杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト51
飛んでいった杭は、空中で回転しそのまま落下してくる。その先端はひしゃけ、つぶれている。
くるくると回転しながら落下してきた杭は、地面へガランと音を鳴らして落ちた。
トールの乗り込むゴーレムは先ほど杭を放った時点から停止し、動きを見せない。そして頭を撃ちぬかれた獅子型ゴーレムは、その腕をゆっくりと持ち上げた。
「! まだ動いてる!」
「トールさん、避けてください!」
ナーリャとリューナの叫び声が聞こえる中、トールのゴーレムは節々からオイルが流れ落ち、微動だにしない。
そして腕を持ち上げた獅子型ゴーレムは、一度体を震わせた後に、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。
「くそ犬野郎が、ようやく止まりやがった。いや、ライオンっぽいから、猫なのか?」
そんなのんきな声を出しながら、ゴーレムの背が開く。そしてそこに収まっていたトールの本体、杖が姿を現した。
「トール!」
「トールさん!」
外へと出てきたトールに、ナーリャとリューナの二人は駆け寄っていく。
トールもゴーレムの外に出た位置で、そのまま浮かんで待っていた。
「二人とも無事か?」
「うん、わたし達は大丈夫」
「! そうです、カルンさんとイオンさんの二人が! ナーリャさんはイオンさんを、私はカルンさんを見てきます!」
「分かった!」
二人はトールを確認すると、すぐさまカルンとイオンへと向かっていった。
カルンは上体を何とか起こそうとしていたため、無事であることが見て取れていたが、イオンはあの獅子型ゴーレムに吹き飛ばされてからは動いていない。
トールは遠目で二人の様子を確認し、イオンの方がまずそうだと思いイオンの方へと向かった。
「イオンちゃん、大丈夫!?」
ナーリャはイオンの元へとたどり着くと、うつ伏せになっていたイオンの状態を抱え起こす。
イオンは意識を完全に失っていたが、息はあった。
「ナーリャ、あまり動かさない方がいい。が、この場だとそうもいっていられないな。とりあえず騎士たちが守っている場所まで運んでいこう」
「うん、分かった」
トールはまだ犬型ゴーレム達が暴れているこの場より、騎士たちが守りを固めている場所へと運んだ方がよいと考え、それをナーリャに伝える。ナーリャもそれに同意し、運ぶ準備を始めた。
トールが≪守護者の巨人≫で光る担架を作り出し、ナーリャと二人でイオンをその上へと運ぶ。そしてそのまま光る担架を連れて、騎士たちが守っているエリアへと進んでいった。
「君たちか。色々と感謝を述べたいが、今は彼女の容態が先だな。できるだけ中心に位置取ってくれ」
貴族たちを守るために防護陣を引いていた騎士の一人が、運ばれてきたイオンを見てナーリャ達に中心へと行くように提案して道を譲る。それに従って、トールとナーリャはイオンを陣の中心へと運んでいった。
そこにはすでに逃げてきた人々がおり、傷の手当が行われていた。上体を起こした状態で包帯を巻いている者や、すでに治療を終えて横になっている者もいる。そして、治療をされた様子が無く横たわっている者も。
「ナーリャ、イオンの様子はどうだ?」
「分からない。全身を強く打っているみたいだけど……とりあえずは外の傷を治さないと」
ナーリャはいつも使用している傷薬であるペリエ薬を取り出す。普段から持ち歩いてはいるが、今回は空間拡張のバッグを持ってきていないため、数はそう多くはなかった。
「ナーリャさん、すみませんが手伝ってください」
ペリエ薬を取り出し、イオンへ塗ろうとしていると、カルンを運んできたリューナから声がかけられる。
カルンはイオンと違い、意識ははっきりとしており、リューナに肩を借りて歩いてきていた。
「イオン、イオンは大丈夫っすか!?」
カルンは横になっているイオンをみて、そちらへと駆けだそうとして膝をつく。リューナは直ぐにカルンを助け起こして、イオンの傍まで肩を貸して、隣に座らせた。
「ごめんなさい、詳細は分からないの。一応応急手当を兼ねて、薬を塗ろうとしているんだけど……」
ペリエ薬は外傷に対してはかなりの効果が見込める。しかし内側に関しては医療の知識がかなり必要になってくるため、ナーリャを含め、ここにいる者には判断が付かなかった。
「医者に見せる必要がありますね。ただ、この状況をどうにかしないといけませんが」
獅子型ゴーレムを倒し、状況は改善されてきている。しかしまだ多くの犬型ゴーレムが存在し、それを騎士が討伐している最中である。
「じゃあ、あたいがいくっす。あんなのすぐにやっつけるっすよ」
カルンはもう一度立ち上がろうとして、そのままふらついて片膝をつく。
「その様子じゃ無理ですよ。トールさん、お願いできますか? あ、魔力の補充を……」
リューナはカルンの傍で薬を取り出しながら、トールへとお願いを口にする。トールはゴーレムが動かなくなったとはいえ、まだ≪守護者の巨人≫の能力を使えば戦える。
「魔力は大丈夫だ。ちょっと行ってくる」
トールは軽い感じでリューナの要請に応じると、杖の体を浮かせて騎士の囲いから出ていった。
「リューナちゃん、トールは大丈夫かな?」
ナーリャはイオンの治療をしながら、リューナに問う。先ほどまで戦っていたトールであったが、それはゴーレムがあってのことであると彼女は考えていた。
仮に≪守護者の巨人≫があったとしても、魔力の消費は少ないがトール自体の魔力保有量は小さいため、そんなに長く戦えないという事はナーリャとリューナの見解でもあった。
そのため、先ほどトールに対して魔力の補給を申し出ていたのだが、トールは颯爽と向かっていってしまっていた。
「トールさんを信じましょう。それよりも、まずはイオンさんです。彼女の容態はどうですか?」
「意識がないの。呼吸は安定しているから、すぐにどうという事はないと思うけど、やっぱりちゃんとしたお医者さんに見せないと」
ナーリャは用意していたペリエ薬の瓶のふたを外すと、それを怪我している箇所へと塗っていく。その効果は直ぐに発揮され、傷口をどんどんと塞いでいった。
しかし一通り見た限りでは怪我は見えなくなったが、それでもイオンは目を覚まそうとはしなかった。
「とりあえずは、これでいいと思うんだけど」
「ええ、こちらも済みました」
リューナもカルンに対して、ペリエ薬による治療を終える。だがカルンもまた外傷はなくなったように見えるが、内部にたまったダメージで、体を思うように動かせないようであった。
「……ナーリャさん、ペリエ薬の残りは?」
「一瓶とちょっと。リューナちゃんは?」
「私の方は瓶の半分程度ですね。他の方々の治療も考えなければなりませんが、ちょっといいですか?」
リューナは自分の持っているペリエ薬が入っている瓶を見つめながら、ナーリャへと提案する。
「効果があるかどうかわかりませんが、これを水で薄めて飲ませてはいかがでしょう。材料にも毒性の物はありませんし、多少効果があるかもしれません」
「ペリエ薬を? わたしは試したことないんだけど……」
「しかし今できることと言えば、このぐらいしか思いつかなくて……」
ペリエ薬は白色でゲル状のものであり、塗り薬だ。通常塗り薬と服薬するというのは、かなり危険な行為である。
しかし直接患部に塗ることのできる傷であれば、それで治療は可能であったが、内臓へのダメージともなるともちろん話は変わってくる。
簡単に言ってしまえば、直接塗ることが出来ないため、効果を得られないという事である。
だが、仮にこれを直接飲むことで、多少なりとも効果が得られるのではないかと、リューナは考えたのであった。
「なら、最初にあたいが飲むっすよ」
と、そこで声を上げたのはカルンであった。カルンは治療される傍らで二人の会話を聞いていたため、二人の懸念していることを理解していた。
「試してみないと解らないというんであれば、あたいが試すっす」
「でも……」
「イオンがそれで助かるかもしれないなら、お安い御用っすよ。お願いするっす」
カルンは座ったまま、二人へと頭を下げる。
数秒悩んだ二人であったが、頷きあうとカルンへ確認する。
「カルンちゃん。はっきり言ってどうなるかは解らないよ。いきなり倒れるという事はないと思うけど、それでもいいの?」
「もちろんっす。大丈夫っすよ、きっと」
「分かりました。少々お待ちを」
ナーリャとリューナは、余ったペリエ薬を取り出すと、それを少量空瓶へと移す。そしてナーリャがその中に、魔道具の水筒で作り出した水を注いでいった。
ペリエ薬は完全に水には溶け切らずに、一部塊となって水中に残っていた。
「……とりあえずはこれで飲みやすくなったと思うけど、本当にいいの? カルンちゃん」
「もちろんっす。じゃあ飲むっすよ」
カルンはナーリャから瓶を受け取ると、一気にその中身を飲み干す。
その味はかなりキツイものがあったらしく、飲み干したカルンは思いっきりむせていた。
「ゲホッ、ゲホッ。う~、まずいっす」
「大丈夫ですか? なにか体に異常は?」
カルンは少し悩んだ素振りを見せ、腕を動かしたりして確認をしている。
そして特に異常がない事を確認すると、ナーリャとリューナにそれを告げた。
「大丈夫そうっす。特に変な事はないっすね」
「そうですか。カルンさん、怪我の痛みはどうです?」
「う~ん。まだ痛いっすけど、徐々にそれも抜けてきている気はするっすね」
個人の意見だが、その効果を確認できたナーリャとリューナは、イオンへ飲ませるべく空瓶にペリエ薬を入れ、それを水で溶かす。
気持ち先ほどより多くペリエ薬を入れたそれをもって、イオンのすぐそばへと向かう。
横になっていたイオンはまだ意識が戻っておらず、呼吸だけが彼女が生きていると告げていた。
「それじゃあ、飲ませるよ」
「はい、と言いたいのですけれど、どうやってですか?」
意識を失っているイオンに、どうやって飲ませるかをまったく考えていなかった二人は、そこでつまずいた。
とりあえずとばかりに、ナーリャは少量をイオンの口に含ませてみる。すると、イオンはそれを無意識ながら飲み込んだ。
「飲んでくれたよ!」
「そうですか。どの程度効果があるかは解りませんが、とりあえず安静にしておきましょう。後は……」
リューナは安堵のため息をついた後、トールが向かっていった陣の外へと視線を向けた。そして丁度その時、無数の光る手が目に飛び込んできた。
長らく更新できずに申し訳ございませんでした。
まだ更新が不定期になってしまうと思いますが、何卒宜しくお願い致します。




