↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
140/165

杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト57

 

 イオンの意識が回復した後、トール達はアトラの屋敷へと戻っていった。そしてすぐに食事が提供され、それで腹を満たした一行は用意された風呂に入り身も心もリフレッシュさせていた。


「気持ちよかったね」


「そうですね。さすがに色々とありましたが、お風呂のおかげですっきりできました」


 風呂から上がったナーリャ達は、その後ナーリャとリューナが寝泊まりしている部屋へと集まっていた。

 そこにはカルンと意識が戻ったイオン、それにクリシュも同席している。彼女達は寝間着に一枚上から羽織っている姿である。

 そしてもちろんトールも一緒である。かなり肩身の狭い思いをしているのではあるが。


「改めて皆さん、ご心配をおかけしました」


 そういったのはイオンである。彼女は意識を取り戻してい以来仕切りに謝り倒していたのである。


「気にしないでいいってば。そんなことより、無事で何よりだったよ」


「そうですよ。それよりもこちらとしては、無理に戦いに出てもらってしまって、申し訳ありませんでした」


 リューナとしては、あくまで護衛で付いてきてもらったのにもかかわらず、戦いへと送り出していたことが気になっていたのである。本来であれば、業務外のことであるからして、それをお願いして危険にさらしてしまったと。


「いいえ。戦いに赴くと決めたのは私の方ですから。それよりもやはり皆さんにご心配をおかけしたことが……」


「いえ、そうであろうとお願いしたのは私達ですから……」


 リューナとイオンはそれぞれの意見を言い合い、それで一歩も引くつもりがないようである。互いに頭を下げては、いやいやそれは、と言い返し続けている。

 そんな様子の二人を見て、トールはらちが明かないなと思い口をはさむことにした。


「二人とも落ち着け。そんなこと言っていたらいつまでたっても終わらないぞ。こういう時は互いにありがとう、でいいだろ?」


 トールの発言に、リューナとイオンだけでなく、他のナーリャとカルンも呆けた表情でトールを見た。


「……トールがなんかいいこと言ってる気がする」


「失礼な。なにかおかしいか?」


「……いや、人として杖に諭されるというのは、どうかとも思うのですが。ですが確かにトールさんの仰る通りですね。有難う御座います、イオンさん。おかげで多くの人が助かりました」


「うん、ありがとうイオンちゃん」


 ナーリャとリューナはそろって頭を下げてイオンに感謝の言葉を述べる。


「いえ……いや、はい。私の方こそ助けて頂いて有難う御座いました」


「ありがとうっす!」


 そしてそのお返しとばかりにイオンとカルンもまた、ナーリャとリューナに向かって頭を下げた。

 その様子を見て、トールも満足そうにうなずいている。


「よし、それじゃあこの話はこれでおしまいだな」


「いえ、わたくし皆様にお礼を言いたいと思っておりました。此度は皆さま有難う御座いました」


 トールが切り上げようとした横で、今度はクリシュが頭を下げる。

 そうすると今度はクリシュを除いた面々がいやいやそんな、と慌てて首を振る。

 そんな様子に、トールはこりゃ終わらんなとつぶやいていた。


 そうして謝罪合戦から変化し感謝合戦になって暫くした後、ようやく落ち着きが戻ったので彼女らはゆっくりとお茶を飲むことにした。

 メイドたちが淹れたお茶は香り高く、芳醇な芳香を漂わせていた。


「いい匂いだな。なんだか気分が落ち着くような気がする」


「はい。このお茶は東の国、アーリレント都市国家連合の方から取り寄せたものです。彼の国では多くの産物が集まるそうで、このお茶もそのうちの一つだそうです」


「アーリレント、都市国家連合?」


「はい、そうです」


 クリシュがいうには、この国、クリーオス王国の東にあるのはアーリレント都市国家連合と言われる国家群があるのだという。

 そこは都市国家と呼ばれる比較的小さな国々が集まって出来た連合体で、相互扶助の精神の元成り立っておりクリーオス王国東方とは貿易が盛んであるということだ。


「他にも様々な香辛料などもそちらの方からやってきますし、綺麗な織物もありますね。装飾品もこちらとはまた違った物も御座います」


「装飾品ですか。見てみたいですね」


「私も見てみたいなぁ」


 装飾品という言葉にひかれたのか、そんなことをイオンとナーリャがいう。それを意外だとトールは少し感じていた。

 いつものナーリャであれば、そういったことに興味を示さず、魔道具がどうのと言い出しかねないからである。


「御興味が御有りですか、イオン様、ナーリャ様」


「うん。だって魔道具に使えそうな物とかありそうじゃない? 宝石系は魔法陣を描くのに必要だし、装飾品とかは質のいい物だったらその台座とか、増幅系に使えるかもだし。あ、他にも見たことのない素材とかだったら、新しい魔道具の素材とかにも使えるかも」


 トールはナーリャのいつも通りの発言に、ガクッっと首、ではなく宝玉部を下げる。


「わ、私は違いますよ、クリシュ様」


「確かに見たことのない素材は興味深いですね。それと見たことのない魔道具とかないのでしょうか?」


 イオンは純粋に装飾品に興味があるのだと言っているのだが、リューナはナーリャの話に乗ってきてしまっていた。やはりというか、彼女も装飾品自体には興味を示していないようである。

 すこしガックリときたイオンは、クリシュの方を見る。

 実はイオン、小物や装飾品などがかなり好きなのであった。今は冒険者としてお金を装備とか消耗品に回しているが、ちょっとした小物なども余裕が出来れば買いたいと考えているのである。そしてそういった話は普段出来ない、というかカルンが興味を示さないので、クリシュとできればそんな話をしたかったのである。

 だが、クリシュは少し食い気味にナーリャ達の魔道具話に乗っかかっていった。彼女もまた魔道具の話は大好きなのである。


「東方からは魔道具はあまり来ません。というのも魔道具自体まだクリーオス王国より外へ出ていないからでしょう。これらの技術は、王国が最も発達していますから」


 元々の魔道具技術は、ナーリャの祖母が発見したと言われている。そのため最も発達しているのは、その発見者であるナーリャの祖母が住んでいたクリーオス王国だという事なのだろう。

 そのことを思いながら、トールはお茶の香りを楽しんでいる。もちろん飲んではいないが。


「そういや、杖の兄さんって匂いも分かるんすか?」


 貿易の話から装飾品、そして魔道具話になっていたため、何となく黙っていたカルンがふとそんなことをトールに聞いてくる。

 話を振られたトールはその言葉を聞いて、自身が今までは匂いを感じていなかったことに気が付いた。


「そういえば、そうだな。さっきお茶の匂いを嗅ぐまで、匂いを感じたことは無かった。どういう事だ?」


「さぁ? もともと杖が話せるだけでもおかしいっすから、匂いを感じても別に変じゃないんじゃないっすかね」


 カルンはあっけらかんと答える。

 トールはそれもそうか、とはさすがに思えなかった。変化には何かしらの要因があり、トールが思いつくのは一つしかなかったからである。


(やはり、あの契約とやらが原因か? これはどう見るべきか。他にどんな変化があるのか……)


 トールは思考に入り黙りこんでいった。

 そんなトールを、カルンはどうしたっすかと宝玉の前で手を振ったりしている。


「そういえば、トールさんが一度動けなくなった時、てっきり魔力切れかと思ったんですが」


 トール達の話に興味が移ったのか、リューナがそのようなことを尋ねてくる。

 トールが動けなくなった時、つまりはあの獅子型ゴーレムとの戦闘で、トールのゴーレムが倒れ伏した時のことである。リューナとしては、その時トールが魔力切れを起こしたものだと思っていた。

 しかしその後トールが再起動をはたして、間一髪の時に救われたのである。そのため魔力切れとは別の要因だと考えていたのであるが、理由がさっぱりと思いつかなかったのだ。


「ん? ああ、あの時は確かに魔力切れを起こしていたんだが、その後にな……」


 トールはとりあえず経緯を説明することにする。下手に隠すより、相談してしまった方が問題が起きても対処できると考えたためである。

 トールはとりあえず魔力切れを起こしたこと。その後声が聞こえてきて契約すれば魔力が回復すると言われたこと。そして契約とやらを結び、とりあえず回復した魔力でゴーレムを動かして戦線に復帰したことを伝える。

 その間、ナーリャは徐々に怒ったような顔つきになり、リューナは呆れた様子になっていった。


「トール! そこに正座!!」


 トールが話を終えると、ナーリャは声を荒げてそんなことを言い放った。


「いや、正座と言われても俺にはそんなこと出来ないんだが……」


「いいからするの! 早く!」


 なんだか話を聞いてくれないナーリャに気圧され、トールは自分の柄の部分を数字の2のような形に曲げ、床へと降りる。


「さて、トール。なんでこんなことしているか解ってる?」


「いえ、良く分かってません、ナーリャさん」


 何となく敬語で話始めるトール。

 そんなことは関係ないとばかり、ナーリャは続ける。


「いい。そんな変な声が聞こえて、契約なんて言われたら悪魔かなんかだと普通思うでしょ。なんで頷いちゃうかなぁ」


「そうです。そんな怪しい勧誘を受けて、それで本当に効力を発揮したとなれば、それは悪魔か何か悪いモノの仕業ではないでしょうか」


 ナーリャは怒ったような顔をし、リューナは呆れた顔でトールに説教をし始める。二人の顔つきはそっくりであり、それゆえ表情の違いがはっきりと分かる。


「いや、あの時はそうするしかなかったと言いますか、それ以外の方法が思いつかなかったと言いますか……」


「いいえ、トール様。いくらなんでも迂闊というものです。そのような契約なんて、何が起こるか分かったものではありませんよ」


「そうっすよ。杖の兄さんは迂闊っす」


「今回ばかりはカルンちゃんの言う通りです。さすがに迂闊すぎます」


 心配そうな表情のクリシュに、なぜかどや顔のカルン。そして悲しそうな顔をしたイオンにもトールは説教を受ける。


「うう……仕方がなかったんや」


 似非関西弁でうなだれるトールに、彼女達は話をあっさりと切り上げた。


「まあ、それでわたし達が助かったんだから、強くは言えないよね」


「そうですね。むしろそんな危険を冒させてしまったことを詫びるべきです。すみません、トールさん」


 ナーリャとリューナはそういってトールの事を持ち上げる。トールとしては、いきなり話の流れが変わったことに驚いており、そのまま黙って持ち上げられる。


「ええ。すみません、トール様」


「そうっすね。助かったすよ、杖の兄さん」


「助かりました、トールさん」


 全員に謝られ、感謝されたトールは、なんだか気恥ずかしい気持ちになる。

 トールは照れ隠しに体をうねうねと曲げ、その様子は端から見れば漁師に捕まって逃げようとするウナギのような光景であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。