杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト54
医者が別の患者を見に行ったあと、トール達はそれぞれ活動し始める。
カルンはイオンが休むための部屋を確保すべく、職員たちに対して片っ端から声をかける。その甲斐もあってか、すぐに休む手筈が整いイオンを背負い建物内の一室へと連れて行った。
クリシュはアトラの元へと戻り、現場の指揮を補助している。普段の様子とは異なり、凛々しい表情でアトラが対応しきれない細々とした案件に指示を出している。
そしてトール達はというと、あの後王子ディベルシオンから直々に呼び出しを受けていた。
「やあ。アトランクスとローザディエに本来は話を通すべきなんだろうけどね。英雄たちに一度会っておきたいと思って、来てもらったんだよ」
それはいつぞやの夜会にて、クリシュに話しかけた時のような、軟派な態度であった。
呼び出されたナーリャとリューナといえば、いきなり王族に呼び出されてかなり緊張していた。ナーリャはピンと背筋を伸ばして、なんだか上の方を向いているし、リューナは姿勢は普段通りに見えるが、視線が忙しなく動いている。
「キョ、キョウシュクデス、オウジデンカ」
緊張のし過ぎからか、棒読みに変な力が入ったような話し方をするナーリャ。
その様子を見たディベルシオンは、軽く笑いながら、そんなに緊張しなくてもいいと言う。
「いやはや、まさか王子殿下にお声をかけて頂けるとは。私、大変嬉しく思いますです、はい」
そしてもう一人呼ばれていた男がいた。それはコンテストの発表前にトール達に話しかけてきた魔導技師の男、インテルムであった。
「貴君もまた優秀なゴーレムにて、あの犬もどきを退治したからな。実に見事であった」
インテルムの作った岩でできたゴーレムは、トール達と別れた後は一心不乱に犬型に対して殴り続けていた。それは犬型に対しては致命傷を与えることは少なかったのだが、大いに囮としての効果を発揮していた。
何しろ常人のよりかなりの大きさをもって暴れるゴーレムである。これは犬型ゴーレム達にとっても脅威と捉えられ、多くの犬型と集めることとなっていた。そうして時間が稼ぎ、解決に貢献したという訳である。
なお、現状は魔力切れにてぶっ倒れている状態である。
「いえいえ。私ごときのゴーレムより、彼のゴーレムの方が働いておりましたので。あの機動性、耐久性、持続性。どれをとっても小生の物とは比べるべくもない事で御座いますです」
インテルムは胸元で指をうねうねと動かしながら、トールのゴーレムについての評価を口にする。その視線は王子の方でなく、未だ放置されているトールのゴーレムに向けていた。
その言を聞いたディベルシオンは、ふむと一言呟く。
「そうか。ではまずは先に彼女らの方と行こうか。確かナーリャ女史にリューナ女史だったかな?」
「ハ、ハイ!」
「はい」
ディベルシオンはナーリャ、リューナ、そしてトールの方へと顔を向ける。
「君たちのゴーレムはこの奇襲において、敵ゴーレムの排除に大いに貢献してくれた。したがって何か褒賞を送ろうと思う。何か望みはあるかな?」
ナーリャとリューナは少し困った顔をして、互いに目を合わせる。
ナーリャは少し考えた素振りをした後、もう一度リューナの方を見る。対して彼女は、何かを悟ったのか頷き返した。
「王子殿下、私達は特に望むものはありません。しいて言えば、これまで通り、私とリューナちゃ、リューナとトールの3人でダナンの街で研究をしながら暮らすことです」
ナーリャはそう素直な意見を述べることにした。お金はほしいが、今回の依頼でそれなりに入ってくるだろう。そして今一番気になっているのは、トールのことであった。
トールは今回の騒動に対して、彼の作ったゴーレムがそれなりの戦果を挙げ、かつ本体である杖の状態でも活躍をしている。そのため、王族なんかに目を付けられるのではないかと心配していたのだ。
「これまで通り、か。ふむ。君たちは欲がないな。よし、分かった。君たち『3人』がこれまで通り生活できることを、私ディベルシオンが保証しよう」
その言葉を聞き、ナーリャとリューナは少し笑顔となる。これで、他の貴族からトールをよこせと言われた場合、王子に保護されていると弁明できると思ったからである。
「しかしそれだけでは、私としても面子が立たないな。追加で200万オーロとしよう。これは後でアトランクスの屋敷に遅らせる」
200万オーロ。トールの脳内換算で言えば1000万円ほどの価値である。
その報酬に、ナーリャとリューナは驚きを表す。
「あ、あの。そんなに……」
ナーリャが思わず断りを入れようとするが、それをリューナに止められる。
「有難く頂戴いたします。王子殿下に置かれましては、格別の配慮、大変ありがたく存じます」
リューナはナーリャの言葉をさえぎった後、ディベルシオンに対して頭を下げる。それに続いて、ナーリャもまた慌てて下げた。
「うむ。君たちはまだ若いながらも、これほどの物を作り上げた。今後も大いに期待している。それと、だ。杖の君は、確かトールという名だったかな?」
ディベルシオンはナーリャ達に一通り話しかけた後、今度はトールの方へと視線を向ける。
対するトールは、ふよふよ浮かびながらもそれに対応する。
「その通りです、王子殿下」
「そうか。君は彼女達が作り出した魔道具なのかい?」
「いえ。私は他の者が作り出した、と認識しています。ただそのあたりの記録があいまいですので、詳細は不明です」
「なるほどな。古き民の物か、それとも神々の物か。まあどちらにしても、君の所有者である彼女らを、これからも助けていってほしい。なにしろ期待の若者だからな」
「もちろんです、王子殿下」
ディベルシオンは一通りトール達を話をした後、再度インテルムに対して話しかける。
インテルムは、褒賞に関して幾ばくかの研究費用を求め、それに応じたディベルシオンは300万オーロを褒賞とする。
「慌ただしい中、集めて悪かったな。こうでもしないと、直接会う事も難しかっただろうからな。さて、それではこれで仕舞いとする。後は各自休息をとってくれたまえ」
そうして王子ディベルシオンは去っていく。その間、集まった3人と1本は、頭を下げ続けた。
「ふぃ~。緊張したぁー」
ディベルシオンが騎士たちに連れられて建物内に入っていくのを見届けると、ナーリャはそのまま地面へと突っ伏した。
リューナもまた、緊張から解放されてそのまま地面へと座り込んでいた。
「ええ、さすがに王子殿下からの呼び出しとは、緊張しました」
それと比較して、トールとインテルムはそれほどまで緊張していなかったのか、普段通りの態度である。
「ああ、そうか。王子だもんな。普通緊張するか」
トールは若いながらも、それなりに風格を見せていたディベルシオンを思い出す。
ただ、トール個人としては特にこの王国に所属しているといった認識がないため、そこまで緊張しなかったのである。もし仮に、これが生前勤めていた会社の社長とか会長に、いきなり個別で呼び出しくらったともなれば、それはもう緊張したであろう。
そう考え、二人が緊張しまくったというもの無理のない事だな、と思っていた。
「まあ、一国の王子ですからねぇ。さすがの私も緊張しましたよ、はい」
一方のインテルムであるが、口には緊張したと言っているが態度には一切現れていない。この様子からも、魔導技術関連以外には、かなり無頓着な性格なんだろうなとトールは推測していた。
「さて、それじゃあどうするか。イオンの見舞いに行くか、それとも……」
「そうですね。まずはトールさんのゴーレムと、持ち込んだ色々な道具を回収しましょう。放置したままというのもまずいですし」
「そうだね。後は屋敷に置いてきた薬類があれば、少しは怪我した人の助けになるかもしれないから、それを持ってこようかと思うんだけど、どうかな?」
「ナーリャは相変わらずか。ただ現場を混乱させるといけないから、アトラ様とクリシュ様に相談だな。じゃあ俺はゴーレムと道具の回収をしてしまうから、ナーリャとリューナはアトラ様のところへ行って、確認してきてくれ」
「うん、分かった」
「ええ、分かりました」
そういって二人は早速とばかりにアトラの方へと向かっていく。
残ったトールは、自分のゴーレムを回収しに行こうと、そのまま浮かんでいく。すると、その後ろについてくる者がいた。インテルムである。
「……えっと、インテルムさん、だったかな?」
「インテルムで結構ですよ、トール殿。なに、あのゴーレムを間近で見られるのですから、お供しようかと思いまして。それに、あれを運ぶのは大変でしょう。私のゴーレムを使えば、かなり楽できると思いますよ」
インテルムは指で自分のゴーレムを指してトールに提案する。そのゴーレムは、魔力切れのため突っ伏して入るが、言い換えれば魔力さえ補充できれば動くという事だ。
トールはその提案に対して、それもそうかと考え乗ることにする。まあ、インテルムはトールのゴーレムの内部を見る機会を逃さないようにしているだけだろうなとは思いながらであるが。
「じゃあ、お願いします。インテルム」
「お任せください。では一度私のゴーレムまで寄って、それから貴方様のゴーレムまで行きましょうか」




