杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト53
≪知識の泉≫による解析結果を聞いて、トールは内心うげっと唸る。
転移の魔法陣。転移というからには、現状認識されていない魔力属性である時空と関連があると思われる。言い換えれば、認識されている4代属性では説明が付かない。
するとその他の属性についても説明せねばならず、その知識を持っていたトールについても聞かれるであろう。そしてトールの価値が上がれば、貴族様特権で召し上げられかねないと考えたのである。今更ではあるが。
「どうかしたかい?」
「あ、いえ。見たこともない魔法陣ですね」
トールはとりあえずしらばっくれることにした。幸いトールは杖であるからして、その表情を読み取られるといった事はない。
「そうか。では後で魔導技師たちに見せて……」
そうアトラが口にした時、唐突に箱が赤く光りだした。
「! 離して!」
トールはとっさに≪守護者の巨人≫で光る腕を作り出し、アトラから箱を奪い去る。
トールの光る手に収まった箱は、その発している光を徐々に強くする。それを見たトールは、咄嗟に≪守護者の巨人≫による光る膜で箱を覆った。
「くのぉ!」
光を強くしていた箱は光る膜で覆った瞬間、膨張しそして爆発を起こした。その衝撃はトールの≪守護者の巨人≫によってすべて防がれる。
しかし、爆発はトールが持っていた箱だけではなかった。学院内の茂み、柱の陰、地中とあらゆる場所でそれは同時に起こったのだ。
「何事だ!」
随所で起こった爆発を見たアトラは、状況を確認しようと叫ぶ。しかしその状況を把握できているものは皆無でる。多くの人々は逃げまどい、騎士たちも突然の爆発で統制が取れたものとは程遠い。
「どうやらさっきの箱は、複数あったみたいですね」
トールはそうアトラへと伝える。
先ほど≪知識の泉≫で得た転移の魔法陣を持つ箱の機能と、犬型ゴーレムが各所から飛び出してきたことを考えると、同様の物が複数配置されていたと踏んだのだ。おそらく犬型や獅子型のゴーレムはこの箱によって転移されたものだろうと。
そのトールの言葉に、アトラは顎に手を当て考え事を始める。
周囲には怒号が飛んでおり、騒然としたものである。それを見、一度首を振るとアトラは先ほど箱を持ってきた騎士に問いただした。
「先ほど連れてきた男はどこだ?」
「ハッ、こちらに」
騎士は猿ぐつわを咬まされ、そして先ほどの爆発でおびえるように体を縮こませている男を起き上がらせると、アトラの前へと跪かせた。
アトラが目線で猿ぐつわを外すように騎士に指示し、それに則り騎士は男に噛ませていた猿ぐつわを取り除いた。
「お、俺はなにもしらない! ほん、本当です!」
猿ぐつわは外された男は、多少噛みながらも弁明を始める。無論、それを聞いているものは誰一人としていないが。
「あれは、なんだ? いくつ仕掛けた?」
アトラは男の前に立つと、抑揚のない声で問いただす。
問われた男は、一瞬黙るがすぐに先ほどと同じような弁明を始めた。
「し、知らないんです。俺はあの一個だけで、酒場で男が、仕掛けてって。金やるって。困ってて、だから俺は、知らないんです!」
前後のつながりのない言葉で、必死に訴えるように男は話す。その表情は青ざめており、顔は涙と鼻水で溢れかえっている。
その様子を見たアトラは、男に聞くのをやめ捕まえてきた騎士に声をかける。
「こいつをなぜ捕まえたのだ?」
「ハッ! あの木の犬たちを排除した後、何かを抱えてうろついていたため不審に思い、問いただした所逃げようとしたため捕縛いたしました」
「お、俺は本当に何も知らなかったん……がっ!!」
騎士が説明している時に、男がすがるようにアトラへと這いずろうとする。
それに気が付いた騎士はその横腹へと蹴りを入れ、アトラへ近づくのを防いだ。
「がふ、げっ! ガホ、ごほ!」
男は縛られた両手で蹴られた腹を抑えながらのたうち、転がる。それを騎士が腰に下げていた剣を抜き放ち、切りつけようとする。
「待て! まだ聞きたいことがある」
アトラに静止された騎士は、振り上げた剣をその頭上で止める。
男はむせながらもその剣から守るようにうずくまっていた。
「埒が明かないな。連れていけ。逃げられぬようにな」
アトラはこの状況で聞けることは無いと判断し、男を連行するよう命令を下す。
その命令を受けた騎士はアトラとディベルシオンに対し敬礼をすると、強引に男を立たせ学院の建物の中へと連行していった。
「まったく、これではな。アトランクス、指揮を」
「承知致しました、殿下」
今までアトラの後ろで黙っていたディベルシオンであったが、混乱を落ち着かせるべくアトラへと命令し、それをアトラは受諾する。
命令を受けたアトラは、近くにいた騎士2名に王子の護衛を命ずると、そのまま歩き出した。
「落ち着け! 騎士隊はこれよりダナン侯爵家当主代理のアトランクスの指揮下に入れ! これは殿下の命によるものだ!」
アトラは混乱していた騎士たちを取り纏め、次々と指示を出していく。徐々に指揮系統が回復していった騎士たちは、最後の爆発による被害状況の確認、爆発のあった場所の確保と行動をしていった。
「こりゃあ、一旦ナーリャ達と合流するか」
アトラ行動を見守っていたトールは、その意味もなくなったと思いナーリャ達に合流すべく移動する。
幸い爆発のあった箇所はナーリャ達が集まっていた所とは離れていたため、彼女らに被害は出ていなかった様であった。ナーリャとリューナ、それとクリシュは横になっているイオンの傍で座りながらあたりを見回し、カルンは立ち上がって周囲の警戒を行っていた。
「みんなは大丈夫そうだな」
ナーリャ達の安全を確認できたトールは、ホッと一息吐く。
「トール? 何が起こったの?」
自分らに近づいてきたトールを見つけたナーリャは、トールの方を見ると聞いてきた。
トールはナーリャ達が座っている近くまで来ると、皆の顔の近くまで浮かんでいる高さを下げた。
「なんか怪しげな箱を持っていた奴がいてな。それが爆発した。おそらくそれ一個だけじゃなくて、色んな所に設置されていて、それが爆発したと思う」
トールは簡単に知っている状況を説明する。
新たな敵が出てきたわけではないと知り、一同は一時安心の表情をするが、それでも爆発が起こったという事にすぐさま不安な様子を見せる。
「箱、ですか? 犯人は同じでしょうかね」
「おそらくな。……それと後で二人に話がある」
トールは最後の方は小声でナーリャとリューナに伝える。
二人は互いに目を合わせて、その後トールに頷いて返した。
そうしてトール達が話をしている間に、ようやく外から騎士や憲兵、そして兵とみられる者たちがこの場に続々と現れ始める。
彼らはまずは各貴族たちを護衛し、外に連れ出したり学院の一室へと案内をし始める。無論トール達と共にいたクリシュにもやってくるが、クリシュはそれを断り、トール達と共にいると言い放った。
「彼女達は私の護衛です。それにまだすべきことがありますから」
「承知致しました。何か御座いましたら、すぐさま近くにいる者へお声をかけて頂きますよう、お願いいたします」
やって来た騎士とみられる男は、そう言って敬礼をしたのちすぐさま別の貴族の元へと駆けていった。
後からやって来た者たちは、貴族たちへの対応が終わると次はけが人の搬出や一般人、平民達への対処に当たっていった。
「……やっぱり貴族は優先か」
「仕方ないでしょう。敢えてそうしなければ、貴族としての威厳を見せつけられない、という事でしょうね」
トールのつぶやきに対して、リューナがそう漏らす。その表情は無表情であり、何を思っての発言かはトールから見て取れなかった。
「こちらに意識がない方がいらっしゃると聞いてきたのですが」
そうしていると今度は真っ白なローブを纏ったものが、トール達の元へとやってくる。その肩には赤の二重線のマークが縫い付けられている。
「医者の方ですね。この子です」
リューナは立ち上がり、その医者をイオンの元へと連れていく。あたりを警戒していたカルンもまた、イオンのすぐそばにやってくる。
医者はイオンが横になっている直ぐ傍で膝をつくと、手首をもって脈を図り、何やら呪文を唱え始める。
「vawJ eItc SmcC gnGnn wmxCeJ HOj xYv yAr」
医者が呪文を唱え終えると、イオンの体から光が一瞬だけ発し、すぐに収まる。
「ふむ、体内に異常は見受けられませんね。怪我もそこまでひどい物ではないようですし、意識もすぐに戻ると思います。念のため、ここの一室を借りて、そこで休ませましょう」
その医者の言葉に、心配そうに見ていたカルンは安堵した笑顔を見せる。
「そうっすか! 有難うっす、お医者さん!」
カルンは直ぐに医者の手を取り、ぶんぶんと振り回す。それをされた医者は、呆気にとられた顔付きをしたが、すぐに笑顔になって応える。
「なに、私は診断しただけです。後はできるだけ安静にさせてあげて下さい。それでは」
医者はカルンの握手から解放されると、すぐさま別のけが人の方へと行く。
それにカルンは頭を下げてもう一度感謝の言葉を述べていた。
相変わらず更新不定期で申し訳ございません。
まだしばらくの間、更新は不定期になるかと思います。




