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杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト50

 

 全身を覆う痛みからそして暗闇からトールが解放されたのは音声が途絶えてすぐのことだった。

 トールは朦朧とする意識の中、無意識にゴーレムへとアクセスして視界を確保する。そして彼が目にしたのは、カルンが獅子型ゴーレムに吹き飛ばされる瞬間であった。


「ぐっ!」


 獅子型ゴーレムの攻撃を避けきれずに、その腕をメイスで受け止めようとしたが、重量差によって吹き飛ばされたのである。

 そして獅子型ゴーレムは、吹き飛ばしたカルンには目をくれずに、先ほどから遠くより攻撃を仕掛けてきていた人間、ナーリャ達にその矛先を変えた。


「二人とも下がって!!」


 イオンはナーリャとリューナの盾となるべく、その前に体を出して獅子型ゴーレムを迎え撃とうと呪文を唱え始める。しかしそれは到底間に合うものではなく、呪文を半ば唱えたところで獅子型ゴーレムはすぐそばまで来ており、その腕を振るってイオンを吹き飛ばす。


「ガッ!!」


 イオンは横へと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた後数度転がって停止する。遠目で見た限りでは、その安否は不明である。


「イオン!! このくそ犬っころが!!」


 その光景を目のあたりにし、逆上したカルンは物凄い勢いで獅子型ゴーレムに突進していく。そしてメイスを振り上げると、その頭へと振り下ろした。

 獅子型ゴーレムは浮いている頭に振り下ろされたメイスをまたしても変則的に避け、胴体に直撃させる。

 胴体へと当たったメイスは、今までは弾かれていたのだが、今度はその勢いを殺されることなく、鉄でできた胴をえぐり取りながら振り降ろされた。


「このぉぉぉ!!」


 メイスでさらに殴りつけようとしたカルンであったが、もう一度獅子型ゴーレムに命中すると、そのメイスは粉々に砕け散ってしまった。

 その隙を逃さず、獅子型ゴーレムはカルンへと体当たりを仕掛け、大きく吹き飛ばした。


「グ!」


 体当たりによって吹き飛ばされたカルンもまた、地面を転がっていく。それが止まった後、何とか体を起こそうとしていたが、上手くいかずにまた倒れこんでしまっていた。


「……!」


 獅子型ゴーレムは、その口を大きく開けると、音のない咆哮を上げる。

 目の前に残されているのはナーリャ、そしてリューナの二人だけとなった。


「リューナちゃん」


「はい、ナーリャさん」


 二人は声を掛け合うと、その眼差しを獅子型ゴーレムへと向ける。

 二人には前衛を張れるものは近くにおらず、また二人とも体術を得意をしてはいない。まともに遣り合ったら、数十秒と持たないだろう。

 しかしまだあきらめてはいない。まだ、何とかしてくれると思っていた。


「くらえぇ!」


 ナーリャは手に持っていた冷気の筒を獅子型ゴーレムに向かって投げる。

 しかしその脅威を何度も受けている獅子は、それを横っ跳びにして躱すと、ナーリャ目掛けて突進をしかける。


「させません!」


 それに向かって今度はリューナが冷気の筒を投げる。

 ナーリャに向かっていた獅子型ゴーレムは、その勢いを殺しきれずに回避できない。そしてそのまま冷気の筒をまともに直撃させた。


「良し、今のうちです!」


 リューナそうナーリャに声をかける。

 二人の目的は、直接の戦闘ではかなわないと把握していたため、いま魔力切れになっていると思われるトールへと駆け寄ることにあった。そのため冷気の筒で足止めをし、その隙をついて向かおうをしていた。


「……!」


 獅子型ゴーレムの顔に命中した冷気の筒は、その効果を発揮し氷で顔面を覆いつくしていた。しかしそれを意にも返さずにリューナに向かって腕を振るう。


「きゃ!」


 振るわれた爪はリューナの腕をかすめ、大きく着ていたローブを切り裂く。そしてその勢いに押され転倒してしまった。


「リューナちゃん!?」


 すぐにリューナの元に駆け寄るナーリャ。そして倒れこんだリューナを必死に起こそうとする。


「ナーリャさん、何をしているんですか!? 早く逃げてください!」


「駄目! リューナちゃんをほおっておけない!」


 リューナを助け起こすと、ナーリャは彼女に肩を貸して獅子型ゴーレムから離れようとする。

 しかし顔を覆ていた氷をはがすことに成功した獅子型ゴーレムは、ナーリャ達を確認するとゆっくりと歩いて向かってくる。


「私はいいですから、ナーリャさんはトールさんの元に!」


「ダメ、ダメダメダメ!!」


 肩から血を流しながら、リューナはナーリャに離すよう言う。しかしそれを拒否したナーリャは必至の形相をなりながら、何とか獅子型ゴーレムから離れようとする。

 だが、その努力もむなしく、獅子型ゴーレムはその後ろから這い寄ってきている。ゆっくりと、しかしその歩みはナーリャ達が逃げる速度よりかは断然はやく、すぐ後ろにまで迫ってくる。


「ナーリャさん! いいですから、逃げてください!」


「ヤダ! 絶対にヤダ!!」


 後ろの獅子型ゴーレムは、ナーリャ達を叩き潰すべくその腕を振り上げる。

 その動作を陰で把握したリューナは、ナーリャを突き飛ばした。


「リューナちゃん!?」


「ナーリャさんは、逃げてくださいね」


 獅子の腕はそのままリューナに向かって振り下ろされる。

 ナーリャはそれを、笑顔でこちらを見ているリューナを見ることしかできない。


「ダメェェェェ!!」


 押し出され、離れていくリューナに向かって叫びながら手を伸ばそうとするナーリャ。むろん、それは届く事が無く、空を掴むだけになる。

 獅子型ゴーレムの腕は、そのままリューナを叩き潰そうとしていた。


「オオォォォォォォオ!!」


 そこに、叫び声をあげながら割って入ってきた存在がいた。

 それはリューナに振り下ろされた腕をクロスさせた腕で防ぐと、力を込めてそれをはじく。

 腕を防がれた獅子型ゴーレムは、距離を取ろうと後ろへ飛びずさろうとするが、それを許さずに逃げる獅子型ゴーレムの腕を捕まえる。


「トール!」


「トールさん!」


 割って入った存在、トールは獅子型ゴーレムの腕を押さえつけながらも振り返る。


「遅くなって済まなかった。大丈夫か?」


 一旦腕を切り離して逃げようとする獅子型ゴーレム。それに対しトールは、≪守護者の巨人≫で作り出した深る腕を頭付近から発生させて頭を握り押さえつける。


「トールこそ大丈夫なの?」


「ああ、今は何とかな。それよりまずはこいつの対処だ。あの筒はまだあるか?」


「私の方はもうありません。ナーリャさんは?」


「わたしは一個だけ」


「よし、それで十分だ」


 ナーリャはトールに言われた通り、冷気の筒を取り出して渡すように投げる。

 それをトールは新たに作り出した光る腕で受け取ると、もう何本か光る腕を作り出した。


「二人は少し離れていてくれ」


 トールは≪守護者の巨人≫で作り出した光る腕で、獅子型ゴーレムを押さえつけながら押し出して、ナーリャ達から離そうとする。

 そしてナーリャも、リューナに肩を貸しながらその場を離れていく。


「さて、くそ犬っころさんよ。好き勝手やってくれやがったな、この野郎」


 トールは冷気の筒を自分のゴーレムの右手に持つと、押さえつけている獅子型ゴーレムの頭に押し付ける。


「さあ、お立合い。細工は流々仕上げを見ての御覧じろ、ってな!!」


 トールの手を獅子型ゴーレムの頭で押しつぶされた冷気の筒は、その効果を遺憾なく発揮する。トールの手と、獅子の頭をその氷で覆いつくし、二つを固定する。


「もういっちょおまけだ!」


 トールはさらに、≪守護者の巨人≫で作り出した光る膜で、トールのゴーレムの腕と、獅子型ゴーレムの頭を固定する。

 そして、それを起動させた。


「いけぇぇぇ!!」


 トールのゴーレムの右腕に内臓されているそれは、トールの意思に従って起動する。

 構造は単なる筒であり、その中に直径5cmほどの杭が仕込まれている。そしてその杭を打ち込むために、おなじみの爆薬であるプラーミァが設置されていた。

 トールがロマンと口にしていた武器、つまりはパイルバンカーである。


 プラーミァに魔力が送られ、筒の内部で爆発したそれは、威力が大きすぎたのか杭を発射すると同時にトールのゴーレムの腕も吹き飛ばしながらも、その機能を果たす。杭は文字通り爆発的な加速度を与えられ、杭の先端は獅子の頭に当たると、それを貫通しながら進んでいく。

 結局は完全に杭は獅子型ゴーレムの頭を貫通し、空高く飛んでいった。。



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