕はトールの視界外であっても動作に支障はきたさない。ただ、トールの意思で動いている為、もちろんトールが見えない範囲では勘頼りにならざる負えないのだが。


「トール、いけそう?」


 トールの考えを把握したナーリャがそう尋ねてくる。

 しかし、やはりというべきかうまくいっていない。流石に姿も捉えずに捕まえるというのは、難しい物であった。


「厳しそうだな。いつ飛び出してくるかわからない。気を付けて」


「うん」


「ええ」


 トールが落ち葉の向こう側を探る間にも、風浪狗の何匹かは飛び出してくる。

 それらをトールはメイスで追い払い、ナーリャとリューナはそれぞれ魔法で応戦する。しかし致命打には程遠く、数は一向に減らせない。

 そんな時だ。新理愛の手の中にいた子狐が、そこから飛び出してきたのは。


『あ、駄目!』


 子狐を捕まえようとする新理愛の手を、子狐はするりと抜けてトールの横まで駆けていった。そしてトールが訝しがるのをしり目に、クン、と一鳴きした。

 たったそれだけのことだ。それだけで状況は一変する。

 子狐の一鳴きにより、ままで風浪狗によって生み出されていた風はピタリと止み、舞い上がっていた落ち葉はそこからひらひらと落ちていく。

 そして風と落ち葉でさえぎられていた視界は確保され、風浪狗の姿を明らかにした。


「ナーリャ! リューナ!」


「うん!」


「はい!」


 トール達はその隙を見逃さなかった。

 自身が起こしていた風が急に止んだことに戸惑いを見せていた風浪狗に対し、トールは≪守護者の巨人≫にて作り出した腕を伸ばす。ナーリャとリューナはそれぞれ魔法を唱えて、風浪狗に目掛けて発射した。


「ギャン!!」


 ナーリャが放った土属性の魔法は地面から槍を作り出し串刺しにする。そしてリューナの唱えた水属性の魔法は、水球を風浪狗の頭へと送り出し、窒息させる。トールは風浪狗を押さえつけることに成功し、その首を絞めて息の根を止めた。

 かくして、トール達は周辺にいた風浪狗を一掃することに成功する。ナーリャとリューナは安堵のため息を漏らし、そして新理愛はその光景に吐き気を催していた。

 新理愛は初めてであった。虫などが死んでいる姿は見たことがあるが、動物が目の前で死んでいるというのは。それも爆発によって半分焼け焦げたもの、地面から出てきた槍に串刺しにされたもの、そして窒息し口を半開きにしたものである。それは十分に新理愛に恐怖と吐き気をもたらしていた。


『う、うえぇ』


 新理愛はそれに耐えられず、近くの茂みに吐く

 それに驚いたのはナーリャとリューナである。彼女たちからしてみれば、この程度の事は既に日常、とまではいかないがある程度慣れたものである。そしてそれは彼女たちに限ったことではなく、この世界に住むものの大半がそうであった。例外があるとすれば、貴族の淑女たちであろうか。


「だ、大丈夫!?」


「どうかしましたか!?」


 ナーリャとリューナは新理愛の背をさすりながら心配そうに声を上げる。

 そしてトールは、周りの状況からして問題を把握する。ああ、これは女子高生にはキツイものがあるな、と。


『新理愛、大丈夫か?』


 トールは新理愛に日本語で声をかけ、ゴーレム内部に設置してある保管庫より一枚の紙を取る。それは朝にリューナが使用した、水球を生み出す魔法陣が描かれたものだ。

 トールは魔法陣に魔力を流すと、浮かびだした水球を新理愛の前に差し出す。


『落ち着いたら顔を洗うといい』


『……はい。ありがとうございます……』


 新理愛は少したってから口元を洗い濯ぐ。その後ナーリャが用意していた布でふき取った。


「彼女、どうしたんでしょうか?」


「ああ、俺らの世界はこういったことはなかったからな。生き物が死ぬ姿を見て動揺したんだろう」


「……魔物がいない世界ですか。いいですね」


 魔物はこの世界の住人からしてみれば、いるのが当然でありそして脅威である。村々が魔物に襲われ全滅した、なんて話には枚挙にいとまがない。

 近年ではかなり落ち着いてきており、安全がかなり確保されたとはいうが、それでも人々の頭にはその恐怖が残っている。だから殺すことに躊躇がないのだ。できなければやられる。


「その分人間同士の争いがあったようだがな。そのあたりは伝聞でしかないが」


「人同士、でですか。少し興味がありますね。帰ったら色々聞かせてください」


「ああ、構わない。まあ、話せるだけだけどな」


 リューナは人同士の争いというのに興味を持つ。それはこの世界においてほとんど戦争というものがなかったためである。

 トールは暇なときにナーリャとリューナに、近隣諸国について尋ねたことがあった。このクリーオス王国の北に位置する帝国、東に位置する都市国家連合、そして南に位置するダガスカムについてである。

 そして話を聞くうちに、これらの国と戦争状態になったのは一度もないというのだ。小規模な小競り合いはあったものの、実質戦争状態にはなっていない。

 それというのも、魔物の存在が大きい。人々はこの魔物という人間の敵に対して、近年まで不利な情勢が続いていたのだ。だがようやくここ数十年で安定した領域を確保できるまでになっていた。それも魔導の発達に伴う人類の強化が理由だと言われているのだとか。


『すみません、もう大丈夫です』


 新理愛は何とか持ち直すと、トール達に大丈夫だと告げる。その目は赤く腫れぼったくなっているが、トールは気が付かないふりをする。わざわざ指摘して、彼女の頑張りを無駄にしたくないと思ったためだ。


「さて、それじゃあトールは杖の姿で出てきてね」


 さて、そんな事を急にナーリャは言い出す。トールは一体何のことだと思ったが、素直に彼女の言った通りにする。

 杖がゴーレムの背から出てくると、顔程度の高さで浮いていてね、と言われるトール。そして悟った。いつかの角ウサギの様に、この風浪狗達を吊るし切りにするための支えにするのだと。


「いや、ナーリャさん? 吊るすのだったら、そこら辺の樹でいいんじゃないですかね?」


「だっていい感じの高さの枝がないんだもん。それにトールだったら好きに高さ変えられるでしょ?」


「それはそうだが……」


 良いから、とトールに紐で風浪狗がくくりつけられる。

 新理愛は何をしているのかさっぱりといった風に見ていたが、トールのこれから解体すると日本語で告げられて、慌てて反対側を向いた。見たくはなかったらしい。

 そんなこんなで、ナーリャとリューナによる風浪狗の解体が始められる。皮を剥ぎ、内臓と取り出して中から魔石を抜く。そして頭にあった角は、これまた素材になるという事で集められる。

 最後に肉は食用に向かないという事で埋めることになった。ナーリャが魔法で穴を作り出し、そこに埋めていく。そうして一通り処理し終わるころには、日が傾き始めていた。


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