杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト47
「平気か?」
「大丈夫っす。助かったっすよ、杖の兄さん」
トールはカルンの安否を確認してからメイスを構え直すと、獅子型ゴーレムの方へと体勢を向ける。右の手にはメイスを持っていたが、反対の手に散弾銃もどきは持っていなかった。犬型ゴーレムに足止めをされている最中、戦闘で暴発して壊れてしまっていた。
「カルンちゃん、大丈夫!?」
少し離れたところから、イオンの声が掛けられる。それにカルンは手を振って自分が無傷であることをアピールする。
「さて、それじゃあカルンはこれを使ってくれ」
トールはカルンに持っていたメイスを渡す。あの赤熱した獅子型ゴーレムに対し、人間が素手で戦うのは無茶だと判断したのである。
カルンはそれを快く受け取り、何度か振ってみて感触を確かめる。
「ちょっと苦手っすけど、贅沢は言ってられないっすね。杖の兄さんはどうするっすか?」
「まだ一つあるから大丈夫だ」
トールは収納スペースに収められている袋をもう一つ取り出し、それを破いて収められていたメイスを取り出す。これで持ってきた武器類は最後である。
メイスを持った全身鎧の大男風と少女という、ある意味奇妙な二人組は、獅子型ゴーレムに向かって対峙する。
獅子型ゴーレムは、先ほど腕を吹き飛ばされたことに警戒をし、トール達を中心にゆっくりと歩きながら様子をうかがっているようであった。
「とりあえず殴りかかるのがいいっすかね?」
「まあ、それしかないんだろうなぁ。一応最終兵器は持っているが、ロマンだしな。正常に動くかも怪しいし」
「? まあいいっす。それじゃあ行くっすよ、兄さん!」
カルンはメイスを両手持ちにし、獅子型ゴーレムへと向かって走っていく。それに合わせるような形で、トールもまた獅子型ゴーレムに向かっていった。
対して、獅子型ゴーレムはその真っ赤に熱した腕で迎え撃つ。突進してきたカルンに腕を振るいけん制し、あとからやってきたトールには体当たりを仕掛ける。
カルンは獅子型ゴーレムの腕をかいくぐりながら頭を積極的に殴りにかかる。トールは体当たりによって吹き飛ばされるも、すぐさま起き上がって、これまたメイスで殴っている。
カルンは獅子型ゴーレムの攻撃をすべて回避し、トールはその自身の頑強さを武器に真正面から受けていた。
そうして獅子型ゴーレムの攻撃を捌きながらも、少しづつ攻撃を加えていく。だが各部へのメイスの攻撃も、獅子型ゴーレムへの致命打とはならない。
命中するたびに甲高い金属音を鳴らしてはいるが、そのゴーレム特有の機能、各部ごとが接続されていないため衝撃を逃がしてしまう。
腕に当たれば腕が取れ、頭に当たれば頭が取れて、そしてすぐさま元の位置へと収まってしまう。そして赤熱した前腕で攻撃を仕掛けてくるのだ。
「こりゃあきついな」
何度も殴っているが、なかなか手ごたえが感じられない。こんな構造のゴーレムは通常魔力消費が激しく、すぐにでも切れそうであるがその様子も感じられなかった。
「ハァ、ハァ。ちょっちまずいっすね」
敵の攻撃をすべて回避しているカルンであるが、さすがに息が上がってきている。
獅子型ゴーレムの腕から繰り出される攻撃は、触れただけでも致命傷となりかねない。そのためカルンは回避に大きく余裕を持たせていた。そのため動作量も大きくなり、余分にスタミナを減らすことになっていったのだ。
「vawJ eItc SmcC vawn ShGpyI WC yApx gmgrzv HmaosJ AsgS yAr」
トール達が苦戦をしていると、後ろから呪文が聞こえてきた。そしてそれが終わると、今度は氷の槍が数本、獅子型ゴーレムに向かって飛び出していった。
トール達に集中していた獅子型ゴーレムは、それを避けることが出来ずに赤くなっている前腕に命中させる。そして氷は触れた瞬間に、ジュワという音と共に一気に水蒸気と化していった。
「おわっ!」
「うおっす!」
その光景にトールとカルンは叫びながら獅子型ゴーレムと距離を離す。
水蒸気の煙に覆われた獅子型ゴーレムは、トール達を追いかけることをせずに煙に向かって腕を振っていた。
「トール、大丈夫!?」
「トールさん、平気ですか!?」
声が聞こえてきた方向へトールが振り向くと、そこには呪文を唱えたであろうイオンと、その横にナーリャとリューナが立っていた。
「馬鹿! どうして出てきた!」
トールは思わず怒鳴り声をあげる。いままでトールが戦っていたのは、ナーリャにお願いされたというのもあるが、危険を引き付けるためである。ナーリャとリューナ、この二人を守るためというのが一番の理由なのだ。
なのに、その二人が前線に出てきてしまえば、トールの目論見は全くの無意味になってしまう。
「だって、トールが心配だから……」
「だからって出てきたら危険だろ! いいから戻れ!」
トールは獅子型ゴーレムの方へと向き直す。それはまだ発生した水蒸気によってこちらを見失っており、腕を振って煙を晴らそうとしていた。
「そうはいいますが、トールさん。決めてが欠けているのでしょう? あとそんなに怒鳴らないで下さい」
怒鳴るトールに対して、今度はリューナが冷静な声色で話しかける。その手には筒状の物が握られていた。
「いいですか、トールさん。あれはかなり厄介です。仮にトールさんたちが抜けられると、被害は甚大になるでしょう。そうなる前に、さっさと仕留める必要があります、よねっ!」
リューナは手に持っていた筒を水蒸気と戯れている獅子型ゴーレムに対し投げつける。
それに気が付いたゴーレムは、その筒を爪で迎撃しようとする。
「ですから、力を合わせる必要があるんです」
筒が壊されると同時に、リューナはつぶやく。
獅子型ゴーレムは爪によって破壊された筒は、一瞬青白い光を発光し、そしてその光はその姿を氷へと変化させた。
赤熱した獅子の腕を覆うように、その氷は広がっていく。氷と腕が接触している箇所からは、大量の蒸気が発せられさらにあたりを水蒸気で包んでいった。
「冷気の筒です。魔力を込めると一定時間の後急速に冷却することが出来ます。今回のは少し改良してあって、氷を発生させるんです。そしてあの熱量を発生させるにはかなりの魔力が必要。冷やしてやれば、それなりに魔力を消費させることが出来るはずです」
トールはあっけにとられていた。そして水蒸気でほぼ見えなくなった獅子型ゴーレムの方へ向けていた視線を、ナーリャとリューナの方へと向ける。
「まったく、自分でゴーレムを作っておいて、重要なところを見逃してるんだから。後、怒鳴ったことは忘れないからね、トール」
ナーリャも少し怒った顔をしてトールの事を見ている。その手には、先ほどの筒が握られていた。
「だからあの熱くなった腕を冷却しちゃえば、あのゴーレムもそんなに長く動けないでしょ? 仮に熱くなくなったとしたら、それはそれとしてカルンちゃんが戦いやすくなるんだからオッケー」
トールは改めて二人を見る。どんなもんだい、とばかりに腰に手を当てて胸を張っているナーリャと、胸の前で腕を組んでいるリューナを。そして、笑いが込み上げてきた。
「く、はは、はっはっはっは! 凄いな、二人とも。それもそうか。いや、俺が悪かった」
トールは守るべき対象として二人を見ている。しかし二人とてただの少女ではない。トールがこの世界に来る前より、その知識を研鑽し、魔導技術という技術を身に着けてきた人間である。たとえトールが異世界の、地球の知識を持っているからと言って、この世界においてはそれが絶対という訳ではない。
科学技術という常識では、一気に冷却するなどとはトールに思いつくのは水をかけたり、液体窒素を使用したりというものである。それらはもちろん準備が必要であり、それが出来ていなければ使えるはずがないと思い込んでいた。しかしここにおいては違う。魔法という超常現象があり、水を作り出したり一気に冷却することもできるわけだ。
トールはそのことを何度も見てきていたが、それらを正確に認識出来てはいなかったのだ。
「常識にとらわれるな、か。やっぱり難しいな」
以前に自分の上司に言われたことを、トールは改めて思い出す。どこででも聞く、良くある言葉であるが、今はそれを実感していた。
「ああ、二人とも。さっさとあれをやっつけちまおうか」
いきなり笑い出したトールを、今度は二人がぽかんとみていたが、その言葉を聞いて笑みを浮かべる。そしてナーリャは手に持っていた筒を構え、リューナはカバンに入っていた筒を新たに手に持った。
「うん、やっつけちゃおう、トール!」
「ええ、やってしまいましょう!」
二人の掛け声とともに、獅子型ゴーレムを纏っていた水蒸気の霧は薄れ始める。
先ほど冷気の筒で冷却していた腕には氷はないが、それでも赤みは小さくなっているように見える。
「カルンは一旦下がっていてくれ。俺が前に出てあいつの動きをとめる。ナーリャとリューナはさっきの筒で攻撃を仕掛けてくれ。イオンは魔力が戻ると同時にさっきの魔法を頼む」
「ういっす、了解。ちょっと下がらせてもらうっす」
「分かりました。多少は魔力が戻ってきているので、すぐに行けます」
トールの言葉通り、カルンは一旦後方のイオンの元まで下がる。トールは霧がはれてこちらに気が付いた獅子型ゴーレムへと向かう。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
メイスを片手に、トールは獅子型ゴーレムに突っ込んでいった。
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