杖と魔道技師と火薬と薬剤3
固まって動かなくなったリューナを見ながら、そういえばと思いトールは質問をした。
「そういえば聞いていなかったんだけど、この店って何の店なんだ?」
リューナはまだ固まったままで、それ見ながら申し訳なさそうにしていたナーリャが答えた。
「この店は『流れる羽』って言って、魔道具を取り扱う店なんだけど……」
「魔道具?今朝ナーリャが見せてくれた水筒のようなやつか?」
「そうそう。私たち魔道技師がそういった魔道具を作って売っているのがこのお店だよ」
「そうなのか。それにしては表の商品棚には、火薬っぽいのしか置いてなかったようだが?」
「えっとー、それはねー……」
ナーリャ冷や汗をかきながら目線をそらし、誤魔化す様につぶやく。
「それに工房だったか?ここも鉱石あたり以外は埃をかぶっているみたいなんだが」
確かに中央に置かれている作業台以外の周りを見てみると、ホコリがかぶっているように見受けられる。もう少し正確に言うと、鉱石が保管かれているところ以外にだ。
「後で掃除をしましょう。それと器材を壊したままというのは頂けません。早急に修理しましょう」
ようやく復活したリューナからも言われ、トールとリューナを慌てた様子で交互に見る。そうして一拍置いた後、観念したかのようにナーリャは話しだした。
◇ ◆ ◇ ◆◇ ◆ ◇
「つまり調剤用の器材は壊して、当分は使わないと思って捨ててしまったと」
「そんでもって、今現在ナーリャが作れるのは店に置いてある火薬のみって事だな?」
「はい、その通りです……」
二人は作業台前の椅子に座り、トールはその横に浮かんで話し合っていた。ナーリャは俯きながら、リューナとトールのほうをちらちらと見ている。
ナーリャが言うには調剤器材は落として壊してしまった後、自分には使うことが出来ないからと処分してしまったようだ。何せ火薬しか作れないのだ。
「でもでも、火薬以外も作れるように勉強中なんだよ。それで作れるようになったら調剤器材も買いなおそうと思ってたんだよ」
俯いていた顔を上げ、まるで子供の言い訳のようにナーリャは二人に言う。
「調剤用の器材というのは、必要になって調達するものではありません。普段から使い続けることでようやく手に馴染むものです」
「はい……」
「そもそも火薬以外の作り方を勉強といっても、器材が無ければそれだけ幅が狭まるでしょう?」
「仰るとおりです……」
横で説教をしているリューナと、それを叱られた子供のように聞いているナーリャを尻目に、トールはふよふよと辺りを浮かんでいた。工房の中にはトールが見たことがある様な物から、どす黒い色をした液体の入ったビンなど分からないものも多い。
するとその中から一つ気になるものをトールは見つけた。それは10センチほどの大きさをした、金属で出来た人形である
元々ロボットが好きで設計者を目指したトールにとって、それはとても興味深いものであった。
「なあ。ここに金属で出来ている人形があるんだけど、これなんだ?」
説教を続けていたリューナはその声に一旦説教を止め、トールの方へ向く。ナーリャもいつも間にか床に正座していたが、それを崩して立ち上がるとトールの方へと向かった。
「ああそれね。それはおばあちゃんが作ったゴーレム『とことこ君』だよ」
「……そのネーミングセンスは置いておいて、ゴーレムって事は動くのか?」
「とことこ君かわいいのに……でも今は魔力切れで動かないんだ。魔力補充しようにもわざわざ誰かに頼むってのもアレだったし」
そういうとナーリャはとことこ君を持ち上げ、なつかしいなぁと色々といじくっている。
ナーリャが遊んでいる様子を見ながら、トールは何とかして動かせないかと考えていた。ただ単純に見てみたい。その一心である。
「そうか。じゃあリューナは無理なのか?」
そう聞くとリューナは、ナーリャの方へとやってきて人形を調べる。
「……おそらく無理でしょう。見た感じ火と土、それに風の属性魔力が必要です」
その問いの答えに、トールはふーんと思っていると、一つ思いついたことがあり提案してみた。
「だったら火と土はナーリャが魔力を入れて、風はリューナが入れればいいんじゃないのか?」
「それは無理だよ。違う人がそれぞれ魔力を込めると、反発しあって下手すると壊れちゃうの」
「ええ。だからこそ私が学院で出された課題が、嫌がらせ以外何物でもないのですが」
「ああ、そういうことなのか。じゃあ動かせないのか、残念だ」
そういってトールは自身の柄でコツンと人形を叩く。するとまた何処からか機械的な音声が聞こえてくる。
…魔力回路を確認。魔道具に魔力を注入しますか?
それを聞いたトールはお?と思い、もしかして出来るのかと考える。
「なあ、魔力込められそうだが、やってみて良いか?」
その問いに聞かれた二人は戸惑った。魔道具が魔道具に魔力を入れる。その発想は無かったのだ。
「あなたそんなことまで出来るんですか?」
「なんか出来そうな感じなんだよ。やって良いか?」
「それじゃあ、お願いしようかな」
その二人の言葉に、柄先を人形に当てて魔力補充と念じる。すると人形の背に刻まれていた魔法陣が光だす。しばらくしてそれが終わると、人形はかっしゃかっしゃと動き始めた。
「おお、本当に動いた!」
トールは人形が動く様子に興奮し、ナーリャは久しぶりに動いた人形に喜んでいる。
無邪気に盛り上がっている二人をよそに、リューナは考え込むように顎に手を当てていた。
「……なんだかあなたには、驚かされてばかりいる様な気がします。まったくどうなっているのですか」
そんなあきれたような言葉を吐くリューナを横に、ナーリャは人形を地面に置いて歩き出させていた。
あたりを歩き回る姿を見てトールはさらに興奮し、体をうねらせていた。
そうして1分ほど歩きまわらせて遊んでいると、トールはなんだか体に違和感が出始めていることに気がついた。
そしてその違和感が急に強くなり、その時にはトールは床に落ちていた。
「ちょっと、トール!どうしたの!?」
「トールさん?どうかしたのですか!?」
いきなり落ちたトールは、一体どうしたと考えながら必死に体|(杖)を動かそうとしていた。そこでまたしても音声が聞こえる。
…魔力不足。補充をして下さい。
流れてきた音声に、もしかして自分の魔力がなくなったのが原因かと思い、二人に伝える。
「すまない。俺の魔力が無くなったようだ。どうにか補充できないか?」
声を出したトールに二人はホッとし、しかし言われたことの内容を考えると苦虫を潰したような顔をする。
「トールさん。先ほど言いましたが、魔力は二人で同時に込めることが出来ません。先ほど人形に魔力を込められたことを考えると、少なくとも3属性以上の魔力が必要なのではないでしょうか?」
そう答えられてトールは駄目かと一瞬考えたが、じゃあなんで今まで大丈夫だったのかを考えを改める。
そして『知識の泉』へと問いかける。
…自身への魔力充填方法:マスターに触れてもらう事で可能。能動的、受動的ともに受け渡し可能。
今度はあっさりと答えた『知識の泉』に感謝しつつ、マスター、つまり二人ならば大丈夫そうだとトールはお願いをする。
「マスターの二人なら大丈夫そうだ。試しにやってみてもらえないか?」
「しかし、駄目だった場合はトールが最悪壊れてしまうことも考えられます」
「そうだよ!もし壊れちゃったらどうするの!?」
二人の心配してくれている声に、少し嬉しさを感じながらもトールは改めてお願いする。
「きっと大丈夫だ。初めは魔力がゼロのはずだった俺に魔力があるって事は、どこかで充填されていたって事だ。そう考えると、きっと魔力を二人から無意識にもらっていたを思うんだ。そう考えると辻褄があうだろ?」
そう言われ、最初は躊躇っていた二人だったが、互いに視線を交えうなずくと、両者ともに手をトールへと当てる。
「ますは少しずつ。大丈夫そうならそのまま行きましょう」
「わかった。まずはちょっとずつね」
そう言い合あい二人は魔力をトールへと流し始める。すると杖全体から徐々に淡い光が発せられる。その様子に大丈夫そうだと二人は魔力を送り続けた。
送り込まれているトールは、自分の体が光っているのを見ると、何やら暖かい感覚が全身を覆っているのが感じられた。
「(この感じが魔力ってやつかな。感じられるのであれば後々使えそうだ)」
そうして30秒ほどで二人は魔力を送るのを中断した。
「どう?」
「大丈夫そうですか?」
二人の言葉に返すかのようにトールは宙へと浮び上がった。それを見た二人は安堵すると、トールへ文句を言い始めた。
「まったく!びっくりさせないでよね。心配したんだから」
「その通りです。驚かせないで下さい」
「すまない。自分でも加減ってものがいまいち分からなくってな。それとありがとう」
そう聞いた二人は笑顔になって、うんと答えるのであった。




