杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト59
王都で開催された魔道具コンテストが終わり二日ほど経過した昼下がり。
トールとナーリャ、それとリューナはダナン城塞都市へと変えるため準備を整えている最中であった。
「トール。ゴーレムの収納は終わった?」
「ああ、何とか入ったよ。もうちょっと袋の口を大きく出来るようにすればよかった」
トールは自分のゴーレムの入った空間拡張の魔導袋を見ながらつぶやく。
この袋は最初に口を空間拡張の魔導技術を使って大きくし、その口の上にゴーレムを置いた後に内部の空間を拡張して収納する、といった手順を取っていた。
しかし今回トールのゴーレムは破壊されており、自立できる状態ではなかった。そのため横にしながら収納しなければならなかったのだが、袋の口を大きくする空間拡張の規模が足りなかったのだ。
「結局は各部ごとにバラシて仕舞ったけど、無駄に時間がかかったな」
「仕方がないでしょう。こんなことは想定していませんでしたから。むしろ今のうちにわかってよかったんじゃないでしょうか」
リューナも、自分の荷物を空間拡張にて内部容積を広げたカバンに詰めながら、トールに話しかける。
「そうだな。帰ったらもう少し改修するとしますか」
「とは言っても、もう数日は留まる予定なんだよね?」
「そうですね」
トール達は当初の予定では、コンテストの次の日には帰還の途へとつくはずであった。しかし予定外の事が起きたため、帰りを遅らせたのであった。その理由というのが――ー
「まさか王子様からもらえる褒賞金が、数日たたないと出ないなんてなぁ」
「このお屋敷に送ってもらうって話だったけど、受け取りもわたし達がしないといけないんでしょ?」
「王族からの褒美ですから。直接本人が受け取らないなんて、不敬にあたりますからね」
犬と獅子のゴーレム襲撃を撃退した褒賞として、トール達は200万オーロ。日本円にして約1000万円程の報酬を得ている。そして3人、正確には2人と1本がこれまで通り過ごせる保証をもらっている。
そうした褒美は、王子からの使者がこの屋敷にやってきて、簡易的な儀礼の元で送られるという。それに参加しなければならないのだ。
「それと、まだあるよな?」
「うっ………」
トールがナーリャの近くでつぶやき、その言葉に気圧されたようにナーリャは呻く。
「これに関しては私達の責任ですからね。きちんと見舞わないと」
リューナもまた額に一筋の汗を流しながら話す。
もう一つこの王都に滞在する理由は、カルンとイオンにあった。彼女らは獅子型ゴーレムとの戦いの後、内側に負った傷を治すべくペリエ薬を飲んでいる。
本来塗布専用の薬を無理に飲んだため、今は体調を崩す、正確に言えば腹を下していたのである。
「あの時はそれ以外の方法が浮かばなかったとはいえ、薬というものはその用途以外で使うとこういう結果になりえる。後でちゃんと謝っておくんだぞ」
「わかってるよ、トール」
「わかっています、トールさん」
この件に関しては、トールはあまり関わらないようにしようと心に決めている。
彼女達に自分で作ったものの責任を感じてもらうといった理由もあるが、一番はうら若き少女たちが腹を下しているというところに、男と自認している自分が入り込むというのも、悪い気がしていたためである。
「それはそうと、今日はどうするんだ。嵩張るものとかは一通り片づけるとして、他に何かしておきたいこととかはあるか?」
「そうだね。できればもう一度王都を見て回りたいんだけど、駄目かな?」
そう提案したのはナーリャだ。彼女はこの王都に来てからというもの、ほとんど外出できていない。それというのも、初日に出かけて命を狙われたためである。
危険があると分かっていては、さすがに外出の許可は下りなかったのである。
「さすがに良いとは言い難いですね。ナーリャさんは命を狙われているのですから」
と、リューナがナーリャをなだめようとした時、外からノックされる。
「ナーリャ様、リューナ様、トール様。少々よろしいでしょうか?」
外から聞こえてきた声はクリシュの物だった。
トール達は一度それぞれと目を合わせると、ナーリャが代表して返事を返した。
「はい、大丈夫です」
「それでは、失礼いたします」
そういって中に入ってきたのは、声をかけてきたクリシュと、その護衛であるペルラであった。
「皆様おはようございます」
クリシュはそういって小さく頭を下げ挨拶をすると、2人と1本の前へと進み出た。
「どうかなさいましたか、クリシュ様?」
「はい。実はこれから王都へお買い物をしに行こうかと思いまして、それで皆さんをお誘いに来たのです」
そのクリシュの言葉に、再度目を合わせるナーリャとリューナ。トールも一応合わせた素振りをしているが、端から見てまったくわからない。
「えっと、クリシュ様? わたしはさすがに付いて行くのは問題あるかと思うんですけど……」
ナーリャは先ほど話をしていたことを告げる。命を狙われている自分が行っては、迷惑をかけることになってしまうと。
「それなのですが、先ほど犯人が捕まったと連絡があったのです」
そう答えたのはクリシュの護衛、ペルラであった。
「犯人が捕まったのですか?」
「はい。彼の者は雇われの冒険者崩れでして、裏道で依頼を受けたとのことです。その依頼を出したものも、今拘束中とのことです」
その意外な内容に、トール達は一瞬声を出せなかった。
そうして驚いていると、ペルラは補足を始める。
「依頼を出したものはある貴族の子でして。理由ははっきりと申しませんでしたが、コンテストに参加するにあたって、やっかみがあったようです」
つまりはこういう事だ。
その貴族の子というのは、クリシュに懸想をしていたという。そしてダナン家がコンテストに参加する魔導技師を探していると聞いて、立候補しようとしたのだという。
しかし実際には、どこの馬の骨とも知れないナーリャ達に白羽の矢があたり、それを逆恨みしての犯行だという。
「ですので、この件に限って言えばレステ家は関係がない、という事になります」
要はナーリャの思い違いである、とペルラはいう。
その言葉に、トールはいくつか引っかかるものを感じていた。
「……そういう風に話が付いた、という事ですか?」
トールは腹の探り合いをしていても仕方がないと思い、直に尋ねることにする。
その言葉を聞いて、ナーリャとリューナ、そしてクリシュもまた驚きの表情をしていた。
「どういった意味でしょうか、トール殿」
「そのままの意味だよ」
トールとしてはそれで、はい解りましたとは答える気はなかった。
まずその貴族の子とやらが、ダナン家が魔導技師を探しているという事をどこで知ったのか。一旦ダナン家は魔導技師を確保しており、それを直前になって断られたのだという。その情報をどこで手に入れたかが気になっている。
そしてもう一つは、その貴族の子とやらが本当に本人の意思のみで犯行を計画したのか。
「……ふぅ。あなたは本当に杖ですか? にわかに信じられなくなってきました。そうです。仰る通りそういう風になりました。犯人も犯行を企てた貴族の子も、実際のところは誘導されたというところでしょう」
ペルラは意外にもあっさりと口を割った。
実際のところは後ろに何かしらの者がいることは明白であるが、如何せん証拠がない。だがダナン家としてもやられっぱなしというのは沽券にかかわるという事で、黒幕と思われるレステ家へと圧力をかけたのだという。
「無論、向こうとしても我々がやったとは言いませんが、それでもこちらの本気度が伝わったはずです。言い方は悪いですが、高々1人の魔導技師に私怨を晴らすために、ダナン家と本気でやり合うという事はしないでしょう」
「そこで落としどころは、実行犯の引き渡し、ってとこか。了解した。変な事を聞いて悪かったな」
「いえ。そういう事です、お嬢様」
ペルラはクリシュへと向かい、そう話しかける。
クリシュもまたトールの言った発言で最初は驚いていたが、話を聞いているうちに少し思案した顔つきとなっていた。
「そういう事なのですね、ペルラ。分かりました」
二人が納得しあっていると、いまいち理解が出来ていないナーリャが手を挙げる。
「えっと、つまりどういう事でしょう?」
「簡単に言ってしまえば、今回の滞在中はもう狙われなくなったという事ですね。そうですよね?」
「はい。少なくとも今回の滞在中は狙われることは無いでしょう。他にもダナンへ帰れば、そこで狙われることもなくなります」
ペルラは今回の要点を述べればダナン家が面子にかかわらず保護をする、といったことになったのだと話す。それはもし仮にナーリャとリューナに何者かが危害を企てようとするのであれば、それを全力をもってダナン家が排除する、と宣言したのである。
「そうなんですね。ありがとうございます!」
ナーリャはクリシュとペルラに向かって頭を下げ、素直に感謝の言葉を述べる。
リューナもその横で頭を下げるが、ちらりとトールの方を見ている。そしてトールもまたそれに応える様に、宝玉部をコクンとうなずかせた。




