杖と魔道技師と火薬と薬剤2
外に出て来たリューナは、掃除を始めようとして手に持っているトールに気づいた。
そのまま掃除するにも邪魔だなと感じたリューナは、トールと家の壁に立て掛けて、掃除をし始めた。
「扱いが雑になってないか?」
不満を漏らすトールに、リューナはにべも無く答える。
「あまり大きな声を出さないでくださいね。聞かれると厄介です。それに扱いとしてはそんなに雑じゃないですよ」
「そうか?まあいいや。それにしてもさっきは助かったよ。ありがとう」
リューナは一瞬何のことだか分からなかったが、すぐに思い当たった。トールの発言で気まずくなったことだろう。
「気にしないで下さい。むしろ私の方が失言だったかも知れません。気を使われると余計に気になるんですよ」
自分も同じだからこそ、そう思うのだろう。その言葉を受け、トールは出来る限り気にしないようにしようと心に決めた。。
「そっか。まあ今後は気にし過ぎない様にするよ」
「そうして下さい。まあ、それはそれとして、あなたにいくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ああ。答えられる範囲であれば良ければ何でも聞いてくれ」
リューナは掃除をしながらトールへと質問をした。
「では、トールはいつ、どこで作られたのですか?話せる杖というのは聞いたことありませんし、それに一般常識もそんなに持ち合わせているようには感じられません」
「作られたって言うのは正確かどうかわからないが、約十日前だな。場所はこの街の、たぶん近くにある森の一画だな」
そう聞くとリューナは、掃除の手を止め思案する。それから質問を続ける。
「そんな近くの場所で作られたのですか?何かの研究施設とかではなく?」
「正確にはそこで作られたという訳ではなく、気がついたらそこに居た、が正しいか。そして初めて目が覚めたのがそこだ」
「どういうことです?」
リューナは完全に手を止め、トールの方へと振り返る。
「そのまんまの意味さ。気がつくと俺はそこに居たんだよ」
「それじゃあトールの製作者は分からないと?」
「いや、それは分かっていて、その場所に送り出したのもたぶんそいつらなんだが……昨日話したようにそいつらに関しては話すことが出来ない」
昨日も話そうと試してたが、秘匿情報とやらで発言しようとすると意味の無い言葉へ置き換わってしまっていたのだ。そのことはリューナも知っていた。
「そうでしたね。それではもう一つ、昨日話していた魔力属性についてなのですが……」
そう話しを続けようとしたリューナだったが、後ろからかけられた声に遮られることとなった。
「あらナーリャちゃん、どうしたのその髪の毛?」
リューナが振り向くとそこには恰幅のいい女性と小さな女の子が居た。彼女は知る由も無いが、昨日ナーリャに話しかけていたシアラとスィンの母子だ。
「あ、いえ、私は……」
咄嗟のことで上手いこと答えられずにあたふたとしていると、そのままシアラは勢いよく話しかけ続け、そのペースにリューナは飲まれていった。
「あらあら髪の色だけじゃなく長さまで短くなっちゃって。それによく見ると目の色まで変わっちゃってるじゃない。どうしたんだい?また変な魔道具にでも手を出しちゃったのかい?」
グイグイと押し込むように、近づいてくる怒涛の勢いに完全に飲まれたリューナは、しどろもどろにしか答えらない。その勢いでシアラはリューナの髪や頬を触ってくる。
トールはというと、さすがに話しかけるのはまずいと思い沈黙を保っていた。。
そうやってリューナが勢いに押されていると、家のドアが開かれ、中からナーリャが出て来た。
「朝ごはんの準備できたよー、ってあれ?どうかしたの?」
シアラは家の中から顔を出したナーリャを見て、その後リューナの方をみる。そうしてもう一度ナーリャの方を見ると口を開いた。
「あらあら、ナーリャちゃんが二人いるよ!こりゃ驚いたねぇ!一体どうしちまったんだい?最近の魔道具ってのはすごいんだねぇ」
そう勘違いし話し続けるシアラに、娘であるスィルが袖を引っ張りながら、ちがうよ?と言っている。
突然のことで何のことやら分からないナーリャと、ようやく落ち着きを取り戻したリューナが、暴走する奥様に何とか説明しようと話しかけていた。
「私は昨日からナーリャさんの元にご厄介になっているリューナと申します。ただナーリャさんとは似ているだけで、特に魔道具とかは関係ないのです」
「昨日から一緒に住むことになったリューナちゃんです。一緒にお店をやっていくことになりました」
落ち着いて説明するリューナとナーリャに、ようやく納得して落ち着いたシアラは、不思議なこともあるもんだねぇと話している。
「じゃあ何かい?こっちの青い髪の子はリューナちゃんていうのかい。本当にナーリャちゃんそっくりだね!わたしはシアラってんだよ。この通りをまっすぐ行った先で、飛跳ねる雌鹿亭って店開いてんだ。今度よかったら食べにおいで!」
「はい、宜しくお願いします」
挨拶するリューナに、シアラの後ろにいる小さな少女からも挨拶が返ってきた。
「はじめまして!わたししぃるっていうの!5才なの!」
「はい。初めましてシィルちゃん。私はリューナといいます」
両手をバンザイして元気よくそう言ったシィルは微笑ましさを感じさせる。その様子に、リューナも思わず笑顔になって答えていた。
「それじゃあ、私たちこれから朝ごはんなので」
「そうかい。今度リューナちゃんを連れて遊びに来ておくれよ」
「はい、伺わせていただきます」
バイバイと大きく手を振っているシィルの手を振り返し二人は家へと入っていく。完全に忘れられたトールもこっそりとその後について行き、家の中へと入る。
「俺を置いていくなよ」
抗議の声を上げながらテーブルの横へと浮いていくトールに、忘れていた二人は謝りながら席に着く。
そうして朝食をとり始める。今朝の献立は昨日のスープの残りとパンのようだ。
他愛の無い会話をしながら30分ほどで食べ終え、ナーリャとリューナは片付けに向かう。することの無いトールはいつの間にか動かせる様になっていた柄の部分を、色々と呻らせながら暇をつぶしていた。
そうして片付けが終わると、改めてテーブルに集まった。
「さて、それじゃあ今日はこの後どうする?」
「そうですね。私としては店の方へ行って色々と確認したいことがあるのですが。機材の様子とか仕事の内容も確認したいです」
トールとリューナがそう話し合っていると、ナーリャはバツの悪そうな顔で二人から目をそらしていた。
それに気づいたトールは、どうかしたかと問いかける。
「なんかしたいことでもあったか、ナーリャ?」
「えっと……そういうわけじゃないんだけどね?」
「気になることがあれば何なりと言って下さい。なんといってもナーリャは店主であり家主なのですから」
「……うん分かった。とりあえず店の方へ行こっか」
ナーリャはそう歯切れ悪く言って一人と一本に移動を促すと、立ち上がる。なんだろうと疑問に思いながらトールとリューナはそれに続く。
そうして隣の店までやってきた二人と一本だが、やはり店内の棚に置かれているのは火薬らしきものしかない。
それに疑問を持ったトールだったが、今はナーリャに付いて行こうと思い後回しにする。
そのまま一番奥にあるカウンターの裏にあるドアまで進んでいく。
「ここが工房だよ」
そういってナーリャはドアを開けて中へと進んでいく。それに続いてトール達も中に入る。
中の様子は、大きな作業台と工具らしきものが散乱としており、ほかにも鉱石やインゴット、丸めてある羊皮紙束や木片に草類などが種類別に置かれている。
いろいろと置かれている物をトールは興味深く眺めていく。ふとリューナの様子が気になり見てみると、何やらきょろきょろとどうやら探し物をしているようだった。
「なんか探し物か?」
「ええ。薬品関係を調合したりする器材を探しているのですが、見当たらなくって」
こっちかなとうろうろし始めるリューナ。
トールは生前の仕事柄金属に興味があり見に行こうとする。そうしているとナーリャがもじもじとしている姿が目に入った。
「なんだナーリャ?どうした?」
「えと、そのね?リューナちゃん、ちょっといい?」
器材を探してうろうろしていたリューナは、その声を聞いてナーリャのところに戻ってくる。
「どうかしましたか?」
「えっとね?薬剤関連の器材なんだけど……」
「ええ。それが見当たらなくて。どこにあるのでしょう?」
「それなんだけどね。……実はちょっと前に引っ掛けて落としちゃって。壊れちゃってて今無いの」
「ああ、そうなんですか。それで修理はいつ終わる予定なんですか?」
「…して…いの」
「? すみません、聞こえませんでした。もう一度言ってもらっていいですか?」
「あのね。そのね。……直してないの」
それを聞いたリューナは固まった。




