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杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト48

 

 霧が晴れ、トールが突進してくることを見た獅子型ゴーレムは、それを体当たりで迎え撃とうとする。

 それをトールは横に飛び、メイスによる一撃を背に加える。それは今まで通りほとんど効果を及ぼさないが、トールは気にせずに攻撃を続ける。目的は狙いを引き付けることだ。


「ナーリャ!」


「うん!」


 今度は顔面を殴りつけると、トールはナーリャを呼び自分は飛び下がる。

 トールから声をかけられたナーリャは、手に持っていた冷気の筒を獅子型ゴーレムに向かって投げつけた。

 獅子型ゴーレムは、トールによって顔を殴られてそれを避けきることが出来ない。そのまま丁度赤熱している腕に当たった筒は、先ほどと同様急速に氷が発生し、その赤くなった腕を冷やす。

 またしても水蒸気が大量に発生するが、トールはお構いなしとばかりに殴りにかかる。この状況、ナーリャ達が獅子型ゴーレムに脅威と判断されかねない。

 それを少しでも払拭するため、トールは率先して獅子型ゴーレムに突っかかっていった。


「おお!!」


 立ち込める霧の中、トールは数度殴りそれと同じ数だけ外す。しかし自分へと注目させるために、攻撃の手は緩めない。

 獅子型ゴーレムも自身の腕に這い寄る氷を剥そうとせず、トールへと攻撃を開始する。腕を振るい吹き飛ばそうとして来る腕を、トールは回避し、受け止めながらも攻撃を続行する。


「リューナ!」


「はい!」


 トールは霧が少し晴れてきたタイミングで、今度はリューナに合図を送る。

 その合図に従って、リューナは手に持っていた冷気の筒を獅子型ゴーレムに向かって頬り投げた。

 ナーリャが投げた冷気の筒は、その動作をすでに停止して氷を発生させていなかったが、追加で投げられたそれが代わりに獅子の腕を冷却し始める。

 そして新たに発生した水蒸気の霧の中、トールは再度獅子型ゴーレムに向かって攻撃を始めた。


「このままいけば、近いうちに魔力切れを起こすはずです。そうすれば……」


 リューナが光明を見出して、霧の中で戦っているトールのうっすらとした影を追っていると、ふと違和感を感じる。戦っている獅子型ゴーレムのシルエットにだ。


「なにか、なにかがおかしくないですか?」


 リューナの声で、戦いを見ていた他の面々も注視し始める。霧で良く見えないが、戦っているトールのゴーレムと、それと同様の大きさを持つ獅子型ゴーレムの影が見え隠れしている。


「え? なんか、大きくない?」


 それに気が付いたのはナーリャだ。

 獅子型ゴーレムは犬型のゴーレムより大きいとはいえ、高さはトールの3分の2程度であったはずである。それが今見てみると、その高さはトールと同様になったおり、そして全体的に大きくなっているように見えた。


「大きく? そんな馬鹿な……」


 リューナがナーリャの言葉を聞いて、より一層確認しようとすると、霧の中からトールのゴーレムが吹き飛ばされて出てきた。


「トール!」


「トールさん!」


 二人がその光景を目にし、思わず叫ぶ。

 飛ばされたトールは一旦倒れこむが、すぐさま上体を起こしてナーリャ達に手を向ける。


「大丈夫だ。大丈夫なんだが……」


 トールは立ち上がり、獅子型ゴーレムが中にいる霧へと対峙するが、中へは入っていかない。

 そうしていると、霧が徐々に晴れてくる。そして覆い隠していた獅子型ゴーレムの影も明確になってきた。


「うわ、まじっすか」


「これは……」


「嘘、こんなの……」


「卑怯もいいところですね……」


 後ろで待機していた少女たちが次々と声を漏らす。

 霧が晴れて顕わになった獅子型ゴーレムの姿は、その前の元と一変させていた。

 接触はしていた各関節部は離れ、大きく隙間を作っている。手の部分が地面へと触れ、その先にあるはずの腕の部分は空中に浮いている。

 胴体も胸の部分と腰の部分が離れており、頭もまた胸部から少し離れたところで浮かんでいる

 そうして各関節に空間を設けた形状になり、獅子型ゴーレムはその体をさらに大きくしたようになっていた。


「避け辛くなったと思ったら、これかよ」


 トールも霧の中で戦っている時は全身を見ることが出来ずに、何が起こっていたのか把握しきれていなかった。しかし徐々に攻撃範囲が広がり、回避が困難になってきたことで一撃を受けて吹き飛んだのである。

 ただ幸い、と言っていいかはわからないが、先ほどまで赤熱していた腕は元の鈍色に戻り、その温度は上がっていないことを告げていた。


「カルン、頼む!」


「了解っす!」


 トールは厄介であった高温の腕が冷えたと判断し、カルンに参戦を呼びかける。カルンもまたその声に従って、トールの横へと飛び出した。


「ナーリャとリューナは引き続き冷気の筒で攻撃を仕掛けてくれ。冷えた今なら、凍らせることが出来れば、動きを阻害できる。イオンはなんか威力のでかいのを叩きつけてくれ」


 トールに指示に、それぞれ了解と言って戦闘が再開される。

 最初と同じ、トールとカルンが前へでて獅子型ゴーレムを押さえつける。その後ろからナーリャとリューナは冷気の筒で凍らせようとし、イオンは始めに使っていた鉄の槍を生み出す呪文で攻撃していった。

 対する獅子型ゴーレムも、その大きくなった腕を振り回しトールとカルンを追い払おうとする。それらの行動を見つつ、ナーリャ達は冷気の筒を獅子型ゴーレムに向かって頬り投げる。

 それによって生み出された氷は、獅子型ゴーレムの腕や胴を氷つかせるが、若干の動きが阻害された程度で獅子型ゴーレムはトール達に攻撃を続ける。


「vawJ tte iuC ZUpax aysoiphU ZUpax bnSJGui HOYmaodJ wksyAr」


 呪文を唱え終え、鋼の槍を生み出したイオンは、発射のタイミングを見計らっている。そして丁度獅子型ゴーレムの左腕をトールが、右腕をカルンが抑えたとき、イオンはそれを発射した。

 放たれた鋼の槍は、獅子型ゴーレムの頭目掛けて突き進んでいく。しかし命中直前になって獅子型ゴーレムは、頭を動かした。

 頭に命中しなかった鋼の槍は、そのまま胸部へと命中する。するとバギンと音を鳴らし弾かれたものの、その胸部を真っ二つに割ることに成功していた。


「よっし!」


 初めてと言っていいような、その明確なダメージにトールは歓声を上げる。しかしすぐさま気を引き締めさせられた。

 割れた胸部は、隙間を作りながらもそのままの位置で浮かんでいたのだ。


「ああ、こりゃあ、まあ……」


 なんと言っていいか判らず、トールは意味のない言葉を吐く。

 胸部が割られた獅子型のゴーレムは、その動きに何の変化もさせないままに、腕を抑えていたトールを持ち上げ地面へと叩きつける。


「ぐっ!」


 トールはさすがにそのまま地面への叩きつけられるのはまずいと判断し、≪守護者の巨人≫によるフィールドで自分のゴーレム本体を守る。

 光る膜に覆われ、その衝撃を何とか防いだトールは、すぐに立ち上がるとメイスにて獅子型ゴーレムを殴りつけて腕から逃れる。


「大丈夫っすか、杖の兄さん?」


「ああ、問題ない」


 反対側の腕を抑えていたカルンは、すぐさま腕から飛びのいて投げられないようにしていたようで、すぐにトールの傍にきた。


「リューナ、この状態って魔力相当消費するはずだよな?」


「はい、そのはずです。そのはずなのですが……」


 トールに問われリューナは答えるも、その様子は自信がなさげのものであった。

 不安に思ったのか、リューナはナーリャの方を見るが、彼女もまた同じ考えて頷いている。


「だよな。なんなんだ、一体」


 トールも疑問に思いながら、それでも獅子型ゴーレムへの攻撃をやめるわけにもいかずに向かっていく。

 メイスで殴り付け、腕を吹き飛ばしてもすぐさま元の位置へと戻る。多少攻撃で傷が出来ているが、それも動作を停止するまでには至っていない。

 繰り返し攻撃をカルンと共に行っているが、致命打には程遠い状況である。


「何か、いい手は……」


 トールは若干の焦りを覚えながらも、必死に攻撃を繰り返しながら考える。

 そして、獅子型ゴーレムの攻撃を受け止めたときにそれは起こった。


「え?」


 トールは思わず間抜けな声を出す。視界が目まぐるしく変わり、今まで見ていた獅子型ゴーレムではなく、地面がすぐ目の前に見えている。


「トール!?」


 離れた場所からナーリャが叫ぶ声が聞こえる。

 自分が倒れたとトールが認識したのは、一瞬間をおいてからのことだった。


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