杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト49
「おい、ちょっと待て! 動けって!」
トールは慌てて倒れこんだゴーレムを起こそうとする。しかし当のゴーレムは全く反応を返さず、沈黙を保っている。
トールは各部をチェックしようと考え、とりあえずゴーレムの外へ出ようとする。しかしトール自身である杖もまた飛び上がることが出来なかった。
「嘘だろ、これって……」
トールが考えに行きついた先。それは魔力切れである。
ゴーレムの動力源は、頭部に収められた魔石に込められている魔力である。そしてトール自身もまたナーリャとリューナの魔力によって動いていた。
ゴーレムと杖本体が動かなくなるという事は、その源である魔力が切れたと考えるのが正しいと思ったのである。
「や、待てって……ぐあ!」
混乱していたトールは、少しでも動かそうと必死にゴーレムに命令を行っていたが、それらの間に獅子型ゴーレムがトールのゴーレムの事をその腕で殴り飛ばした。
放物線を描き吹き飛ばされたトールは、ナーリャとリューナのいる方向とは真逆に飛んでいき、二人と離される結果となった。
「くそっ! こいつわかってんじゃないだろうな!」
魔力を補充するには、ナーリャとリューナに込めてもらわなければならない。それを妨害するような獅子型ゴーレムの攻撃に、トールは愚痴をこぼしていた。
トールは動かなくなったゴーレムの中で、あたりの状況を確認する。なんとか微小な魔力が残っているのか、視界には不備がない。しかし四肢は一切動かないのだが。
飛ばされた後、トールの方へと駆け出そうとするナーリャを止めるリューナとイオン。そして一人獅子型ゴーレムと対峙し、その動きをけん制するカルンが見えた。
「ナーリャ、下がるっす! 危ないっすよ!」
「だって、だってトールが!」
「今は下がってください、ナーリャさん!」
「駄目です、ナーリャさん! トールさんは無事ですから!」
必死にトールへと駆け寄ろうとしているナーリャだが、それはリューナとイオンに防がれている。
その隙に獅子型ゴーレムはカルンを排除しようと、攻撃を繰り出してきている。腕を振り上げ爪で切り裂こうとし、牙をもってカルンの事をかみ砕こうとする。
一瞬ナーリャに気を取られていたカルンであったが、とっさに爪を躱し牙による噛みつきを側転して避ける。
「ちっ、うるさい犬っころっすね!!」
反撃とばかりに獅子型ゴーレムの腕を殴りつけるも、それは一旦吹き飛んだ後にすぐ元の位置に収まる。
続けて獅子型ゴーレムの頭を攻撃しようとしたカルンであったが、獅子型ゴーレムの体当たりをまともに受けてしまった。今まで爪と噛みつきを主に行ってきたのに対して、急に体当たりを仕掛けてきたゴーレムの動きについていけなかったのである。
「ガッ!!」
衝撃で呼気が吐き出され、吹き飛ばされたカルンであったが一度地面で跳ね返ると、その勢いを利用してそのまま立ち上がった。しかしその口からは血が流れており、体中にあざができている。
それらの光景を目のあたりにし、トールは一層焦燥感が湧いて来ていた。
「くそったれ! 動け!」
魔力がなくなり、動かなくなったゴーレムに命令を下し続ける。
だが、やはりゴーレムはその命令に答えずに、その体は地面に付したままである。
「くそ! せめてこの体さえ動けば!」
意識はある。視界も確保されている。しかし体は動かず、杖本体も浮かび上がることが出来ない。
その状態は、トールに怒りと焦燥感を湧かせるが、一向に改善策が思い浮かばない。
「魔力、魔力だ。だが、どうやって補充する? ナーリャとリューナに来てもらう? そんな危険な真似はできない。じゃあ自分で向かう? どうやって?」
思いを口に出しながら、トールはループする思考を纏めようとする。だがいくら考えても、解決策は思い浮かばない。
そうしている間にも、一人で前線に立っているカルンは、何とか獅子型ゴーレムの攻撃を回避し続けているが、その動きは徐々に悪くなっていく。
獅子型ゴーレムに攻撃には、生物特有の休息を挟むという事が無く、連続して行われている。そのため、それを回避し続けるカルンもまた連続して避け続けることを強いられているため、スタミナの消費が激しい。
せめてトールがいれば、片方が注意を引きつけることで休息も挟めるのだが。
(他の騎士たちも犬相手に戦っている状況だ。今獅子がフリーになれば、一気に均衡が崩れる。そうなれば、二人もまた無事では済まない)
トールはナーリャとリューナの安全を確保するにはどうしたらいいか、という発想となっている。
最初から二人だけの安全を考え、≪守護者の巨人≫を使った防御フィールドで逃げてしまえばよかったと後悔もしている。
しかしそれらは何の解決策を生まないことは、重々承知していた。
「思考から逃げるな。後悔は後でいい。今は二人を助けることを考えろ」
自分に言い聞かせるように言葉を発し、トールは再度考える。
しかし焦りから、思考のループから抜け出せず、事態は刻一刻と悪化していっている。
(何か、何か何か何か何か何か方法は……)
トールが目まぐるしく頭を回転させ、解決策を模索していると、頭の中で音声が流れる。
…システム外からのアクセスを確認
……排除開始………エラー
………通信開きます
何の事だかトールには把握できない。しかしトールが理解する前に、またもや頭の中に声が聞こえてくる。
『…やぁ、森宮く……ったかな。わた……は『主任』と呼ばれるも……だ。今強制的にアク……を試…ている』
その音声はとぎれとぎれであり、一部判別がつかない。
しかしトールは、何かしらの状況の変化を求め、それを聞くことに集中する。
『さてと、い……いぶ緊急…態のようだ……説明は……させてもら…。魔力が足りないのだろう?』
その言葉に、トールはすでにないはずの心臓が掴まれた思いをする。
「ああ、そうだ! 魔力が必要だ!」
トールは相手に聞こえるかわからないまま、その思いを叫ぶ。
『了解…た。必要……れば、私はそ……提供する……ができる。しかしこれは、君………しいを改変す……とになる。それでもよいの……れば、契約を……ぼうじゃないか』
相変わらず一部がノイズによって聞き取れない。しかしその声は嬉しそうに話し、またトールはそれが魔力を手に入れる方法であることを理解する。
「ああ、契約だってなんだっていい! 今すぐ魔力を補充してくれ!」
トールは、これが悪魔との契約のようだと思いながらも、この状況を変えうるのであればとすぐに了承する。
『ああ、分かった。これは本……の同意……ではできない………からね。意思の確認は………ようなのだよ。すな……ね、手間取らせて。……さっそ……が始めさ……もらう。≪我らが契約に従い、汝が魂を変えよ≫』
その一言で、トールの視界が一気に暗闇に包まれた。
外部の様子は一切確認できず、ただただ頭の中に音声だけが響く。
…外部よりアクセス確認……保護プログラム作動
………第一障壁突破、コアシステム保護のため強制遮断実行
……エラー、強制遮断中止…第二障壁突破
………………コアシステムにアクセスを確認、強制排除、排除、排除、排じょ、はい除、はいじょ、ははいじょ、ハハハイイジョジョ……
………システム、正常を確認、これより改変を開始します
その音声が流れ終えた途端、トールに激痛が走る。
この世界に来てからはほとんど痛みと関係のない生活を送ってきたトールには、一瞬で意識を手放させるものであった。しかしすぐに痛みで覚醒し、それが何度か繰り返される。
「が、アギ、あアアぁァ!!」
意味の無い叫びが口から洩れる。
ないはずの頭、首、胸、腰、心臓、内臓、腕、手、指、腿、足。
トールはそれらが捻じられ、引き千切られ、バラバラにされたうえでくっ付けられるような感覚を覚える。
『契約は完了した。これより君は魔力を生み出す能力を手に入れるだろう。そうだな、差し詰め彼のネーミングセンスを借りて、≪道化師の嘲笑≫とでも名付けようか』
トールが全身バラバラにされる痛みに耐えている最中に、そんな音声が聞こえてくる。だがそれらをトールは理解することが出来ない。
『さて、私の要件はこれで終わりだよ。君が初の成功例をなってくれることを期待する』




