杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト55
トールとインテルムは、まずインテルムの岩石で出来たゴーレムが倒れている所まで行く。
そのゴーレムは、インテルムが魔力が切れているだけと言っていただけあり、細かな引っかき傷は見受けられるものの、外傷に目立ったものはない。
インテルムはまず、ゴーレムを起こすために近づき魔力を流し始める。
「このゴーレムは、自立行動を出来るように調整をしています。現在のゴーレムは、ほぼその生き物の思考を模倣するように設定されますが、私はその思考に不要な部分がないかと着目したのです」
インテルムはゴーレムのすぐ横で片膝をついて魔力を込めながら、トールに説明を始める。
その内容は、トールがゴーレムを制作する上で考えた内容と同じものもあった。すなわち思考をコピーする際、不要部削除というものである。
トールの場合は動作を行うのに対して無意識に行っている部分だけを残し、その他を直接指示できるように魔法陣を改良していた。そのため、トールは自分の体のようにゴーレムを操作することが出来た。
それに対して、インテルムは自我の部分に着目したようであった。
極力自身で行動の判断をしないようにし、命令にて行動を実行させる。そして命令をゴーレムが解釈する際に、命令者との認識を統一するために、自分の知識を複写させて認識の統一を図っている。
つまりは、インテルムが犬だと判断したものは、ゴーレムもまた犬と判断するようになっているのだ。そのため認識の祖語が生まれにくくなっているという。無論、倒せを命令すれば、インテルムが思い描く『倒す』という行動をとることになる。
「しかし、まぁ、これがなかなか不便なものでして。私以外の人間が命令を下す場合、やはり認識の祖語が出るのですよ。簡単に言ってしまえば、ゴーレムに命令を下す人間に合わせて、ゴーレム自体を調整せねばならないという事ですな。これが意外とコストが嵩んでしまうんですよ、はい」
インテルムはゴーレムに魔力を込め終えると、立ち上がって膝に付いた汚れを払う。
「さて、起動させましょうか。『起きろ』」
岩石ゴーレムは、インテルムの命令に従い倒れていた身を起こし、そのまま立ち上がる。
「それじゃあ行きましょうか。『ついて来い』」
インテルムはゴーレムについてくるよう命令を下し、そのままトールのゴーレムがある場所まで進んでいく。トールもそれに追従して後を追った。
「命令型か。そうすると、一つの動作に対して命令し続けなきゃならないのか?」
「いえ、単純にそういうものでもないのですよ、はい。例えば今回の場合は、トール殿のゴーレムをどこどこに運べ、と命令すれば、その通りの動作を行います。他にも先ほどの戦闘時のように、戦えと命じればその命令を継続して実行します。ですが、命令が不明瞭、このゴーレムの場合は私が認識できない命令などは実行しないのです。例えばただ運べと命令されても、どこに運べばいいかわからないため、動作を実行しません」
ああ、なるほどなとトールは思う。このゴーレムは音声認識式で、かつかなりアバウトな命令にも対応できるのだと。
しかし矛盾点が存在したり、明確な目的がない命令は実行できないのだ。このあたりはゴーレムの動作プロトコルの元になった、人間の思考も影響を及ぼしているかもしれない。
「そうすると返答機能がほしいな。なにが分からず命令を実行しないのかを、使い手に反映させないと結構面倒そうだ」
「そう、そうなのです! それは私も感じておりました。ですがまだ発声機能であったり、文字を投影であったりといった機構がうまく動作出来ないのです。まだ改良余地はおおいですねぇ」
トールとインテルムは、ゴーレム談義に花を咲かせながら、トールのゴーレムがある場所までたどり着く。
トールのゴーレムは、片膝と付いた状態で、片腕が完全になくなっており、ほぼ流れ出してしまったのか、オイルが数滴垂れている状態であった。
「ほう、これは…… 油でしょうか? 何故に油を使用しているのですか?」
「これは油圧機構と言って、補助動力に使用しているんだ。簡単に言ってしまえば、小さな力を大きくする装置ってところだな」
「ほう、ほうほうほう! それは素晴らしい! ゴーレムには最適ではないですか!」
インテルムはトールのゴーレムにかじりつき、その中身をつぶさに観察し始める。
中身は骨格のみですねぇ、とかこの筒状の物が油圧機構というものでしょうか、などとつぶやいている。
「後で資料はあげるから、とりあえず今は手伝ってもらえるか?」
トールはいきなりかじり付きだしたインテルムに、呆れながらも突っ込みを入れる。
「おっと、そうでした。すみません、ついつい」
インテルムはトールのゴーレムから離れると、笑って頭を掻く。
「では運んでしまいましょう、とその前に」
インテルムは視線を別の方へと向かる。そちらには、トールが倒したあの獅子型ゴーレムの残骸が落ちている。
「トール殿はこれが気になりませんか?」
「いや、確かに気にはなるが……」
「でしょう! いやはや、後で運び出されるのでしょうが、そうすると我々が目にすることは無くなってしまうでしょう? その前に……」
「少し調べたいという事か」
「その通り!」
トールは物凄く楽しそうにしているインテルムを見る。
確かに彼が言う通り、この機会を逃せばおそらく学院の研究機関に引き渡され、トールが見ることは出来なくなるだろう。
「そうだな。じゃあちょっと調べてみるか」
トールとインテルムは、パイルバンカーによって破壊された獅子型ゴーレムに向かった。
それは頭はパイルバンカーで打ち抜かれており、また胴が大きくえぐられた状態である。そのほかの箇所は、トールのメイスなどで殴られた痕が残ってはいるが、大きなものではない。
「ふむ、魔石はやはり頭に、と。それとこの胴体部の損傷は凄まじいものがありますねぇ。これもトールさんが?」
「いや、俺じゃないな。たぶんカルンだと思うんだが」
トールは獅子型ゴーレムの近くに落ちているメイスを見つけ、≪守護者の巨人≫を使って持ち上げる。
それは柄の部分から曲がっており、先端の鉄の塊は一部溶けたような跡が残っている。
「これで抉り取ったとしたら、どんだけの威力があるんだよ」
トールはもう一度獅子型ゴーレム胴体の抉り痕とメイスを見比べる。大体大きさは一致しており、トールの推察は大きく外れていなさそうだと物語っている。
「まあ、それは後で本人に確認いたしましょう。それよりも……」
インテルムは、撃ち貫かれた獅子型ゴーレムの頭を引っ張りだす。インテルムには重すぎて、持つことが出来なかった様である。
「こちらなんですが、この穴の中に魔石らしきものがまだ少し残っていますね。しかしこれは見た事が無い」
「? どういうことだ?」
トールもインテルムに続いて、獅子型ゴーレムの頭に作られた穴を見る。
その中は中空とはなっておらず、そのまま金属の塊で作られたことが分かる。そして頭の中心部付近には、金属とはまた違ったものがあるのが見て取れた。
それは紅い宝石のようなものであり、細かく砕けている。
「これがおそらく魔石、魔力貯蔵庫のはずなのですが、得てして私はこのようなものは見た事が無い。トール殿は解ります?」
「俺も見たことがないな」
トールは≪知識の泉≫の機能を、その紅い魔石に対して作動させる。
…画像取得:魔力生成機関と判断。人間の魔力生成器官を加工し、魔素を取り込み魔力を生成する機関としたもの。制作方法は機密事項に当たるため省略
その答えを聞いた瞬間、トールは流れてもいない血の気が引いたのを感じる。
人間の魔力生成器官。要は臓器だ。それを加工し、使用しているというのだ。
「どうかなさいましたか、トール殿?」
「あ、いや。すまない、何でもない」
トールは咄嗟に誤魔化す。
先ほどアトラに聞かれた箱は、転移の魔法陣が刻まれており、自衛のために回答を誤魔化した。だがこれに関しては、驚きのあまり咄嗟に誤魔化しを口にしていた。
「ふむ、そうですか。では少量試料を取っていきますかな」
「……いや、やめておいた方がいい。できればこの場で破棄したいくらいだ」
「ほう……そうですか。ではやめておきましょう」
インテルムはトールの発言で、あっさりとサンプル採取をやめる。
それに驚いた様子、は外からは見えないがトールが感じていると、いつもの胡散臭い笑顔でインテルムは穴を覗くのをやめる。
「何やら事情が御有りの様子。気にはなりますが、まあいずれ教えて頂ければと思います。ですが、さすがにここで廃棄はよした方がいいでしょうね。証拠の隠滅したとして、国から疑われるのもまずいでしょう?」
「……それもそうか。まあすぐにわかる物ではない、と信じたいな」
トールも獅子型ゴーレムの頭に空いた穴から離れ、自分のゴーレムへと戻っていった。
12/12 追記
ご覧くださり有難う御座います。更新が滞ってしまい申し訳ございません。
現在多忙につき、執筆の時間が取れない状況となってしまっています。
おそらく今週いっぱい続くと思われますので、更新は来週以降となってしまうかと思います。
出来る限り早く次話を更新してまいりますので、今しばらくの猶予を頂ければと。よろしくお願いします。




