杖と魔道技師と火薬と薬剤1
幕間1と同時に投稿しています。
まだ幕間1を読まれてなければ、そちらもどうぞご覧ください。
朝、トールが目を覚ますと外はまだ薄暗く、静寂に包まれていた。すこし起きるのが早かったかな?と思い寝なおそうとするが、目が冴えてしまい眠れそうにない。
仕方が無いので起きる決意をし、椅子で横になっていた体|(杖)を浮かせる。そこで起きたは良いが、やることが無いので、そのまま窓の近くに行き、外の様子を眺めながら昨日の出来事を考えていた。
「(昨日は色々と急展開だったからな。話せる様になったが一番ありがたかったし、それに『知識の泉』だ。これって今思えばかなりのチートなんじゃないか?多重魔法陣とやらもリューナが研究所でもって言ってたし)」
そう思い立ったトールは、とりあえずどこまで調べられるかを試すことにした。そうしてまず初めに思い立ったのは、ファンタジーの定番、ポーションである。まずはこれの作成方法を調べることにし、ポーションの作り方を強く考える。
…ポーションの作り方:不定名称。条件を絞り込んで下さい。
トールはかなりわくわくしながら回答を待っていたが、結果その一言が返ってきた。さすがにポーションだけだと大雑把過ぎかと、今度はもう少し限定した名称を思い浮かべる。
…ヒーリングポーションの作り方:不定名称。条件を絞り込んで下さい。
だが結果として返ってきた答えは同じものだった。
その後いくつか試してみたが、結局全て同じ回答だった。
「(なんなんだよ、一体。どうしろと。それに不定名称って何だ?意味が分からん)」
多重魔法陣に関しては一発で出来たのに、ポーションに関しては全部空振りだった。
そうやって色々と試しているうちに階段の方から下りてくる音がした。トールは誰かなと思い、階段のに視線を向けると降りて来たのはナーリャだった。既に昨日と同じ普段着に着替えているようだ。
「おはよう。かなり早いな」
そうトールは声をかける。その挨拶で、トールが既に起きていることを察したナーリャは挨拶を返した。
「おはよう。トールこそかなり早いね」
「俺の場合はただ単に目が覚めたってだけなんだがな。ナーリャはいつもこの時間帯に起きるのか?」
「うん、私はいつも大体これくらいかな?早起きは得意なんだ」
そういってナーリャは台所にいって顔を洗い始める。それを見てトールは、そういえば水ってどうなっているんだ?と覗き込む。管理者から聞いていた通り、中世時代の文明とかだとでかいツボとかにためているイメージがあったのだ。
しかし見えてきたのは、桶に水を貯めて顔を洗っているナーリャの姿だけで、特に水の入ったツボなんかは見当たらなかった。
「なあ、水ってどうしているんだ?」
気になったトールは、顔を洗い終わったナーリャにそう尋ねる。
「ん?どうしてるって何が?」
「いや、顔を洗った時の水はどこから出したのかなと。水を貯めているツボみたいなのも見当たらないし」
その言葉に得心がいったのか、ナーリャは手のひらとぽんっと叩き、答える。
「ああ、そういうこと!それはこれを使っているんだよ」
そういって見せたのは、水筒だった。
「これは魔道具で、魔力が切れるまでずっと水が出てくる優れものなんだよ!」
そういって嬉しそうに笑うナーリャ。
「そう、これは私のおばあちゃん謹製の魔道水筒、その名も『水でるでる君』。そんじょそこらに売っている物と違って、マナ効率は脅威の32%を誇る優れもの!そしてその秘密は、なんといっても内側に彫ってあるシンプルかつ繊細な陣による術式制御と…」
「ああ、分かった。すまなかった」
目の色変えて本当に嬉しそうに語るナーリャに、ほとんど話しについていけず思わずトールは謝っていた。
それでもナーリャはとまらず、なんと言ってもマナプールから出力する際の抵抗が~とか、陣の制御中枢部の簡略化により~などと語っている。
聞いたことに後悔し始めたトールであったが、そこでもう一人階段から降りてくる人影を見た。
「どうしたんです朝から?」
そう言って降りてきたのはリューナだった。彼女はまだ着替える前だったようで、昨日と同じ寝巻きを着ていた。
「ああ、ちょっとナーシャが顔を洗った時の水はどう調達しているのかを聞いたんだが…」
トールがそういうと、ちょうど説明が終わったのか、ナーリャは満足そうにしていた。
「というわけだよ。分かった、トール?」
「ああ、よく分からないということが分かったよ」
ナーリャはトールのその返答に、ん?と疑問の表情を出すがまあいっかとリューナに挨拶をした。
「おはよう、リューナちゃん」
「おはよう御座います、ナーリャさん。私も顔を洗いたいので桶借りて良いですか?」
「うん。台所にあいてあるやつ使って」
ありがとうございます、といってリューナは台所へと向かう。
トールは今度は自分の目?で確認しようと台所の方へ向かう。
するとリューナは桶の前で紙を取り出した。そうして紙を桶にむけると、桶の上空に水の玉が出現する。そしてパシャッと音を立ててそのまま水は桶の中に納まっていった。
その光景にトールはあっけに取られていた。
「女性が顔を洗うところを覗き見るなんて、いい趣味じゃないですね」
顔を洗い終わったリューナにそう言われ、バツが悪そうにトールは謝った。
「いや、すまない。リューナは水の調達をどうするのか興味があったもので…」
「そんなことですか。魔法陣を用意しておいて、それを使用しただけですよ」
リューナは、先ほど桶の前に出していた紙を見せる。その面にはうっすらと何かしら模様の跡が見える。
「ああ、そういうことか。昨日ナーリャが使った物の水版みたいなものか」
「…あれは多重魔法陣でしたけどね?」
リューナは昨日のことを思い出したのか、ちょっと落ち込んだ顔をする。
それを見たトールは、少し慌てて話しを変えるために質問をした。
「そ、そうか。それじゃあナーリャは何で魔道具を使ってたんだ?」
そう言った瞬間、トールは空気が凍ったかのような錯覚を覚えた。トールの横でリューナは馬鹿、とつぶやいている。
「えっとね、ほら、私水属性使えないから、それでおばあちゃんに作ってもらった魔道具を使用しているの」
ナーリャの答えにトールは、しまったと感じる。昨日話していたではないか。彼女たち二人は属性がかけていると。
「いや、その、なんだ。すまなかった」
「ううん、気にしないで。それにおばあちゃんの作った魔道具はすごいんだから」
そういって笑顔をトールに向ける。その笑顔がトールの心に綺麗に突き刺さる。
「(ああ、なんだか今日は今朝から地雷ばっか踏んでる気がする。久々に話せる様になって抜けてんのか?)」
そうやってトールまで落ち込んでいると、仕方が無いとばかりにリューナが話しを切り出した。
「それで今日はどうしましょうか?昨日の話しの続きでもしますか?」
リューナの提案を聞いたトールは、これ幸いとばかりに話しに乗っかる。
「そうだな。ただ昨日の続きといっても、現状これ以上話せることなんてほとんど無いんだよ」
「そうなの?私トールのこともっと知りたいんだけどなぁ」
聞く人によっては殺し文句なことを言うナーリャ。しかし今のトールは杖なのだ。勘違いしてはならない。
「トールさんのことは後回しにして、とりあえず、その、朝食にしませんか?」
リューナは恥ずかしそうにそう提案した。居候の身であるのに食事を要求しているようで恥ずかしいようだ。
「それもそうだね。朝食は一番大事だからね」
ナーリャはそう言って朝食の準備に取り掛かろうとする。
「私も手伝います」
リューナは手伝いを申し出たが、ナーリャによってとめられた。
「ううん、リューナちゃんは座っていて平気だよ」
「そうもいきません。さすがに何も手伝わないというのは、居候の身としては許容できません」
強情に手伝いを申し出るリューナと、大丈夫任せてとこちらも頑固に言い張るナーリャとで、ちょっとした押し問答が始まる。
結局は折れたナーリャが、それじゃあとリューナにお願いをした。
「朝食の準備をしている間、外の掃き掃除お願いしていい?毎朝掃除しているんだ」
「分かりました。箒はその立て掛けてあるものを使って良いですか?」
「うん、それでお願い。トールもよければ外の空気吸ってきたら?」
そのように提案されたトールは、それもそうだなと思いリューナに付いていく事を決める。
「杖なのに空気を吸えるんですか?」
箒をもって外に出ようとしているリューナに突っ込まれるが、気にしないでトールはその後をふよふよと浮いて追う。
後を追ってくるトールを見て、リューナはため息をつき、そしてトールのことを捕まえた。
「何をするんだ」
「何をするんだ、じゃありません。杖が浮いて外にでたら騒ぎになるでしょう?」
「ああ、それもそうか。じゃあリューナが運んでくれないか?」
トールの図々しいお願いに、リューナは仕方ないとトールを持って外にでる。
外は今日も良く晴れており、既に大分明るくなっていた。




